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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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21/130

21:盗賊襲来(初外圧)

異変は、音より先に「気配」でやってきた。


森の縁、夕暮れの陽光を遮るように立ち並ぶ木々の間。そこだけ風の流れがわずかに乱れ、鳥たちの囀りが不自然に途絶えた。

平和に慣れ始めた村の空気に、一滴の毒を垂らしたような、鋭利な殺気が混じる。


「……お出ましだ。招待状もなしに、随分と騒々しい足音だな」


見張り台のすぐ下で、エルダ・ヴァルグレイが低く呟いた。その声は地を這うように静かだったが、周囲にいた防衛班の若者たちを戦慄させるには十分な威圧感を含んでいた。


「東の森に人影! 複数、こちらに向かってきます!」

見張り台の若者が、訓練通りに、しかし声を震わせながら報告を上げる。


村の空気が一瞬で、薄氷を踏むような緊張感へと塗り替えられた。

だが――。


「よおし、野郎ども! 待ちに待った『村の防犯訓練・実戦編』の開始だぜ! 足が震えてるのは、武者震いってことにしといてやるから、さっさと持ち場につけ!」


カイゼルが広場の中央で、いつものように底抜けに明るい声を響かせた。

その陽気さに、パニックになりかけていた村人たちの視線が集まる。彼は不敵な笑みを浮かべ、まるでこれから祭りが始まるかのように軽やかに指を鳴らした。


「混乱するなよ。俺たちの仕事は、昨日までと何も変わらねえ。『決められた通りに動く』。それだけだ。エルダ、現場監督ディレクターをお願いするぜ!」


「……防衛班、位置につけ。盾役は前、バレット役はその後ろだ。呼吸を乱すな。敵は獣じゃない、言葉の通じる『最下層の屑』だと思え」


エルダの冷徹な号令。

農業班は家に入り、加工班は資材を守り、防衛班は村の入り口を固める。

カイゼルの作った「役割」が、有事において巨大な防壁へと姿を変えていく。


カイゼルは広場の中心にどっしりと立ち、目を細めた。

「鑑定」

(……十二人。装備はボロボロ、腹を空かせた野良犬の集まりだな。だが、追い詰められた犬は一番よく噛む。油断は禁物だぜ)


「狙いは食料か、あるいは人か。……どっちにしろ、この村の輝きが外から見え始めた証拠ね」

マリナが扇子で口元を隠しながら、カイゼルの隣に立った。その瞳には恐怖はなく、むしろ「招かれざる客」を値踏みするような冷徹な計算が宿っている。


「ははっ、有名税ってやつだ。マリナ、お前さんの商売の噂が広まる前に、こいつらには『この村の敷居は高い』ってことを骨の髄まで教えてやらなきゃな!」


やがて、森の闇を割って、汚れた革鎧に身を包んだ男たちが姿を現した。

彼らは整然と並ぶ村の防衛班を見て一瞬足を止めたが、すぐに下卑た笑い声を上げた。


「おいおい、見てろよ。ただの農村だと思ってたら、子供がおもちゃの銃を構えてやがるぜ!」

「ツイてるな。これだけ小綺麗にしてる村なら、酒も女もたっぷりありそうだ」


先頭の男が前に出る。威圧するように、錆びた剣を地面に引きずりながら。

だが、対峙する村の若者たちは、一歩も引かなかった。

膝は笑い、拳は白くなるほど握り込まれている。しかし、隣には仲間がおり、背後にはエルダが、そして中央にはカイゼルがいる。その「仕組み」への信頼が、彼らをその場に留まらせていた。


「止まれ」

エルダが一歩だけ前に出る。

「ここから先は、この村の『私有地』だ。許可なく踏み込む者は、不純物として排除する」


「あぁ!? 減らず口を叩く女だ。お前ら、まとめて組み敷いて――」


「今だ」

カイゼルが小さく、しかし通る声で呟いた。


エルダの手が、鋭く振り下ろされる。

「撃て!」


ドォォン! と一斉に放たれたのは、殺傷力を抑えた「制圧用」の弾丸だった。

カイゼルがリナと共に調整したウォーターバレットが、先頭の男たちの足元の地面を粉砕する。

「なっ……!? 水だと!?」


泥が跳ね、視界を奪う。そこへさらにソイルバレットが追撃した。

地面が意志を持っているかのように盛り上がり、盗賊たちの足を絡め取って固定していく。


「動けねえ! なんだこれ、土が……!」


「おっと、足元のマナーがなってないぜ、諸君! 泥遊びがしたいなら、あっちの川まで飛ばしてやろうか?」

カイゼルが愉快そうに叫ぶ。


狼狽える盗賊たちに、ウィンドバレットの衝撃波が叩きつけられた。

直撃はさせない。だが、その風圧だけで彼らの戦意を削ぎ落とすには十分だった。


「化け物か……この村、魔法使いがいやがる!」

「引け! 勝ち目がねえ!」


統率のない盗賊たちは、一度「未知の力」に晒されると、雪崩を打つように崩れ始めた。

一人が焦ってエルダに斬りかかるが、彼女はそれを最小限の動きで回避し、剣の腹で男の顎を叩き上げた。


「……遅い」

崩れ落ちる男の喉元に、エルダの冷たい刃が突きつけられる。

その一瞬で、戦いは終わった。


「撃つのを止めろ。深追いはするな」

エルダが冷静に制止する。興奮して引き金を引き続けようとする若者の肩を叩き、彼女は静かに状況を掌握した。


「怪我人は?」

「なし! 盾の表面に傷がついただけです!」


「……よし。合格だ」

エルダのその一言で、若者たちの顔に、安堵と、何よりも「自分たちで守りきった」という誇らしい色が浮かんだ。


カイゼルが倒れた盗賊たちを覗き込み、いつものように肩をすくめる。

「さて、軍曹。こいつら、どうする? 肥料にするには、ちょっと性格が腐りすぎてるようだが」


「縛って放り出せ。殺すほどの手間をかける価値もない。……ただし、この村に手を出せばどうなるか、その身に刻んでからだ」


リナが救急キットを持って現れ、村人たちの無事を確認して回る。

「ふん、薬を無駄にさせなくて助かったわ。次は、もっと『効く』麻痺毒でも開発しておきましょうか?」


「ははっ、リナ先生は相変わらず過激だねえ! だが、それがいい。毒も薬も、使い道次第だ!」


夕方、村は再びいつもの平穏を取り戻していた。

だが、その平穏の「質」は、朝のものとは全く違っていた。


「俺たち、守れたんだな。あんな怖そうな連中相手に」

「仕組みのおかげだ。俺は盾を構えてるだけで、横からあいつが撃ってくれた」

「一人じゃ無理だった。でも、みんなで回せば……」


若者たちが、焚き火を囲んで語り合う。

カイゼルはそれを見て、満足げにスープを啜った。


「どうだ、エルダ。強大なカリスマがいなくても、仕組みがあれば村は勝てる。これが俺の求めていた『守れる村』の形だ」


「……認めよう。個人の勇気ではなく、全体の『循環』で外圧を跳ね除けた。お前のやり方は、どこまでも合理的だな」


マリナが静かに近づき、逃げ去った森の方向を見据えた。

「これで噂は広まるわ。あの村には手を出せない、と。……それは商売において、最高の護身術になるのよ、カイゼル」


「そうなることを祈ってるぜ。次は、あいつらがもう一度来るなら、盗賊としてじゃなく、労働力として雇ってやるくらいの度量を見せてやりたいもんだな!」


灯りの魔道具が、今夜も村を優しく照らし出す。

初めての外圧を跳ね除けた村は、もう「奪われるのを待つだけの集団」ではなかった。

自らの役割を知り、互いを支え、未来を自分たちの手で守り抜く一つの「意志」となっていた。


「さあ、明日は壊れた盾の修理と、防衛ラインの再点検だ! 止まる暇なんてねえぞ!」


カイゼルの明るい笑い声が、夜の静寂に響く。

村はまた一歩、強く、深く、その根を大地に下ろしていた。

奪わせない。停滞させない。

その決意と共に、村の歯車はさらに高速で回り始める。

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