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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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13:簡易住居補修

空はまだ抜けるように青かった。

しかし、風が運んでくる湿り気と、遠くで羊の群れのように形を変える雲の流れを見れば、数日以内にこの村を激しい雨が叩くのは火を見るより明らかだった。


カイゼルは村の中央、広場にどっしりと立ち、周囲の家々を見渡した。

屋根は長年の風雪で歪み、壁には拳が入るほどの隙間があり、床は地面の湿気を吸って不気味に沈みかけている。これまでこの村が崩壊を免れていたのは、ただ「運良く崩れていなかった」だけ。そんな薄氷の平穏に、空が終わりを告げようとしていた。


「おーい、全員注目! 空の神様が『そろそろ水浴びの時間だぞ』っておっしゃってるぜ! だけど悪いな、俺はびしょ濡れで寝るのは御免なんだ!」


カイゼルの陽気な声が広場に響き渡る。その明るい響きに誘われるように、村人たちが次々と集まってきた。ここ最近のカイゼルの「魔法のような改革」を目の当たりにしている彼らの動きは速い。


「カイゼルさん、今度は家を直すのか? さすがにこの数で、雨が降るまでに全部は無理だろ」

「資材だって、まともな木材なんて山ほど切り出さなきゃならないし……」


「ははっ、心配すんな! 俺の辞書に『無理』って言葉はない。載ってるのは『うまいメシ』と『快眠』だけだ!」


カイゼルはそう言うと、傍らに置いていた革箱から一枚の板を取り出し、地面に置いた。


「いいか、一気にはやらない。一気にやろうとするから心が折れるんだ。まずは優先順位をつける! 崩れそうな家が先、次に雨漏り、最後に壁の補強だ。この『振り分け』さえ間違えなきゃ、雨が来る前に全員が乾いたベッドで寝られるぜ!」


「でも、資材はどうするんだよ? 木が足りないだろ」


「木? そんな贅沢品は骨組みだけで十分だ! 今日は大地つちの恵みを最大限に活用させてもらうぜ。土と石! これが最強の防壁になるんだよ!」


カイゼルは力強く地面を叩いた。その表情には、どんな困難も「面白い遊び」に変えてしまうような不敵な笑みが浮かんでいる。


「やることは簡単だ! 土を掘り、石を運び、混ぜる。エルダ、現場監督を頼むぜ! お前の鬼のような鋭い視線で、手抜きする奴をビシビシしごいてやってくれ!」


「……言われずとも。いいか、作業班を分けるぞ。力自慢は崩れかけの家の解体と土運び。手先の器用な奴は隙間を埋める補修班だ。子供たちは石拾い! 一人として遊んでいる暇はない、動け!」


エルダの鋭い号令とともに、村全体が巨大な建設現場へと変貌した。


カイゼルは一軒の、今にも土に還りそうな家の前に立った。

鑑定――構造の欠陥が、透視図のように頭の中に浮かび上がる。


「おっと、ここはもう限界だな。よし、お父さん、ちょっと失礼するぜ!」


カイゼルが指先で壁の急所を軽く突くと、ボロボロだった壁が「ガラガラ」と音を立てて崩れ落ちた。


「うわあぁっ!? カ、カイゼルさん、何てことを!」

住人の男が真っ青になって叫ぶ。


「ははっ、驚かせて悪かったな! だけどな、腐った根っこを残したまま花を咲かせようとするのは二流のやり方だ。壊した方が、新しく作るより十倍速いんだぜ!」


カイゼルは即座に土属性の魔力を発動させた。

崩れた土の粒子を操り、空気を抜きながら超高圧で締め固めていく。

「いいか、見てろよ! 土はな、ただ盛るんじゃねえ。圧をかけて『対話』するんだ。こうして石を芯に入れて、ギュッと締めれば……ほら、大理石より頑丈な壁の出来上がりだ!」


魔法によって圧縮された土壁は、鈍い光沢を放ち、叩けば金属のような高い音を立てた。


「……すげえ。こんな短時間で、壁が組み上がった」


「見惚れてる暇はないぞ! お前たちは二人一組でやれ。一人が形を作り、もう一人が圧をかけて固める。役割を分ければ、速さは二倍、楽しさは三倍だ! 失敗したら俺が笑い飛ばしてやるから、思い切りいけ!」


カイゼルの明るい叱咤に、村人たちは半信半疑ながらも手を動かし始めた。

隣の家では、屋根の上に立ったエルダが容赦なく腐った藁を放り投げていた。


「そこ、黒ずんでいる。全部剥がせ。中途半端な妥協は命取りになるぞ!」


「全部ですか!? 降りる場所がなくなります!」


「飛べ。それくらいの気合で屋根を守れ!」


エルダの厳格な指導の下、男たちは必死に屋根の骨組みを補強していく。下からはカイゼルが的確なアドバイスを飛ばす。


「屋根に土を使う時は、表面だけ魔法で焼き固めてセラミック状にするんだ! 水を弾いて、中は軽い。これぞ『ハイブリッド屋根』だぜ!」


一方、家の中ではリナが床下の湿気を確認していた。


「ここ、水が溜まっていて腐敗が進んでいるわ。このままじゃ住んでいる人の肺が悪くなる」


「お任せあれ、先生! 水の流れを作るのは俺の得意分野だ!」


カイゼルが床に手を当てると、土の中に「水の道」が形成され、溜まっていた汚水がスルスルと屋外へ排出されていった。

「仕上げに、湿気飛ばしの熱風ドライヤーだ!」


温かな風が室内を吹き抜け、染み付いていた不快な匂いと湿り気が一気に霧散する。


「……快適ね。これなら病原菌の増殖も抑えられるわ。カイゼル、あなたの魔法は、本当に『生活』を救うためにあるのね」


「ははっ、格好いいこと言ってくれるねえ。俺はただ、美人と美味しい酒を飲む時に、服がカビ臭いのが嫌なだけさ!」


夕暮れが迫る頃、村の景色は劇的に塗り替えられていた。

かつての「崩れかけの廃村」のような佇まいは消え、そこには力強い土壁と、整然と並んだ屋根を持つ「砦」のような住居群が並んでいた。


「……できた。本当に、間に合っちまった」


誰かが、新しくなった自分の家の壁を撫でながら呟いた。

隙間風の鳴らない部屋。雨を恐れなくていい屋根。沈まない床。

それは、彼らが忘れていた「安らぎ」という名の贅沢だった。


灯りの魔道具が点り、修理された家々が柔らかい光に包まれる。


「……いいな。家がしっかりしていると、村全体がどっしり構えているように見える」

エルダが、汗を拭いながら満足げに言った。


「だろ? 帰る場所が安心できる場所なら、人は外でいくらでも戦える。守りが固まってこそ、攻めの『流れ』が生まれるのさ」


カイゼルは広場の真ん中で一息つくと、空を見上げた。

雲は厚くなり、風は冷たさを増している。数時間後には、約束通りの雨が降るだろう。

だが、今の村に怯える者は一人もいない。


「戦わずに守る。これが俺流の勝利宣言だぜ!」


カイゼルが笑うと、隣に座ったエルダも小さく、しかし確かに笑みを浮かべた。

「……お前のその、適当に見えて完璧な計算。嫌いじゃないと言ったはずだ」


雨が降り始めた。

屋根を叩く水音は心地よく、隙間一つない壁は冷気を完全に遮断している。

温かいスープの香りが、新しく直された家々から漂ってくる。


村はまた一つ、強くなった。

ただの生存場所から、誇りを持って住める「家」へと。

カイゼルの明るい声が、雨音に混じって、明日への希望を歌い続けていた。

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