表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/150

107:流通遮断 外部商人が取引停止

その知らせは、あまりにも静かに届いた。


「……止まったわね」


レイナが短く言う。


いつもの軽い口調だが、声の奥が違う。


村の外れ。


交易路の入口。


本来なら、荷車が列を成す場所。


だが――


今日は、何も来ない。


風が吹くだけだ。


「遅れてるだけじゃないの?」


近くにいた村人が言う。


レイナは首を振る。


「違う」


「“来ない”」


言い切った。


その言葉は重い。


だが、騒ぎにはならなかった。


畑では収穫が続いている。


料理人たちは昼の仕込みをしている。


子どもたちは笑っている。


止まっていない。


村は、いつも通り回っている。


少しして。


マリナがやってきた。


帳簿を持ったまま。


「全部?」


レイナが聞く。


「全部」


マリナは即答した。


「西側も、南側も、東の商会も」


「契約は継続中。でも――」


一拍。


「物は動かない」


意図的な遮断。


誰がやったかは明白だ。


「圧力ね」


マリナが呟く。


「貴族側が流れを止めた」


レイナが鼻で笑う。


「雑なやり方」


「でも効くわよ」


現場の言葉だ。


物流は血管。


止めれば、体は動かない。


それが普通だ。


だが――


「どうする?」


レイナがカイゼルを見る。


カイゼルは少しだけ考える。


だが、前には出ない。


「もう動いてる」


それだけ言う。


意味が分からない顔をするレイナ。


その時。


「遅くなりましたー!」


元気な声が響く。


村の反対側。


小さな荷車が入ってくる。


一台。


そして、また一台。


「……何あれ」


レイナが呟く。


近づいてくるのは――


見慣れない商人たち。


小規模。


個人。


大商会ではない。


マリナの目が細くなる。


「なるほど」


すぐに理解する。


「流れを分散させたのね」


カイゼルは頷くだけ。


説明はしない。


レイナが笑う。


「大商会が止まっても、個人が来るってわけか」


「しかも複数ルート」


「止めきれない」


その通りだ。


一本の太い流れは止められる。


だが――


無数の細い流れは止められない。


村人たちが自然に動く。


「荷物こっち!」


「仕分けはいつも通り!」


声が飛ぶ。


混乱はない。


準備されている。


「……いつの間に」


レイナが呟く。


カイゼルは答えない。


その代わり。


「前からだ」


とだけ言う。


最初から。


止められない構造を作っていた。


その時。


エルダがやってくる。


周囲を見渡す。


「問題ないな」


短く言う。


だが視線は鋭い。


「襲撃は?」


レイナが聞く。


「今のところなし」


「だが――」


一拍。


「来るなら来い」


それだけ。


迷いはない。


村人たちが笑う。


怖がっていない。


理解している。


自分たちで守れると。


リナが近づく。


「薬も足りてるよ」


微笑む。


「保存分もあるし、回復弾もある」


安心の声だ。


料理人が叫ぶ。


「新しい食材来たぞ!」


歓声が上がる。


子どもたちが駆け寄る。


日常は壊れていない。


むしろ――


広がっている。


マリナが帳簿を閉じる。


「面白いわね」


小さく笑う。


「遮断したつもりで、拡張してる」


「情報も同じよ」


レイナが言う。


「止めようとした瞬間、別ルートができる」


「勝手に」


エルダが一言。


「弱くない」


それは評価だ。


最大級の。


カイゼルは村を見る。


動いている。


誰も止めていない。


誰も命令していない。


それでも回る。


「……完成してるな」


ぽつりと呟く。


マリナが横で笑う。


「まだ途中よ」


レイナが肩をすくめる。


「でも、止まらない」


リナが優しく言う。


「いい村だよね」


エルダが短く。


「ああ」


夕方。


また一台、荷車が入ってくる。


知らない顔。


だが、笑っている。


「ここ、噂になってるぞ!」


そう言って。


新しい流れがまた一つ増える。


外は止めたつもりだった。


だが――


内側は、もう止まらない。


そして。


外すら巻き込んで、回り始めている。


カイゼルは一歩引いたまま。


ただ、それを見ている。


手を出さない。


必要ない。


仕組みは動いている。


人が動かしている。


それで十分だ。


「流通遮断、失敗だな」


誰に言うでもなく。


ただ事実として。


村は今日も回る。


明るく。


静かに。


そして、確実に広がっていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ