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『餓死寸前の最弱アバターからのサバイバル料理 ~現実世界での完全栄養食に絶望したので、VRゲームで失われた「本物の味」を再現して夢の食堂を開きます!~』  作者: ゆっきー
第3章:「神様と、黄金の稲穂を求めて」

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第62話:「完全栄養食の敗北と、涙のローストビーフ丼」

「これより、第一回・ワールド美食フェスティバルの判定を開始します」


『始まりの街』の中央広場。

 空中に浮かぶ巨大なモニターから、白スーツのGMゲームマスターの無機質な声が響き渡った。広場を埋め尽くす数万のプレイヤーたちは、固唾を飲んで中央の特設ステージを見つめている。


 ステージの右側には、GMのアバターが立っていた。

 その前には、銀色のトレイに乗せられた無数の『純白のキューブ』が整然と並べられている。


「まずはシステムが提供する『究極の完全栄養食シンセティック・フード』。これを摂取すれば、HP・MP・スタミナのすべてが一瞬で限界値まで回復します。味覚という不要なノイズは一切排除された、最も合理的で完璧なオブジェクトです」


 GMの指示で、前列にいた数人のプレイヤーがキューブを口にした。

 彼らのステータスバーは一瞬で緑色(満タン)に輝き、最高クラスのバフアイコンが点灯する。しかし、彼らの表情に変化はなかった。現実世界で毎日かじっている「味気ないブロック食」と何一つ変わらない、ただの無機質なデータ入力に過ぎないからだ。


「……味気ねえな。腹は膨れたけど、なんも嬉しくねえ」


 一人のプレイヤーがポツリと漏らした言葉が、広場の重苦しい空気を代弁していた。


「さあ、次はあなたの番です、特異点。……非合理な情動を引き起こすバグのデータを、見せてみなさい」


 GMが、ステージ左側に立つレナを指差した。

 レナの後ろには、エド、セリア、ウカ、そしてマーカスたち『夢の食堂』の常連客が、武器を構えて(あるいは箸を握りしめて)仁王立ちしている。


「合理性とか、数値とか、そんなものはどうでもいいの。私が作るのは……みんなの冷え切った心に火をつける、『ご飯』だよ!」


 レナはオリハルコンの巨大な大鍋の蓋を、勢いよく開け放った。


 ゴォォォォォォォッ!!!


 その瞬間、広場の空気が物理的に揺れた。

 鍋の中から火山が噴火したかのような熱波と、太陽の巨獣の肉が放つ暴力的なまでの「香ばしさ」が、中央広場全体に爆発的に広がったのだ。


「な、なんだこの匂いは……ッ!? 匂いだけで、体の奥底からマグマみたいな熱さがこみ上げてくるぞ!?」

「腹が……俺たちの胃袋が、悲鳴を上げてるッ!!」


 数万のプレイヤーたちが、一斉にステージへ向かって身を乗り出した。


「はい、お待たせ! 『太陽の巨獣の極厚ローストビーフ丼・ウカの銀シャリとTKG仕立て』だよ!」


 レナは用意していた数万のどんぶりに、システムをハッキングする勢いの処理速度で次々と盛り付けを行っていく。

 黄金のコカトリスと特製醤油が絡み合った熱々の白米。その上に、薄紅色に輝く極厚のローストビーフを山のように乗せ、熱い肉汁グレイビーソースをたっぷりと回しかける。


「……食うぞ」


 エドの合図と共に、最前列のプレイヤーたちが一斉にどんぶりを受け取り、肉と米を口の中に掻き込んだ。


 ザクッ! ジュワァァァァッ!!


「――ッ!!!」


 広場にいた数千人のプレイヤーの動きが、雷に打たれたように完全に停止した。

 直後、彼らの目から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。


「う、うおおおおおおおッ!! なんだこれはぁぁぁッ!! 噛んだ瞬間に肉が溶けて、中から信じられないほどの『熱』と『旨味』が爆発したぞ!!」


「美味い……! 醤油と卵が絡んだ米が、巨獣の肉汁を全部受け止めてる! 現実世界リアルの冷たい部屋で、俺はずっと……ずっとこういう『温かくて美味い飯』が食いたかったんだよぉぉぉッ!!」


「明日も生きるぞ! こんな美味いもんが食えるなら、絶望だらけの現実でも、絶対に生き抜いてやる!!」


 涙と鼻水に塗れながらどんぶりを掻き込むプレイヤーたち。

 システムが排除したはずの『飢餓感』『歓喜』『生きる意志』。その強烈な情動の波が、VR世界から現実世界の彼らの肉体へと逆流し、巨大なうねりとなってシステムに叩きつけられた。


警告アラート警告アラート。全プレイヤーの情動数値が、システム規定値を3000%超過……。処理……処理不能……ッ!!』


 GMの真っ白なアバターに、再び激しいノイズが走る。

 完璧な栄養と数値だけを誇っていた純白のキューブは、誰の目にも留まることなく、ただのデータとしてステージの隅に転がっていた。


【システム判定:『特異点レナ』の圧倒的勝利】


 数万人の涙と歓声が響き渡る中。

 レナは空っぽになった大鍋の前で、エドたちと顔を見合わせ、心からの笑顔を弾けさせるのだった。

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