第60話:「究極の献立と、太陽を背負う巨獣」
「……システムの完全栄養食に勝つための、究極のフルコース」
夜のログハウス。
ランプの灯りの下で、レナは羊皮紙にペンを走らせながら深く息を吐いた。
「どうするのじゃ、レナ。奴らの作るエサは、味こそ無に等しいが、摂取すれば一瞬でHPもスタミナも全回復する、いわばチート・アイテムじゃ。正攻法の数値だけで勝負すれば、システム側である奴らに分があるぞ」
ウカが心配そうに狐耳を伏せる。
「わかってる。だから、栄養素や回復量みたいな『数値』で勝負しちゃダメなんだよ」
レナは力強い瞳で、エドとセリアを見上げた。
「現実世界のみんなは、あんな味気ないブロック食で管理されて、生きる喜びを忘れてる。だから私たちが作るべきなのは……心臓がバクバクするくらい美味しくて、体が芯から温かくなって、『明日も生きたい』って思えるような……『心を満たす料理』だよ」
その言葉に、エドが静かに笑みを深めた。
「心を満たす、か。……いいだろう。お前のその想いを形にするための、究極の『主菜』は何だ」
「どんな絶望の中でも、お腹の底から闘志と温かさが湧き上がってくるようなお肉。……伝説に語られる、『太陽の巨獣』のお肉が欲しい」
「太陽の巨獣。前人未到の『焦熱の荒野』に棲むという、神話級のボスモンスターだな」
セリアが白銀の剣の柄を握りしめ、立ち上がった。
「システムが作り出した神話の獣だろうと、レナの飯のためならただの食材だ。エド、行くぞ」
「ああ。私の胃袋を脅かすシステムどもに、私たちの『食欲』という名の暴力を教えてやる」
二人の最強の騎士は、レナの想いを背負い、ログハウスから夜の闇へと飛び出していった。
数日後。
活火山がそびえ立つ『焦熱の荒野』の最深部。
マグマが煮えたぎる大地の中心に、山のように巨大な四つ足の獣が鎮座していた。
全身から太陽のような灼熱の炎を吹き上げる、神話級モンスター『太陽の巨獣』である。
「グルォォォォォォォォッ!!」
巨獣が咆哮すると同時に、周囲の空気が発火し、凄まじい熱波がエドとセリアに襲いかかる。
「ふん……熱気だけで肌が焦げそうだ。だがな、こんなもの……レナの作った『熱々のカツサンド』や『地龍のラーメン』から受けた衝撃に比べれば、そよ風にも劣るわッ!!」
エドが漆黒の外套を翻し、正面からマグマの海へと踏み込んだ。
「レナが待っている! お前のその命、余すことなく極上の主菜に変えてくれる!!」
セリアもまた、白銀の閃光となって巨獣の死角へと跳躍する。
彼らのステータスは、レナの『地龍ラーメン』のバフによって、システムが想定した限界値をとうの昔に突破していた。
もはや、ただの強敵との戦闘ではない。これは、彼らの居場所(食堂)を守るための、そして現実世界に食の喜びを取り戻すための『聖戦』だった。
ズドォォォォォォォンッ!!!
焦熱の荒野に、大地を割るような一撃が響き渡る。
レナの料理によって限界を突破した「食欲」の刃が、ついに神話の獣の分厚い装甲を叩き割ったのだった。




