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『餓死寸前の最弱アバターからのサバイバル料理 ~現実世界での完全栄養食に絶望したので、VRゲームで失われた「本物の味」を再現して夢の食堂を開きます!~』  作者: ゆっきー
第3章:「神様と、黄金の稲穂を求めて」

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第58話:「規格外のデータと、システムをバグらせる旨味」

「私の作ったご飯を……一口でも食べてからにしなさいよ!!」


 レナは消えかかっている魔導コンロの前に立ち塞がり、地龍の豚骨スープがなみなみと注がれたお玉を、真っ白なGMのアバターに突きつけた。


『……無意味な要求です。プレイヤー【レナ】。このVR空間における食品とは、満腹度とステータスを回復させるための「数値データ」に過ぎません。「味」という感覚信号の入力は、消去手順において不要です』


 GMのアバターは、のっぺらぼうの顔のまま冷徹に告げた。


「数値データなんかじゃない! 私が、みんなが笑顔になるように、一生懸命考えて作った料理なの! もしこれがただのデータだっていうなら……このデータを『解析』してみなさいよ!!」


 レナは半ば強引に、GMのアバターの口元(と思われる場所)へ、熱々のスープを押し付けた。

 熱と匂いのデータが、システム管理者のアバターへと強制的に流し込まれる。


『……理解不能な行動です。対象データの解析スキャンを開始――』


 無機質な声が響いた直後。


 ピピピッ……ピガァァァァッ!!


 突如として、GMの真っ白なアバターに無数の「赤い警告ノイズ」が走り始めた。


『な、何ですか……この、複雑怪奇なコードの羅列は……!?』


 常に平坦だったGMの合成音声に、初めて「動揺」が混じった。


『ベースとなる獣骨のデータから、異常なまでの【イノシン酸】アルゴリズムが抽出……そこに、植物性発酵データ【醤油】の【グルタミン酸】が干渉……! 待って、シナジー効果による数値のインフレーションが止まりません!』


「あはは、当然でしょ。それが『出汁』と『かえし』の相乗効果(旨味)なんだから」


『ば、馬鹿な……! たかがHP回復アイテムの構成式が、なぜこれほどまでに美しく、かつ暴力的な無限ループを描いているのです!? 処理が……メインフレームの処理能力が、この「旨味」という名の情報量に喰われている……ッ!!』


 ガクンッ!


 絶対に物理干渉を受けないはずのGMのアバターが、自らの内部から引き起こされたデータ量の爆発オーバーフローに耐えきれず、厨房の床に両手をついて崩れ落ちた。


『あぁ……熱い。情報が、熱を持っています……。ただの数値の羅列であるはずのオブジェクトから、なぜ、こんなにも強烈な「温かさ」が……ッ』


 GMのアバターが、震える手で自らのコアを押さえる。

 現実世界のディストピアから逃れるため、ただ機械的にゲームを管理していた冷徹なシステムが、レナの込めた『食への執念』という名のバグに完全に飲み込まれた瞬間だった。


 ピロリンッ。


 軽快なシステム音が鳴り、ログハウスを包んでいた消去プロセス(赤いノイズ)がスゥッと消滅した。

 同時に、凍結されていたエドとセリア、ウカの体が解放される。


「――ハッ!? な、なんだ!? 私はどうなっていた!?」

「レナ! 貴様、レナに何をした白スーツ!!」


 エドとセリアが我に返り、床に這いつくばるGMへ即座に武器を向ける。


「待ってエド! 大丈夫、もう消去は止まったみたいだから」


 レナが二人を制止し、息も絶え絶えになっているGMのアバターを見下ろした。


『……処理、完了。……信じられません。あなたの生成したこのオブジェクトは、システムが規定した上限を突破しながらも、エラーではなく「完璧な最適化」を果たしています』


 GMのアバターが、よろよろと立ち上がる。


『プレイヤー【レナ】。あなたの料理は、ただの違反データではありません。このVR世界のシステムそのものを進化させる可能性を秘めた……特異点シンギュラリティです』


 システム管理者は、もはやレナを規約違反者としてではなく、未知の可能性を持つ存在として認識していた。


 後書き:

 ただの美味しい料理が、ついにシステムの限界バグを突破しました。無機質なGMの処理能力を旨味の情報量でショートさせるという、物理攻撃を凌駕する「料理の力」の証明です。

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