第55話:「前編:黄金のちぢれ麺と、地龍の背骨」
「うーん……やっぱり、お醤油と出汁があるなら、アレを作らないと嘘だよね」
ログハウスの厨房で、レナが腕を組んで唸っていた。
「アレとはなんだ。また新しい肉の調理法か?」
カウンターで巨剣の手入れをしていたエドが、ピクリと反応する。
「ううん、お肉も使うけど……主役は『スープ』と『麺』! 私がずっと食べたかった、究極の麺料理『ラーメン』を作りたいの!」
「ラーメン……? 以前作った、うどんのようなものか?」
セリアが首を傾げる。
「うどんとは全然違うよ! もっと細くて、黄色くて、強烈なコシと風味がある麺! そして、獣の骨を何十時間も煮込んで極限まで旨味を抽出した、暴力的なまでに濃厚なスープが必要なんだよ!」
レナの熱弁に、エドの目がギラリと光った。
「獣の骨を煮込むだと……? 面白い。その暴力的なスープとやらを味わうためなら、どんな猛獣の骨でもへし折ってきてやる。最高峰の素材はなんだ?」
「えっと……普通の豚骨でもいいんだけど、どうせなら一番強くて、旨味が詰まってそうな骨がいいな」
「ならば決まりだ。セリア、行くぞ」
エドが立ち上がり、漆黒の外套を翻す。
「おい、まさか『地龍』の巣へ行く気か!? あそこは推奨レベル80超えの最難関ダンジョンだぞ!」
「だからどうした。究極のスープのためだ」
エドとセリアは、呆れるマーカスたちを置き去りにして、究極の出汁(骨)を求めてログハウスを飛び出していった。
「さてと、二人が骨を獲ってきてくれる間に、私は『麺』の仕込みだね!」
レナは気合いを入れ直し、マーカスが仕入れてきた『太陽の黄金麦(小麦粉)』を取り出した。
ラーメンの麺をうどんと分ける決定的な要素、それは『かんすい(アルカリ塩水溶液)』だ。レナは森の特定の樹木から採取した灰を水に溶かし、自家製のアルカリ水を作り出していた。
小麦粉にその水を少しずつ加え、体重をかけて力強く捏ねていく。
「ふははは! レナよ、なんという力強さじゃ! その生地から、凄まじい反発力を感じるぞ!」
ウカが厨房のカウンターから身を乗り出して見学している。
「でしょ? このアルカリ水のおかげで、麺が黄色くなって、独特の風味と強烈なコシが生まれるの。これを細く切って、手で揉んで『ちぢれ麺』にするんだよ!」
レナが生地を薄く延ばし、包丁で等間隔に切り分け、絶妙な力加減で揉み込むと、見事な黄色いちぢれ麺が完成した。
それから数時間後。
ズズゥゥゥンッ!!
ログハウスの庭に、地響きと共に巨大な物体が投げ出された。
「おいレナ! 獲ってきたぞ。地龍の背骨と大腿骨だ!」
全身を返り血と泥で汚したエドとセリアが、息ひとつ乱さずに立っていた。
その後ろには、トラックほどもある巨大なドラゴンの骨が転がっている。
「すごい……! さすが二人とも! よーし、これで最強のスープを作るよ!」
レナは地龍の巨大な骨をハンマーで砕いて髄を露出させ、特大の寸胴鍋に放り込んだ。そこにネギの代わりの香草と、生姜をたっぷりと加え、ゴルドが作った魔導コンロの最大火力で一気に煮立たせる。
ゴォォォォォォッ!!
数時間後、鍋の中は白濁し、地龍の骨髄から溶け出した暴力的な旨味の成分が、とてつもない匂いとなって厨房に充満し始めた。
「な、なんだこの匂いは……ッ!? 骨を煮ただけで、肉を焼くよりも遥かに濃厚で野蛮な匂いがするぞ!?」
「くっ……早く! 早くそのスープを飲ませろレナ!!」
エドとセリアが、寸胴鍋の前で血走った目をしている。
「まだまだ! ここからさらに煮込んで、特製の『醤油ダレ』と、トッピングの『極厚チャーシュー』を合わせないと完成しないんだから! 今日は徹夜で煮込むよ!」
極上の麺と、地龍の骨から立ち昇る凶悪なスープの匂い。
エドたちはその暴力的な香りに一晩中拷問されながら、究極の一杯の完成を待ちわびるのだった。




