第49話:「黄金のパシリと、伝説のドワーフの胃袋」
数日後の昼下がり。
ログハウスの扉が、控えめに、コンコンとノックされた。
「はい、どうぞー」
「し、失礼いたします、レナ様! 本日は極上の『お代』をお持ちしました!」
扉を開けて入ってきたのは、先日TKGで涙を流して屈服したトップギルドのマスター、マーカスだった。
しかし、その態度は以前の傲慢さが嘘のように卑屈で、両手には巨大な金属の塊を抱えてプルプルと震えている。
「うるさいぞ金ピカ野郎。ワシのような伝説の鍛冶師を、こんな森の掘っ立て小屋に連れてきて、いったい何の真似じゃ」
マーカスの後ろから、不機嫌そうに顎髭を撫でる小柄でずんぐりとした男が現れた。
ドワーフ族のNPC、『始まりの街』で最高の腕を持つとされる伝説の鍛冶師・ゴルドである。
「ふん。また羽虫が一匹増えたか。斬るぞ」
「ひぃぃぃッ!? エド様! セリア様! お待ちください! 今日はレナ様のために、この街で最高の職人を連れてきたのです!」
マーカスが土下座の勢いで金属の塊を床に置き、エドの殺気に平伏する。
「職人さん? ええと、その金属は……?」
レナが首を傾げると、鍛冶師のゴルドが鼻で笑った。
「ふん、小娘。これは『オリハルコンの合金』と『魔導石』じゃ。こいつ(マーカス)がギルドの金庫を空にしてまでワシを雇い、この素材で『究極の厨房設備』を作れと泣きついてきおってな」
「究極の厨房設備!?」
レナの目がパァァァッと輝いた。
石窯と焚き火だけの不便な調理環境が、一気に現代(あるいはそれ以上)の魔法設備に進化する大チャンスだ。
「だがな! ワシは不味い飯を食わせる奴には金庫を積まれても仕事はせん! この金ピカ野郎は『世界一美味い飯』だと言っておったが……こんな森の小屋で、ワシの舌を満足させられるのか!?」
ドワーフのゴルドが、挑発するように腕を組む。
それを見たレナは、ニヤリと不敵に笑い、袖を捲り上げた。
「いいよ。ドワーフさんは、お酒に合う脂っこいお肉が好きだよね? とびっきりのやつを作ってあげる!」
レナはすぐに厨房へ入り、以前エドが狩ってきた『コカトリス』の分厚いモモ肉を取り出した。
それに、醤油、おろしニンニク(森で発見した代用品)、生姜の汁をたっぷりと揉み込み、下味をつける。
ジュワァァァァァッ!!
たっぷりの猪の脂で、衣をつけた肉を二度揚げにする。
厨房に、ニンニク醤油が焦げる暴力的な匂いが爆発した。
「はい、お待たせ! 『コカトリスの特大・極み唐揚げ』だよ!」
ドンッ、と置かれた大皿には、大人の拳ほどもある巨大な唐揚げが山のように積まれていた。
きつね色に揚がった衣からは、熱々の肉汁がジュクジュクと音を立てて溢れ出している。
「……ふん。ただ肉を揚げただけではないか。どれ……」
ゴルドが疑り深い目で唐揚げを一つ掴み、ガブリと噛み付いた。
ザクッ!! ジュワァァァッ!!
「――ッ!!?」
ゴルドの髭が、衝撃で逆立った。
「な、なんだこの衣のサクサク感は……ッ! そして中に閉じ込められた肉汁が、噛んだ瞬間に滝のように溢れ出してきおる! なにより、この黒い汁(醤油)とニンニクの強烈な風味が、肉の旨味を何十倍にも引き上げているではないか!!」
「エールだ! レナ、その肉には冷たいエール(麦酒)が絶対に必要だ!!」
「うむ! 妾も食べるぞ! 唐揚げと銀シャリの組み合わせこそ、至高のデブ活じゃ!!」
ゴルドが叫び、エドが酒を要求し、ウカが白米のお椀を掲げる。
「美味い……美味すぎるぞ小娘ぇぇぇッ!! ワシの負けじゃ! お前の望む究極の厨房、このゴルドが魂を込めて打ってやろう!!」
ドワーフの鍛冶師は、顔を油と肉汁まみれにしながら、唐揚げを両手で貪り食い、涙ながらにハンマーを天に掲げたのだった。
第6章 完




