第44話:「熱狂の宴のあとで、氷点下の甘味を求めて」
「ふぅ……みんな、よく食べたねぇ」
翌朝。
嵐が去った後のようなログハウスの厨房で、レナは大量の白い器を洗いながら満足げに息をついた。
昨晩の大宴会で、シャルルをはじめとする常連客たちは、和定食の旨味に完全にノックアウトされ、幸せそうな顔で帰って(あるいは床で寝て)いった。
「あんな騒ぎは二度とご免だがな。私の剣は、羽虫どもの列を整理するためにあるのではない」
二階から降りてきたセリアが、不機嫌そうに金髪を揺らしながらカウンターに座る。
「まあそう言うな、セリア。レナの飯が美味すぎるのが悪い。……おいレナ、今日の朝飯はなんだ。あの『おにぎり』というやつがまた食いたい」
エドも欠伸をしながら現れ、さっそく食料を要求してくる。
すっかりこの食堂の虜になっている最強の二人を見て、レナはふふっと笑った。
「朝ごはんは、昨日の猪汁の残りに卵を落としたおじやだよ。でもね、その前に相談があるの」
「相談? また新しい飯の素材か?」
「うん。昨日の定食の後、どうしても食べたくなったものがあるんだ。……『アイスクリーム』って知ってる?」
「アイス……? 氷の魔物のことか?」
エドが怪訝な顔をする。
無理もない。肉と硬いパンしかないこの世界で、氷を使った繊細な菓子など存在するはずもなかった。
「違うよ。甘くて、冷たくて、口の中でとろける最高のお菓子! タウロスの乳でも作れるけど、もっと濃厚な『特別なミルク』と『天然の氷』が欲しいの!」
「なるほど! 妾も賛成じゃ! あの熱い宴の後に、氷結の甘味……想像しただけで尻尾が震えるわ!」
パピーの背中で寝ていたウカが、狐耳をピンと立てて飛び起きた。
「というわけで、今日は北の『万年雪山エリア』に行くよ! 狙うは、雪山にしか生息しない『フロスト・カウ』の特濃ミルクと、溶けない万年氷!」
「……おいおい、正気か?」
セリアが頭を抱えた。
「万年雪山は、推奨レベル50以上の超危険地帯だぞ。ブリザードが吹き荒れ、強力な氷属性の魔物がうごめく死地だ。たかが菓子作りのために行く場所ではない」
「えっ、そうなの? でも、エドとセリアなら大丈夫でしょう?」
レナが首を傾げて、純粋な信頼の眼差しを向ける。
「……ふっ。私を誰だと思っている。氷の魔物など、我が白銀の剣で一刀両断にしてくれるわ」
「おいセリア、お前まで乗せられてどうする。……まあいい。その『アイス』とやらが私の舌を満足させるなら、雪山の主ごと狩ってきてやる」
結局、食欲(とレナへの甘さ)には勝てず、最強の護衛二人は重い腰を上げた。
数時間後。
暖かな森を抜け、一行は文字通り肌を刺すような吹雪が吹き荒れる『万年雪山エリア』へと足を踏み入れた。
「さ、寒いですぅ……! レナさん、本当にこんなところに牛さんがいるんですかぁ……?」
ミレが防寒具(厚手の外套)に身を包みながら、ガタガタと震えている。
「うむ……妾の神の鼻が、猛烈な『乳脂肪分』の匂いを捉えておる! この吹雪の奥じゃ!」
ウカのナビゲートに従い、分厚い雪をかき分けて進むと、突如として猛吹雪の中から巨大な影が現れた。
「ブモォォォォォォッ!!」
それは、体長が5メートルはあろうかという巨大な牛の魔物。全身が鋭い氷の結晶で覆われ、吐き出す息は周囲の空気を一瞬で凍らせている。
「出たな、フロスト・カウ! 全身が氷の装甲で守られている厄介な魔物だ」
エドが巨剣を抜き放ち、殺気を膨らませる。
「エド! セリア! お乳の張ってるお腹のところは傷つけないでね! ミルクがこぼれちゃうから!」
レナが吹雪の中で叫ぶ。
「無茶を言う! ……が、造作もない!」
「氷の装甲ごと、中身だけを叩き潰す!」
極寒の地で、アイスクリームへの執念を燃やす最強の二人が、巨大な氷の牛へと襲いかかった。




