第38話:「始まりの街への降臨と、歩く災害たちの買い出し」
「うーん……やっぱり、お米や揚げ物を出すなら、木の器じゃなくてちゃんとした『陶器のお皿』が欲しいなぁ」
ログハウスの厨房で、レナが腕を組んで悩んでいた。
「ならば街へ行くしかないな。ここには石窯はあるが、良質な粘土も釉薬もないからな」
エドが巨剣の手入れをしながら答える。
「街じゃと!? 妾も行くぞ! 人間の街には、屋台という美味い買い食いスポットがあると聞いておるからな!」
ウカがパピーの背中で飛び跳ねた。
かくして、レナの「食器と調味料の買い出し」という名目のもと、とんでもないメンバーでの街への遠征が決定したのだった。
数時間後。
初心者から中級者まで、多くのプレイヤーで賑わう『始まりの街』のメインストリート。
その平和な喧騒は、門から現れた一行の姿によって、一瞬にして凍りついた。
「な、なんだあのプレッシャーは……ッ!?」
「漆黒の外套に、白銀の鎧……! おい、間違いない! ギルドで噂になっていた『絶望の森の幻覚バケモノ』だぁぁぁッ!!」
「なんで街に攻めてきてるんだよぉぉぉッ!!」
通りを歩くプレイヤーたちが、モーセの十戒のごとく左右に割れて道を開け、建物にへばりついてガタガタと震えている。
「……なんだこの騒ぎは。羽虫どもが、私をジロジロと見て不快だ。全員斬り捨てていいか?」
セリアが不機嫌そうに白銀の剣の柄に手をかける。
「ひぃぃぃぃッ!! 目が合ったぁぁぁ!! 殺されるぅぅ!!」
「ストップ! セリア、絶対ダメ! 今日はお買い物なんだから、お店の人を脅かさないでね!」
レナが慌ててセリアの腕を掴む。
最強の死神と女騎士、その後ろには謎の狐耳の幼女(神様)を乗せた巨大な犬。
この歩く災害のようなパーティを率いるレナの姿は、周囲の目には「最凶のモンスターたちを従える、魔王のようなテイマー」にしか見えていなかった。
一行は周囲の悲鳴をBGMにしながら、街で一番大きな商業ギルド(店舗)へと足を踏み入れた。
「い、いらっしゃいまひぃぃぃッ!?」
店番をしていた恰幅の良い商人NPCが、エドたちの放つ圧倒的な殺気に当てられ、カウンターの奥で泡を吹いて倒れそうになる。
「あっ、おじさん大丈夫ですか!? ええと、お皿を買いたいんですけど……その前に、これ買い取ってもらえますか?」
レナはアイテムボックスを開き、ドサリ、とカウンターに素材を積み上げた。
「こ、これは……ッ!? 湿地帯のボスの『大沼主の髭』に、水晶湖の主『クリスタル・ロブスターの装甲』だとぉぉっ!?」
商人の目が、恐怖から一転して商魂の驚愕へと変わった。
どれも、現在のトッププレイヤーたちですら容易には手に入らない、最高ランクのレア素材ばかりだ。
「これだけで……いや、これほどの素材、金貨百枚……いや、二百枚はくだらんぞ……ッ!」
「えっ、そんなに!? じゃあ、そのお金でこのお店にある一番綺麗な『陶器の食器セット』と『お箸』をいっぱいください! あと、お醤油……は、ないかな。何か珍しい調味料とかありますか?」
レナの注文に対し、商人はすっかり揉み手になりながら、店の奥から最高級の白磁の皿や、異国から仕入れたという香辛料を次々と運び出してきた。
「素晴らしい! この白い皿に銀シャリを盛れば、神の飯にふさわしい輝きを放つであろうな!」
「おいレナ。あの屋台で売っている肉串も買っていいか? 匂いは悪くない」
ウカとエドが、手に入れたばかりの金貨を握りしめて目を輝かせている。
かくして、街中のプレイヤーを恐怖のどん底に陥れた最凶パーティの買い出しは、想像以上の大収穫と共に幕を閉じるのだった。




