第37話:「水晶湖のヌシ釣りと、極上の巨大エビフライ」
「ぷはーっ! お腹いっぱい! さて、せっかく湖に来たんだから、晩ごはんのおかずも調達して帰ろうか!」
湖畔の岩の上で最後のおにぎりを平らげたレナが、元気よく立ち上がった。
「おかずだと? この透き通った水の中に、食えそうな魔物などいるのか?」
エドが湖面を覗き込む。
水晶湖という名にふさわしく、水は底が見えるほど澄み切っていたが、魚の影は見当たらない。
「ふふん、素人め! 妾の神の鼻を甘く見るなよ!」
ウカがパピーの背中の上で胸を張り、狐耳をピンと立てて湖の中心を指差した。
「あの岩陰の奥深く……信じられんほど濃厚な『甲殻類』の匂いがするぞ! おそらくこの湖の主、『クリスタル・ロブスター』じゃ!」
「ロブスター! つまりエビだね! よーし、釣るよ!」
レナはアイテムボックスから、昨日余った『巨大ナマズのハラワタ』を取り出し、森で採取した頑丈なツタの先端にしっかりと結びつけた。
「エド! これを思いっきり湖の真ん中に投げ込んで、引いたら力いっぱい引き抜いて!」
「……なぜ私が漁師の真似事など。まあいい、飯のためだ」
エドはため息をつきながら、ナマズのハラワタが結ばれたツタを掴み、巨人のような腕力で湖の中心へと大遠投した。
ドボンッ、と重い音を立ててエサが沈む。
数秒の沈黙。
そして。
ズギュンッ!!!
「――むっ!?」
エドの持つツタが、悲鳴を上げるようにピンと張り詰めた。並の冒険者ならそのまま湖に引きずり込まれるほどの凄まじい力だ。
「かかったよ! エド、引っ張って!!」
「ふん……たかが魚介類が、私と力比べをする気か!」
エドが漆黒のブーツで地面を踏み砕き、強引にツタを引く。
ザバァァァァァァッ!!
湖面が爆発し、巨大な水柱と共に「それ」が姿を現した。
全長三メートル。透き通るような水晶の装甲に覆われ、巨大なハサミを持った青きエビの魔物。
「出たなヌシ! だが水から出ればただの的だ!」
「私の剣のサビにしてくれる!」
宙を舞う巨大エビに対し、エドの巨剣とセリアの白銀の突きが容赦なく叩き込まれる。
水晶の装甲は一撃で粉砕され、湖の主は地面にドスンと落下し、ピクピクと動かなくなった。
「よし! 大漁だね! 早速調理するよ!」
レナは手際よく巨大エビの殻を剥き、透き通ったぷりぷりの分厚い身を取り出した。
そして、硬い保存パンを石で叩いて砕いた『自家製パン粉』と、コカトリスの卵、小麦粉を用意する。
「おにぎりに合うおかずといえば、やっぱりこれだよね!」
エビの身に衣をたっぷりとつけ、熊の脂を熱した巨大な鍋へと放り込む。
ジュワァァァァァッ!!
「なっ……!? 油の中に食材を落としただと!?」
「なんという暴力的な音だ……! そしてこの、パンが焦げるような香ばしい匂いは……ッ!」
エドとセリアが、鍋から立ち昇るキツネ色の泡と匂いに釘付けになる。
「はい、完成! 『水晶エビの特大エビフライ』だよ!」
レナが取り出したのは、黄金色に輝く、大人の腕ほどもある巨大な揚げ物だった。
「……食うぞ」
エドがエビフライの端を掴み、豪快に噛み付く。
ザクッ!!!
森の中に、小気味良い破裂音が響き渡った。
「――ッ!! なんだこの食感は!! 外側は極限までサクサクで香ばしいのに、中に閉じ込められたエビの身は、信じられないほどプリプリで甘いぞ!!」
「うおおおおっ! 美味い! 美味すぎる! 油と衣が、エビの旨味を一切逃がさずに閉じ込めている!! レナ、おにぎりだ! さっきの白い飯を寄越せ!!」
「妾にもじゃ! このサクサクと銀シャリの組み合わせ、神の理を超えておるわぁぁぁ!」
サクサクの衣。弾け飛ぶエビの肉汁。そして、それを全力で受け止める塩むすび。
水晶湖の畔に、サクッ、ムシャッという幸せな咀嚼音だけが延々と響き渡った。




