第35話:「神の豊穣劇と、魅惑の蒲焼き重」
ログハウスに帰還し、お風呂で泥を落とした後。
レナは裏の菜園の土を耕し、大切に持ち帰った数本の『幻の稲穂』を植えた。
「こんな数本から、みんながお腹いっぱい食べられるようになるまで、どれくらいかかるのかな……」
レナが不安そうに呟くと、ウカがふんすっと胸を張って前に出た。
「案ずるな! 妾を誰だと思っておる! 豊穣の神たる妾の真の力、とくと見るがよい!」
ウカがパンッと柏手を打つ。
すると、彼女の狐耳と尻尾が神々しい黄金の光を放ち始めた。
「実れ! 黄金の海となりて、我が腹を満たすのじゃ!」
ピカァァァァッ!!
光が菜園を包み込んだ瞬間、植えられた数本の稲が異常な速度で成長を始めた。
分裂し、増殖し、青々とした葉を伸ばしたかと思うと、瞬く間に頭を垂れるほどの黄金の稲穂へと変化したのだ。
「す、すごい……! 一瞬で畑一面がお米に!」
「ふははは! まだ終わらんぞ! 『脱穀』そして『精米』じゃ!」
ウカが再び手を振ると、稲穂から無数の米粒が宙に舞い上がり、見えない力で外殻を弾き飛ばされ、真っ白に輝く『白米』となってレナの目の前の木樽にザザーッと降り注いだ。
「これが……銀シャリ……!」
レナは木樽に積もった、宝石のように輝く真っ白なお米を見て、感動に打ち震えた。
さっそく彼女は厨房に戻り、大鍋でお米を炊き始める。
並行して、巨大ナマズの調理に取り掛かった。
「なんだその巨大な魚は。泥臭くないのか?」
エドが訝しげにカウンターから覗き込む。
「大丈夫! 綺麗に泥抜きしたし、今日は特別に『特製の甘辛ダレ』で焼くからね!」
レナはナマズを三枚におろし、ふっくらとした分厚い白身を串に刺して石窯の網に乗せた。
そして、岩塩とハチミツ、森の香ばしい木の実の汁を煮詰めて作った「特製ダレ」を、ハケでたっぷりと塗る。
ジュワァァァァッ!!
タレが炭火に落ちて焦げる、暴力的なまでに香ばしい匂いが厨房に爆発した。
「なっ……!? なんだこの匂いは!! 肉ではないのに、とてつもなく食欲を……ッ!」
「おいレナ! 早くしろ、その焦げたタレの匂いだけで理性が飛びそうだ!」
エドとセリアが身を乗り出し、目を血走らせる。
「はい、お待たせ! 『巨大ナマズの特製蒲焼き重』だよ!」
炊きたての、ツヤツヤと輝く純白の銀シャリ。
その上に、甘辛いタレを纏って照り輝く、極厚のナマズの蒲焼きがドンッと乗せられている。
「……いただく」
エドがフォークで、蒲焼きごと下の「白い粒(お米)」をすくい上げ、口に運んだ。
「――ッ!!!」
エドの動きが完全に停止した。
炭火の香ばしさと、ふっくらとした白身の強烈な旨味。そして何より、タレを吸い込んだ「お米」の、もっちりとした食感と優しい甘さが、口の中で渾然一体となって溶け合っていく。
「なんだこれは……ッ! この『米』という白い粒が、濃厚なタレをすべて受け止めている! 肉(魚)単体で食べるよりも、遥かに重厚な満足感があるぞ!!」
「うむ! うむ! これじゃ! これこそが我が求めていた完全なる食事じゃぁぁぁ!」
エドが驚愕する横で、ウカは顔をタレまみれにしながら、涙を流して蒲焼き重を掻き込んでいた。
【料理名:『大沼主の絶品蒲焼き重』】
【効果:全ステータス大幅上昇。状態:『神の祝福』『豊穣の加護』を付与】
「ふふっ、お米って最高でしょ?」
レナもまた、念願の白米を噛み締めながら、至福の笑みを浮かべる。
こうして、隠れ家食堂のメニューに、あらゆるおかずのポテンシャルを限界突破させる最強の主食「お米」が正式に追加されたのだった。




