第30話:「戦場と化した厨房と、客による食材調達」
「ミレちゃん、お会計と配膳お願い! エド、セリア! 列が乱れたら容赦なく摘み出して! 次のお客さん通して!!」
「「「イエッサー!!」」」
ログハウスの前は、まさに戦場だった。
レナはハチマキを締め、二つの巨大なコンロと石窯をフル稼働させていた。
数百人の胃袋を満たすため、メニューは『熊肉の串焼き』と『ハニートースト(パンケーキの簡易版)』の二種類のみに絞り、ひたすら焼き続ける。
ジュワァァァァッ!!
「はい、熊串一丁! 次!」
レナが焼きたての串を放り投げると、ミレが空中でキャッチし、客に渡して代金を受け取る。
「お、美味いぃぃぃ! なんだこの肉汁は!!」
「ハチミツだ! 本物の甘味だぞぉぉぉ!!」
客たちは料理を受け取った瞬間、その場で泣き崩れ、あるいは天を仰いで絶叫する。
しかし、余韻に浸る暇はない。
「おい貴様。食ったならさっさと失せろ。次がつかえている」
「のろのろするな雑魚ども! 皿を舐めるな! さっさと返却口へ持って行け!!」
エドとセリアが、殺気全開で客の回転率を上げていく。
彼らは不本意ながらも、レナに「働かないと夜ご飯抜き」と脅され、最強のウェイター兼警備員として機能していた。その圧力は凄まじく、客たちは「ひぃぃっ!?」と悲鳴を上げながらも、料理の味に魅了されて逃げ出すことすらできない。
だが、ここで致命的な問題が発生した。
「――っ! ストップ!!」
レナが悲痛な声を上げる。
「もうお肉がない! 小麦粉も、ハチミツも……全部売り切れ!!」
「な、なんだとぉぉぉ!?」
「俺はまだ食ってないぞ!!」
「ふざけるな! ここまで並んで、匂いだけ嗅がされて帰れと言うのか!!」
まだ食べられていない後ろの行列――数百人のプレイヤーたちが暴動寸前の形相で殺気立った。
エドとセリアが武器を構えるが、空腹の恨みは死の恐怖すら凌駕しつつある。
その時、客の一人が叫んだ。
「肉がないなら、俺たちが狩ってくる!!」
その男は、狩ったばかりの『森の猪』をアイテムボックスから取り出し、ドサリとカウンターに置いた。
「これを使ってくれ! その代わり、俺に最高のステーキを焼いてくれ!!」
その言葉が、膠着状態を打破した。
「そ、そうだ! 俺も『巨大魚』を持ってる!」
「私は『木の実』と『小麦』を持ってるわ!」
「俺なんて『ドラゴンの尻尾』を持ってるぞ!!」
次々と客たちが、自分たちのインベントリに眠っていた食材をカウンターに積み上げ始めた。
彼らは気づいたのだ。自分たちには料理スキルがないが、素材はある。そして目の前には、どんな素材も「極上のメシ」に変える天才料理人がいることに。
「えっ、えぇっ!? こ、こんなにいっぱい……!?」
レナは積み上がった食材の山を見て目を白黒させたが、すぐにニヤリと不敵に笑った。
「わかった! 素材持ち込みなら、調理代だけで料理してあげる! その代わり、下処理は自分たちでやってね!!」
「うぉぉぉぉっ!! やったぁぁぁ!!」
こうして、隠れ家食堂は「単なる飲食店」から、客が食材を持ち込んで料理してもらう「巨大な調理場」へと変貌を遂げた。
森の奥から響く歓声と、様々な食材が焼ける匂いは、夜遅くまで絶えることはなかった。




