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『餓死寸前の最弱アバターからのサバイバル料理 ~現実世界での完全栄養食に絶望したので、VRゲームで失われた「本物の味」を再現して夢の食堂を開きます!~』  作者: ゆっきー
第2章:「最強の護衛と、夢の食堂の予定地」

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第29話:「終わりの始まりと、空腹のゾンビ・パニック」

「……おい、エド。聞こえるか?」


 その日の朝、開店準備をしていたセリアが、掃除の手を止めて耳をそばだてた。

 パンケーキの甘い香りが残るログハウスの外から、ズズズ……という不気味な地響きが聞こえてくる。


「ああ。……数が多いな。百、いや二百か。完全に包囲されている」


 エドが漆黒の外套を翻し、愛用の巨剣を手に取った。

 彼の『索敵』スキルが、森の全方位から迫りくる無数の反応を捉えていた。


「レナ、下がっていろ。スタンピード(魔物の暴走)だ。俺とセリアで殲滅する」


「えっ!? スタンピード!? こ、ここのお肉やお魚の匂いに釣られてきちゃったのかな……?」


 レナが慌てて火を止め、ミレとパピーをカウンターの下に隠した。

 最強の二人が殺気を放ち、ログハウスの扉を蹴り開けて外へと飛び出す。


「汚らわしい魔物どもめ! せっかくの朝のティータイムを邪魔した罪、万死に値するぞ!!」


 セリアが白銀の剣を抜き放ち、森の茂みから飛び出してきた先頭集団に向かって突撃――しかけた、その時だった。


「肉ぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」

「甘味ぃぃぃぃぃッ!! ハチミツはどこだぁぁぁぁ!!」

「頼む……一口でいい……幻覚でもいいから、俺に『味』をくれぇぇぇぇ!!」


 茂みから現れたのは、オークでもゴブリンでもなかった。

 目を血走らせ、口から大量のヨダレを垂らし、空腹度スタミナがレッドゾーンに突入した、大量のプレイヤーたちだったのだ。


「なっ……人間だと!?」


 セリアが寸前で剣を止める。

 先頭にいたのは、以前ボコボコにしたあの中級冒険者パーティだった。彼らは「あそこの飯はヤバい」という情報を撒き散らした責任(?)として、ギルドの仲間や噂を聞きつけた野次馬たちを先導して戻ってきたのだ。


「あ、あれが噂のログハウスだ!!」

「本当にあったぞ! 匂いだ! 噂通りの、脳が溶けるようないい匂いがする!!」


 ドヤドヤと広場になだれ込んでくる数百人のプレイヤーたち。

 彼らは武器を構えるエドとセリアの殺気など意にも介さず(あるいは空腹で認識できず)、ただひたすらに石窯とカウンターを目指して突進してきた。


「ひぃぃぃッ!? 人がいっぱいですぅぅぅ!!」

「わんわんっ!!」


 ミレとパピーが悲鳴を上げ、レナもあまりの光景に呆然と立ち尽くす。

 しかし、料理人としての本能が、恐怖よりも先に彼女の体を動かした。


「――っ! ストーーーップ!!!」


 レナが厨房から飛び出し、お玉とフライパンを打ち鳴らして叫んだ。


「お、お店を壊さないで! ご飯ならあるから! みんな落ち着いて、ちゃんと並んで!!」


 その凛とした声(と、エドたちの殺気)に、暴徒と化していたプレイヤーたちがピタリと止まった。


「……あるのか? 本当に、あの噂の『熊肉』や『パンケーキ』が……?」


「あります! でも、順番! 横入りした人には絶対に売りません! エド、セリア! お客さんを整列させて!」


「は? なぜ私がそんな雑用を……」


「ご飯抜きにするよ?」


「……チッ。おい貴様ら! 一列に並べ! 少しでも列を乱したら、その首をハネるぞ!!」


 最強の死神と女騎士による、世界で最も恐ろしい「列整理」が始まった。

 ビビり上がったプレイヤーたちが、恐る恐るログハウスの前にお行儀よく並び始める。その列は森の奥深くまで続き、最後尾が見えないほどだった。


「よし……やるよ、ミレちゃん!」

「は、はいっ! お手伝いします!」


 レナがハチマキを締め直し、気合を入れる。

 隠れ家でののんびりとした日常は、この瞬間をもって崩壊した。

 ここからは、戦場のような「大繁盛食堂」の幕開けだ。

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