第27話:「決死のハチミツ狩りと、宮廷料理人の絶叫」
「いいですか、レナさん。極上の甘味とは、ただ甘ければいいというものではありません。自然の恵みが凝縮された、黄金の輝き……そう、『幻のハチミツ』こそが至高なのです!」
翌朝。
ログハウスを出発した一行の先頭で、宮廷料理人のシャルルが熱弁を振るっていた。
彼は戦闘職ではない生産職(レベル15)だが、食材への執着心だけで、未知のエリアへと足を踏み入れている。
「ハチミツ……映像で見たことある。とろっとしてて、すごく甘いやつだよね」
レナは想像するだけで喉を鳴らした。
現実世界の合成甘味料ではない、本物の糖分。それは彼女にとって、未知の宝物だ。
「おい、貴様ら。たかが虫の分泌液のために、なぜ我々がこんな藪の中を歩かねばならんのだ」
「全くだ。甘いものなど軟弱者の食い物だぞ。肉を食わせろ、肉を」
後ろを歩くエドとセリアは、非常に不機嫌だった。
彼らにとって「お菓子探し」は、クエストとしての優先度が著しく低いらしい。
「ふん! 野蛮な連中にはわからんでしょうね! ……おや? この香りは……!」
シャルルが足を止め、クンクンと鼻を鳴らす。
風に乗って、濃厚で甘ったるい香りが漂ってきた。
「ビンゴです! この奥に、極上の『キラービーの巣』がありますよ!」
「キラービー? それって、すごく危険なモンスターじゃ……」
ミレが不安そうに呟いた、その時だった。
ブゥゥゥゥゥゥン……!!
重低音のような羽音と共に、茂みの奥から「人間ほどのサイズ」がある巨大な蜂が三匹、姿を現した。尻尾には、鉄をも貫く凶悪な毒針が光っている。
「ひぃぃぃッ!? で、出たァァァッ!! エド君! セリア君! お願いしますッ!!」
さっきまで威勢のよかったシャルルが、光の速さでレナの後ろに隠れた。
「……チッ。うるさい男だ」
「私の前に立つな雑魚が。邪魔だ」
ドォォォン!! ザシュッ!!
エドが巨剣の一振りで二匹を叩き落とし、セリアが神速の突きでもう一匹の眉間を貫いた。
戦闘時間、わずか二秒。
凶悪なキラービーたちは、甘い蜜を運ぶただの死体へと変わった。
「す、素晴らしい暴力……! いえ、素晴らしい護衛だ!」
シャルルは震えながらもすぐに立ち直り、エドたちが倒した蜂の死骸ではなく、その奥にある巨木を見上げた。
そこには、見上げるほど巨大な、黄金色に輝く「蜂の巣」がぶら下がっていた。
「あ、あれだ……! 『森の女王蜂』が作り出す、伝説の食材……!」
「わぁ……! すごい、蜂蜜が垂れてる……!」
レナが目を輝かせる。
巣の隙間からは、琥珀色に透き通った液体がトロリと溢れ出し、あたり一面に脳が溶けるような甘い香りを撒き散らしていた。
「エド、セリア! あの巣を落として! 中のハチミツが欲しいの!」
「了解だ。……おいセリア、巣を壊しすぎるなよ。中身がこぼれたらレナが泣くぞ」
「わかっている! 私の剣技なら、巣の結合部だけを綺麗に切り離すことなど造作もないわ!」
セリアが跳躍し、空中で銀閃が走る。
ズシンッ、と地響きを立てて、巨大な蜂の巣が傷ひとつなく地面に落下した。
【食材名:『クイーン・ビーの黄金ハチミツ』】
【品質:S(最高級)】
【甘味:極大。一口で疲労を吹き飛ばす魔性の甘さ】
「やりましたねレナさん! これで……これでついに、あの暴力的な肉料理の後に、天国のような甘味が食べられますよぉぉ!!」
シャルルが蜂の巣に抱きついて歓喜の声を上げる。
最強の護衛と、命知らずの美食家の執念により、レナたちはついに「本物の甘味」を手に入れたのだった。




