↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『餓死寸前の最弱アバターからのサバイバル料理 ~現実世界での完全栄養食に絶望したので、VRゲームで失われた「本物の味」を再現して夢の食堂を開きます!~』  作者: ゆっきー
第2章:「最強の護衛と、夢の食堂の予定地」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/64

第26話:「命知らずの美食家と、完璧な食事の欠落」

挿絵(By みてみん)


「はぁっ、はぁっ……間違いない、この匂いだ……! 噂の幻覚モンスターめ、私の洗練された舌を満足させられるものなら、やってみるがいい……ッ!」


 鬱蒼とした絶望の森を、一人の男がフラフラと歩いていた。

 豪奢な貴族風のアバターに身を包み、頭上のマーカーには『シャルル:Lv15(職業:宮廷料理人)』とある。彼は戦闘職ではなく、味覚と料理を極める生産職のトップランカーだった。


 始まりの街で「極上の飯の幻覚」の噂を聞きつけた彼は、恐怖よりも「未知の味覚データ」への探求心が勝り、単身でこの危険地帯に踏み込んできたのだ。


 「ああっ、この芳醇な燻煙の香り……! 幻覚にしては出来が良すぎる……!」


 茂みを掻き分けたシャルルの目に飛び込んできたのは、化け物ではなく、真新しいログハウスと巨大な石窯だった。


 「なんだ、あれは……?」


 彼が目を丸くしたその瞬間。


 「……また羽虫が迷い込んだか」


 背後から、地獄の底から響くような恐ろしい声がした。

 振り返ると、漆黒の外套を着た死神(エド)と、白銀の悪魔(セリア)が、獲物を狙う猛獣のような目でシャルルを見下ろしていた。


 「ひぃっ!? 噂のバケモノ……ッ!」


 シャルルが腰を抜かしてへたり込んだ、その時。


 「もうエド、お客さんを脅かさないで! いらっしゃいませ、お腹空いてるんでしょ?」


 エプロン姿の少女――レナが、呆れ顔でエドを押しのけ、シャルルの前に木のお皿を差し出した。

 そこに乗っていたのは、一晩かけて完璧に旨味を凝縮させた『洞窟熊の極上スモーク』だった。


 「なっ……なんだこの圧倒的なシズル感は!? これが、噂の幻覚……!」


 シャルルは震える手でスモーク肉を掴み、そのまま口へと運んだ。


 「――ッ!!!」


 その瞬間、宮廷料理人のプライドも、幻覚への警戒心もすべて吹き飛んだ。

 野性味溢れる熊の脂、岩塩の鋭い塩気、そして鼻腔を突き抜ける痺れ木の実のスパイス。それらが燻煙の香りと共に、脳髄に直接「美味い」という暴力的なメッセージを叩き込んできた。


 「あぁぁ……素晴らしい……! 幻覚だろうが何だろうが構わん、これは芸術だ……ッ!!」


 シャルルは涙を流しながら、あっという間に肉を平らげてしまった。


 「美味しい? よかった。お代はいらないから、ゆっくりしていってね」


 レナが微笑んだ。

 エドもセリアも、肉を食って大人しくなった男に興味を失い、再び自分たちの食事に戻っていく。シャルルは完全にこの食堂の「極上の飯」に屈服したかに見えた。


 だが。


 お皿を舐めるように綺麗にしたシャルルは、不意にスッと立ち上がり、深刻な表情でレナを指差した。


 「……素晴らしい腕前だ、料理人よ。だが、致命的だ! この完璧な食事には、絶対に欠かせない『最後の一手』が抜け落ちている!」


 「えっ? 致命的……?」


 レナが首を傾げる。

 シャルルは大仰な身振りで、カウンターの上の塩壺やスパイスを指差した。


 「塩気! 脂! 香辛料! 確かにどれも極上だ。しかし、この重厚な塩気の連続を洗い流し、食事というオーケストラを優雅に締めくくるための『甘味(デザート)』が一切ないではないか!! 砂糖は!? 果物は!? スイーツはどこにあるのだ!!」


 「あ……」


 レナはハッとした。

 サバイバル生活を生き抜くために、高カロリーな肉や塩分ばかりを求めていたせいで、完全に盲点だった。

 味覚を失った現実世界では、甘いケーキも新鮮なフルーツも、映像でしか見たことがない「夢のまた夢」の食べ物だったのだから。


 「あ、甘いもの……ケーキとか、フルーツとか……食べてみたい……!」


 レナの瞳が、かつてないほどの熱を帯びて輝き始めた。


 「よし! 次の目標決定! エド、セリア、ミレ! 明日は『甘いもの』を探しに行くよ!!」


 「……は? 肉があるのに、なぜ草の実などを探しに行かねばならんのだ」


 エドが露骨に嫌そうな顔をするが、レナの決意は固かった。

 突然現れたやかましい美食家の指摘により、隠れ家食堂の次なるターゲットは「未知のスイーツ(甘味)」へと定まったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。