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21.南の国の呪いの姫と宝石と人助け⑦


 さてその頃アルベルト達はどうしているかというと。真面目に治療の真っ最中である。アルベルトは椅子に座った当初と変わらず、リリアンの視線を受けながら黙々と作業をしている。

 作業と言っても本当に椅子に座ったままだ。しかも足も腕も組んでリラックスした状態なので、側から見るとかなり尊大な態度に見える。作業を始めたアルベルトを見たヒースが「うわ、態度でかっ」と溢すくらいには堂々とした姿だった。

 けれどもこれは作業するにあたり、重要な意味合いがあった。実際、相当に細かな作業なのだ。本人のやりやすい体勢というのは無駄なものではない。


「それにしても、素晴らしい集中力でいらっしゃる」


 そう囁くのは、様子を見に来た主治医の男だ。彼はアルベルトが集中できるようにと自主的に隣の部屋へ移り、一時間に一度くらいの頻度で顔を出す。彼に対応するのは寝室に残ったリリアンで、毎回「先程から変化はありません」と伝えている。

 何度目かにやり取りを終えたら主治医が先の台詞を呟いた。そうですね、と返したリリアンは、昼食以外の数時間、父が姿勢を変えていない事に思い至る。


「元々、作業に集中すると長いのですよ」

「左様でしたか。ですが、かなり高度な技術を使われております。休憩なさっては」

「必要であればそうするでしょうけれど。そのままという事は、必要ないのでしょう」

「なんと……!」


 主治医がその言葉に目を見開いたので、リリアンはあら、と首を傾げた。


「ヘレナ様の容体が悪いのは理解しておりますが……それほどに、あれは難しい治療なのでしょうか」

「ええ。今のヘレナ様は、言ってみれば全身をがんじがらめにされたようなもの。細い糸で、です。それを一本ずつ、魔力で動かして(ほど)いていくのですよ。どれほどの労力か、お分かりでしょうか」

「まあ……!」

「糸を、十本解くだけでも汗だくになるのです。ですが御父君は顔色ひとつ変えずにおられる。いやはや、どれ程の魔力をお持ちなのか。私には検討も付きません」


 今度はリリアンが目を見開く番だった。指先で口元を覆うリリアンの瞳はきらきらと輝いている。

 魔力を操って術を使うのはリリアンにだってできる。主治医の話は例えだから、実際には糸状の魔力に自身の魔力で関与する、という事になる。けれど、相手の魔力を動かすというのは想像がつかない。アルベルトからは常に魔力を放出している感じがする。ずっと力を使っているという意味だ。


「さすが、お父様だわ……」


 リリアンは羨望の眼差しで父の背中を見詰める。主治医の男は、代々王宮の医師を務める家系なのだそうだ。少年時代から医学を学び、魔力操作の鍛練をして、それで王族の治療にあたるという役割を仰せつかった。その過程は生半可なものではないというのはリリアンにも想像がつく。

 そんな彼が手放しで褒めるのだ。きっと父の技術は、本当に素晴らしいものなのだろう。

 リリアンはそんな父親を誇りに思った。


(ふ、ふふ……ああ、感じる。感じるぞ。リリアンが私を見ている!)


 そんなリリアンの素晴らしく素敵な視線を背中にビンビンに感じるアルベルトはやる気に満ち溢れていた。

 なにしろ部屋にリリアンと二人きりとなるのが約束されている。しかも誰にも邪魔されず、真剣な面持ちのリリアンに見守られながら二日間を過ごせる。休憩する時にはリリアンがアルベルトの為だけにお茶を淹れてくれるし、取り次ぎも行ってくれる。リリアンが、アルベルトの世話を焼いてくれるのだ。これを最高と言わず何と言う!


(リリアンの熱い視線を受けながらの作業。たまらんな、気合いが入り過ぎて手元が狂いそうになるが、そんな事ではあの子の父親には相応しくない。試されている、私の腕前が……! すごく素晴らしい魔法使いだと私を評価してくれたリリアンの為にも、完璧に治療しなければ)


 不意に上がりそうになる口角を意図して留めるよう務める。そんなアルベルトの魔力は、気力と相まって全身に満ちている。溢れ出そうになるのを抑えないといけないくらいだった。

 ヘレナに紹介するのに、リリアンはアルベルトを「とてもすごい魔法使い」と言っていた。それを聞いて、まただ、とアルベルトは思った。魔法天文台に見学に行ったからか、最近リリアンは魔法に興味を抱いているようだった。関心が高いせいだろう、それにつれてアルベルトの使う魔法に対しても評価が鰻登りになっているのだ。


(これまで散々言われていたが、リリアンの口から聞くと格別だ。素晴らしい……これだけ使えて良かったと思ったのは初めてかもしれん)


 それに、とアルベルトはちらりと視界の端でリリアンを捉える。


(あの〝夜明けの女神のドレス〟という石はなかなか悪くない。ああいったものはまだリリアンのコレクションには無かったからな、丁度いい。さて、どうするか。機構は構想が出来ているが、石を再現するだけではつまらん。猿真似ではリリアンに相応しくない。あれをどう昇華するかだが)


 治療の報酬として要求したエル=イラーフ王国の国宝の宝石。有名ではあるが、実物を目にしたのは今回が初めてだ。

 魔力を宿した石は、どちらかというと魔石と呼べるくらいの力を内包していた。その魔力によるものだろう、石の色は光となって辺り一面に広がる。幻想的な光景を生み出す石は信仰を集めるだろう。季節の節目などの儀式では、今でも使用されるのだという。

 その輝きは確かに唯一無二だ。頭上に広がる光が色を変えて波打つ。それを追うリリアンの笑顔にこそ、全てに勝る輝きが宿っていた。

 アルベルトはそのリリアンの笑顔が忘れられない。それを再び見られるのなら、どんな手段を使ってでもあの光の帯を渡してあげたい。アルベルトのやる気の根源はそこだった。

 しかも、リリアンの視線を受ける中で思案に暮れる事ができるのだ。あまりにも充実した時を過ごせる。堪らない瞬間だった。


(魔力で揺れる光。それを見るリリアンの瞳は本当に美しかった……再現するのであれば、その瞳の美しさこそを表現したいものだな。でなければリリアンを飾るには不足する。色、形、なんでもいい。それをどうにかリリアンの身の回りに組み込めないものか。ランプは喜んでくれそうだが、面白味が無い。あの石は、光の帯が揺れる様子をドレスに例えたのだろうが……ドレス、か。あの光を生地にしてドレスに……いや、悪くないかもしれんが捻りが無い。エル=イラーフにもすでにありそうだ。それこそ猿真似だろう、私とした事が短絡的だった……! いやしかし仕方がない。それ程までに、リリアンの瞳が輝いていたから)


 あの時のリリアンを思い出して手に力が入る。つい魔力の方も強く出してしまいそうになったのを、ギリギリの所で堪えた。


(時間ならまだある。待っていてくれリリアン、必ず帰るまでに、お前の瞳に遜色ないアイディアを出すからな……!)


 そんな事を考えながら、アルベルトは魔力を操る。

 作業は主治医の言う通り、繊細で集中を要するものだった。がしかし、リリアンを独り占めできているアルベルトはやる気に満ち溢れていたお陰で元気いっぱい、魔力操作も鼻歌が出そうになるくらいにはスムーズである。

 魔力回路というのは血管の様に枝分かれて全身に広がっている。通常、これが縺れたり絡まったりする事はほとんどない。血管が絡まるのがないのと同じ理由だ。

 だが、極稀に、身体に疾患を抱えて産まれてくるのと同じ様に、魔力回路に異常を抱えた者も現れる。そういった者は血縁者に同じ異常を持っている事が多く、親から子へ引き継がれるというのが確認されていた。

 魔力回路の異常の場合、治療は自己で行うか、他者が関与するかの二通りで対処される。前者は回路の異常が少ない場合に用いられる方法だ。魔力の操作をして、異常のある部分が正しい形になるよう、自身で回路に干渉する。元々が自分の身体の事であるから、よほど酷くなければこれで治療が完了する。

 それで治らなければ他者がそれを行う。魔力操作の拙い幼い子供にも、これで対処する。身体が出来上がりきっていない時分にやれば、その後矯正が効くそうだ。侍医として仕える魔導士が治療を行う。これまでエル=イラーフ王室では、そうやって子供達を守っていた。

 小さな頃に治癒できていなければ、そもそも大きくなれないものだった。魔力回路というのは魔法が使えなくても、人体に影響を与えるのだ。

 ヒースは、ヘレナが幼い頃に治療させていると言っていた。それをこの年齢で悪化させるというのはあり得ない話ではないが、そう急激に悪くなるものだろうかという気もする。

 幾重にも分かれ、絡み合う回路をひとつずつ丁寧に解いていると、アルベルトの魔力にヘレナの魔力ではない何かが触れた気がした。


「……ん?」

「お父様、どうなさいました?」

「いや」


 これまで無言で作業していたアルベルトが出した声に、すぐにリリアンが反応した。その事に感激しつつ更に魔力を操る。

 王女の魔力回路は、本当にがんじがらめになっている。それを解くのは難儀するが無理ではない。が、自然と絡まるには不自然なくらいに絡み合っているように見えた。ここまでこじれるのなら、もっと何年も前から王女に異常があってもおかしくないのではと思えるほどに。しかも解く際、妙に手応えを感じる。

 魔力回路は生き物に備わった器官で、本来であればスムーズに全身に魔力を行き渡らせるものだから、生まれつきの〝形〟がある。編まれた髪のように、一時的に絡まった事でくせがついたとしても、時間が経てばくせは戻る。元々の生まれ持った形へ戻ろうとするはずなのに、その動きにも抵抗があった。例えるなら、水の流れに乗せてやっているのに、それに逆らって横に逸れようとする様な……。


「…………」


 眉間に皺を寄せるアルベルトに、リリアンが息を飲んだのが分かった。唐突に押し黙ったからか、主治医がアルベルトとリリアンを交互に見ている。

 けれどもそれ以上アルベルトが何かを言う事はなく、そのまま治療を続けていたので何も聞けない。リリアンと主治医は顔を見合わせた。


「リリアン、休憩にしよう」


 少しの間そうしていたが、突然アルベルトがそのように言う。リリアンは、さすがに父が疲れたのだろうと判断してそれに従った。控えているシルヴィアを呼び、お茶の準備をするよう指示を出す。


「少し席を外すが、部屋から出ないように」

「えっ?」


 お茶を淹れているうちに、アルベルトはそう言い残してベンジャミンを連れて部屋から出て行ってしまった。返事をする前に出て行くなんて珍しい。リリアンはアルベルトの背中を見送る。


「お父様に休んで頂かないと、意味がないのに」

「お嬢様に気を使われたのでしょう」

「ああ、そうかもしれないわね」


 どちらにせよ、説明されない事を訊ねても答える人ではないので、リリアンはそういう事にしておいた。淹れたてのお茶を飲み、シルヴィアが用意してくれたお菓子を摘む。

 お菓子はナッツを砕いたものを蜜で固めたものだ。ヘレナが特に好んでいるそうで、もし途中で目を覚ましたら与えてやって欲しい、との伝言があった。乾燥させた果物が入っているものもあって、リリアンは美味しく頂いている。ろくに食事をしていないヘレナに食べさせても大丈夫なのかと気にはなったが、主治医も特に何も言わないのでいいのだろう。

 静寂の下りる室内でリリアンがお茶を頂いていると、寝室の方から何やら物音がした。


「姫様がお目覚めです」


 開きっ放しにしていた扉から侍女が顔を出した。どうやらヘレナが起きたようだ。

 アルベルトは戻っていないので、ここはリリアンが状態を見ておくしかないだろう。リリアンはシルヴィアにひとつ頷くと、寝室へ移動する。

 寝室では主治医がヘレナの脈をとっているところだった。脈と一緒に魔力回路の確認も行なっているのかもしれない。

 ヘレナは大人しくしていたが、リリアンに気が付くと瞬いた。


「あなたは……」

「リリアン、と申します、ヘレナ様」

「……覚えているわ」

「それは良かったですわ」

「…………」


 話しているうちに主治医の確認が終わったようで、彼は持っていたヘレナの腕をシーツの中へと戻す。薬などは不要なようで、「なにか、欲しいものは」とだけ訊ねていた。それにヘレナが「喉が渇いたわ」と返したので、水差しを取ろうとする彼を制し、リリアンは水を満たしたグラスをヘレナに手渡す。


「他に必要なものはございますか?」

「……無いわ」


 グラスを受け取ったヘレナは、勢い良くグラスを傾ける。


「はあ」


 咽せずに水を飲み干したヘレナの手から空になったグラスを抜き取ると、リリアンはベッドサイドに置かれた椅子へと腰を下ろした。


「お加減はいかがでしょう」

「少し、苦しい」


 その言葉に主治医を見れば、彼はそっと目を伏せて首を横に振る。


「まだ、完全には治療は終わっておりませんから、そのせいではないかと」

「ふん。やっぱり顔がいいだけじゃない」

「でも治療を始めてから、半日も経っておりませんのよ?」

「えっ」


 強気にツンと顔を背けるヘレナは、リリアンの言葉に瞬いて枕元へと振り返った。こちこちと鳴る時計の針は、昼下がりの午後二時を少し過ぎた辺りを指していた。夕暮れに近いのではと思っていたヘレナはぽかんと口を開けて惚けるが、すぐにはっとなって、また顔を背けた。


「す、少しはやるようね」

「まあ。ふふっ」


 そんなヘレナの様子が微笑ましくて、ついリリアンは笑ってしまったのだが、それをヘレナは不思議そうに見る。


「……あなたのお父様を悪く言われて、怒らないの?」

「だって、ヘレナ様は本当に悪くは思っていらっしゃらないでしょう?」

「そ、それは」


 気まずそうにヘレナは視線を逸らした。とことん彼女は素直ではないらしい。だったらこれ以上は余計だなと判断したリリアンは、「そうだわ」と両手を合わせる。


「お腹は空いていますか? 食べられそうならと、ナッツのお菓子をお渡しするよう聞いているのですが」

「いい。気分じゃないの」

「わかりました。では、お水のおかわりは」

「……貰うわ」


 リリアンは微笑んで、水差しからグラスへ水を注いだ。それを渡されたヘレナはやはりすぐに飲み干す。

 少し落ち着いた様子のヘレナは、どこか暗い表情で手の中のグラスを見ている。


「お辛いようでしたら、横になっては」

「平気」


 まだ上体を起こしているのは苦しいのではと思いリリアンは言ったのだが、ヘレナは首を横に振って否定した。呼吸は落ち着いている。申告の通り体調とは別の不調があるのだろう。

 ならばもう、リリアンにはどうしようもない。せめてゆっくり休めるよう黙っているつもりだったが、そのうちにヘレナが口を開いた。


「リリアン様は、公爵家の方よね」

「ええ」

「とっても、とーってもたくさん勉強したのでしょうね」

「ええっと、そうですね」


 そうして語られたのは思ってもみない事で、とりあえずリリアンは頷く。

 するとヘレナは、ふー、と長く息を吐いた。


「だからそんなに所作が丁寧なのね。あたし、そういうの興味ないの」


 そう言う声は、本当につまらなそうだ。ヘレナの本心なのだろう。


「そうなのですね」

「そう。だから、お母様と教育係に叱られてばかりなの」

「……そうでしたか」


 リリアンには、それがどういうものなのか分からない。だから同感は出来なかった。相槌を打つに留める。

 グラスを見つめるヘレナは独り言のように続けた。


「病気で倒れて、そうしたら勉強しなくて良くなって。なんて楽なんだろうって思ってたんだけど。でも段々悪くなっていって……とっても苦しくって、もう死んじゃった方がよっぽどマシだって思ったわ」

「そんな」

「それ位苦しかったの。分からないと思うけど」

「……だから、あんな事を?」

「…………」


 リリアンが指したのは治療を始める前のやり取りだ。ヘレナはヒースに対して、かなり酷い事を言った。それだけ辛かったのだろうというリリアンの予測は正しかったようだ。

 自嘲するように、ヘレナは口角を上げる。


「さっき……さっきね、目が覚めて、お水を飲んだ時。ああ、生きてるんだ、って。息を吸っても、胸が締め付けられないの。横になっていても眩暈がしない。当たり前なのに、それが……とっても嬉しい」


 ヘレナの頰を雫が流れていく。リリアンはそんなヘレナの手を取り、ぎゅっと握り締めた。

 ヘレナの手は温かい。今朝、取り乱すヘレナを支えた時には、彼女の手は空のグラスのように冷たかった。


「ヘレナ様、もう大丈夫です。わたくしのお父様は、本当にすごい魔法使いなのですよ。ヘレナ様を元気な状態に必ず戻してくれます。もう少しだけ、辛抱して下さいましね」

「……ありがとう、リリアン様」


 リリアンにグラスを抜き取られると、ヘレナはそのままベッドに横になる。すぐにすうすうと寝息が聞こえた。


「お可哀想に。不安でしたでしょうね……」


 ヘレナの頰に残る跡をそっと拭う。彼女は今日まで叫びたくても叫べなかったのだ。痛みも苦しみも全部抱えて飲み込んで、そうしているうちに抱えきれなくなってしまって、でも吐き出す事も出来なくて。それこそが彼女を蝕んでしまったのではと、リリアンはそう思う。

 そのままヘレナの額に張り付いた前髪を指で払っていたところ、がこん、と派手な音がしてリリアンは振り返った。そこには扉に張り付くアルベルトの姿がある。


「お父様、お戻りなさいませ」

「う、う、うん」

「どうかなさいました?」

「あ、いや、べつっ、別に。なん、なんでもない。うん」

「そう……?」


 父親の不審な態度にリリアンは首を傾げる。が、その姿すら、アルベルトの心を掻き乱してやまない。


(ててて、て、天使。天使が居た……! いや、聖母、いや、あれはまさしく……女神……!)


 ベッドに腰掛け、ヘレナの涙を拭うリリアン。その姿は神聖すぎて見ているアルベルトの方が泣きそうだった。ちょうどそのタイミングで寝室に戻ったアルベルトは、飛び込んで来た光景に目を疑った。昼下がりの陽光が差し込む薄暗い室内。そこに浮かぶリリアンのシルエット、日差しが横顔を照らして——。ああ、その浮かび上がった、憂いを乗せたリリアンの瞳!

 美しい。エル=イラーフの国宝なんかよりも、よほど素晴らしい光を湛えている。

 あんまりにも美しいものだから、目にしたものが現実なのかどうか信じられなくなったアルベルトは、扉に自らの頭を打ち付けたのだ。そのせいでリリアンがこちらを向いてしまったのだが、これ以上美しい光景を見せられてはアルベルトの身が保たない。こほん、と咳払いをひとつしてから、アルベルトはリリアンの元へと向かった。


「あー、リリアン。王女は目を覚ましたか?」

「ええ。先程目を覚まされて、お水を飲まれてから、また」

「そうか」

「ご用は済みましたの?」

「ああ、確認したい事があったんだが、すぐに終わった」

「それは良かったですわね」

「うん。そうだな」


 本当に良かった、とアルベルトはリリアンの言葉に同意する。なにしろとんでもなく素晴らしい光景を見られたのだ。その瞬間はばっちり心のアルバムに刻み込み、作業を再開させた。

 なぜかホクホクとした笑顔でいる父親にリリアンは首を傾げたが、そういう瞬間は多いので特に気にしなかった。


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