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11.かわいい子には旅も無理もさせるな④

 そうして滞在して三日で、セレストはヴァーミリオン領の異常さに目を回すことになる。

 到着したその日は宿で休み、翌日、侍女の手を借りて身支度をしたセレストは、早速縫製工房を訪れた。リリアンの、あの夜空を切り出したようなドレスを作ったという工房だ。職人に話を聞こうと思ってのことだったが、そこでセレストは圧倒されたのだった。


「そんな色ではリリアン様を飾るには弱い」


 セレストは、王都を中心に、服飾関係の工房に出入りしていた。だからここヴァーミリオン領でも問題ないだろうと訪れたのだ。だがその熱量はまるで別物だった。

 工房長に渡したのは、先月アズール家が開発した魔石(ませき)()めの布地だ。綺麗な瑠璃色なのでセレストも一押しだったのだが、と目を丸くする。


「ですが、ヴァーミリオン公はこれで進めると」

「色味はいいが、深みが足らん!」

「ふ、深み?」


 セレストは瞬いた。


「空の深さのような、そういう壮大さが足りない。でないとリリアン様の懐の深さは表現できん」


 工房長はそう言うが、わかるようなわからないような言葉に、セレストはすっかり勢いが削がれる。


「色味はいいのですわよね?」

「うむ」

「その、深み、というのは、どう……表現されるのでしょうか」

「リリアン様の瞳のような、人を惹きつける力が必要ということだ」

「は、はあ」


 おかしいわ、とセレストは思った。様々な職人に会い、言葉を交わした事があるが、ここの工房長の言葉はまるでわからない。

 だが、色自体に不備があるわけではなさそうだ。深みが足りない、というのはよくわからないが、とにかく新しい布地に魔石染めが適応出来なければ話にならない。一先ずはそれを試す事にして、その日は工房を後にした。



 そして次の日には、街を出て畑に向かった。蚕を飼っている一角があるそうなので、その見学をしたのだ。


「素晴らしい立地ね」


 風が気持ちよく高台から流れ込んでくる。沢があり、それがきらきらと光っていた。桑畑の桑は濃い緑で、元気に育っている事がセレストから見ても分かった。

 まさに、桑を育て蚕を飼うのに適した土地だ。国内にこんな場所があったとは知らなかった。気持ちのいい風が通り抜け、セレストは目を細める。


「まるでこの為に作られたような土地だわ」

「ええ。その為に整地をしましたので」

「えっ?」


 セレストは勢いよく振り返った。


「旦那様が整地なさったのです。素晴らしい蚕を飼う為に」

「せ、整地?」

「はい。あの丘、あそこは元々真っ平だったんですが。自然と風が起きるように隆起させまして」

「えっ、えっ」

「湿度の維持と桑の水やりの為に小川を引かれました。ああ、この小川の先は池になっていまして。そこでも水棲生物を飼っていますよ」

「えぅ……」

「極めつけはこの土です。辺り一帯沼地だったのを、乾燥させました。炎の魔法で一気に焼いたそうです。その後土壌改良し、今ではご覧の通りで」

「…………」


 桑畑を管理しているという農民は、笑顔でそう言った。セレストはそれに、引き攣った笑顔を返した。

 その桑畑からの帰り道、街道沿いは枯れ草だったが、そこを家畜が闊歩しているのが見えた。頭数は少なくまばらにいる。


「あれは、なんですの?」


 家畜は白い体毛をしている、首の長い生き物だ。セレストはそんな生き物初めて見た事もあり、興味津々で窓に張り付く。


「あれはアルパカという動物ですね」


 そう解説してくれたのは同行しているドラセナだ。忙しいだろうに、それでもセレストに同行したのは各所を回って報告書を回収する為だそうだ。提出が遅れているものをついでに集めて回るらしい。それでもセレストの予定に合わせ、しかもこうして説明もしてくれるのだから、セレストはありがたかった。しかもドラセナが居れば、領民はセレスト相手でも不審がらず接してくれる。スムーズに話が進むので助かった。

 セレストはそんな事を考えながら、家畜の群れを眺める。


「アルパカ」

「ええ。羊みたいに毛を刈ることが出来ます」

「まあ。なら、それを見せて頂く事はできるかしら」

「大丈夫だと思います。工房に連絡を入れておきますね」

「わたくしもそれなりに素材は見ていますが、アルパカ、というのは初めて聞きました」

「まあ、国内ではここにしか居ませんからね」

「やはりそうなのですね」


 珍しい生き物だとは思ったが、それでも思った以上だった。気を利かせたドラセナが馬車を停めてくれたお陰で、遠目ではあるがじっくり観察することができた。


「飼育が難しいのかしら」


 セレストはその生き物をまじまじと見る。胴体は足の長い羊、といった様相だが、やはり羊にはない長い首が奇妙に感じる。そのバランスが不思議ではあったが、ふかふかの体毛は気持ち良さそうだ。アルベルトが飼育を許可していると言う事はそれなりに利用価値があるのだろう。であれば、もっと市場にあってもおかしくない気がする。輸入品にもなかったような気がすると、セレストは首を傾げた。


「高山地帯の生き物なので、飼育はそれなりに工夫が必要ですね」

「まあ……」

「ただ、ここにいるアルパカはそういうのとはちょっと違いまして」

「違う、とは」

「一言でいうと愛玩用です」

「……なるほど」


 つまり、リリアンがこのアルパカを見て、可愛いと言ったから育てている。そういう事なのだろう。


「以前アルベルト様がアルパカの生息域に行った時の事なんですが」

「ええ」

「その山のアルパカのヌシと縄張り争いになりましてね」

「えぇ!? なぜ!?」

「まあ、アルベルト様が勝ったんですが」

「待って! どうして縄張り争いに!? 勝ったって、どんな勝負を!?」

「骨肉の争いをしましてねぇ」

「ど、どうしてアルパカとそんな事に!」


 言っている間ドラセナはにこやかで、とてもではないが骨肉の争いを思い返しているようには見えない。というか、なにをして縄張り争いに到ったのか、どうしてその勝負を受けたのかなど、セレストはつっこみが追いつかなかった。


「それでまあ、アルベルト様が山のヌシになったわけなんですけど」

「え、あ、はい……」


 とりあえずいちいちつっこんでいては話が進まないので、セレストは相槌を打つに留めた。


「ヌシになったはいいが、山を治めるわけにはいなかい。アルベルト様はここ、ヴァーミリオン領の領主ですから」

「んんっ……ええまあ、そうですわねぇ」

「アルパカの元ヌシに全権を渡しまして」

「……はい」

「代わりに小さな群れひとつを託されたのです」

「…………」


 もう、なにがなんだかわからない。どうしてアルパカに権利を渡して、それで群れを託されるのか。貢ぎ物かなにかだろうか。あの人は動物すら魅了すると、そういう事なのだろうか。


「断りきれなかったので領地に引き取ったはいいが、毛刈りしてもあまり量がない。頭数が少ないから増やすか、でもそれも大変だとなっていたところに、リリアン様がお気に召しまして」

「……なるほど、それで愛玩用になった、と」

「ええ。そういうわけです」


 そういうわけなら、数が少ないのも頷ける。大した収穫もないのに飼育され続けている理由も。なかなか可愛らしい見た目であるし、あれならリリアンが気に入るのも分かるなと、遠ざかっていくアルパカを視線で追って、セレストは思っていた。


「ただ、アルパカが来てから農作物の収量が増えたのです。調べてみると植物の活性化をさせる魔物だったんですよね」

「ま、魔物!?」

「ええ。ですが、ここのアルパカは無害ですよ。真のヌシたるアルベルト様に絶対服従しているので」

「そ、そうなの……それは、安心ね」


 ええ、とドラセナは頷く。彼がにこやかなのは、アルパカが来た事によってもたらされた収量の増加というのが、本当に素晴らしい成果だったからなのだろう、たぶん。アルベルトはきっと、それに対しては「だからなんだ」と言っただろうが、家令である彼はそうはいかない。領地での収穫が増えることはすなわち、納税額が増えるということだ。莫大な財を持つヴァーミリオン家であっても資金はいくらあってもいいだろう。というより、娘の為に散財する事が多いから、領地の運営資金を少しでも稼いでおきたいという事かもしれない。「現地で神獣と呼ばれている理由がわかりますよね」と言う声も弾んでいる。

 では次へ向かいましょうかと爽やかに言い放つ彼の、苦労を垣間見た気がする。とりあえずヌシがどうとかというのは頭から消して、セレストは静かに頷いた。



 それからも見る物聞く物全てにアルベルトの異常行動、もとい偉大な功績が、領地にはふんだんに溢れていた。

 やれ小麦畑を作る為に森をひとつ消し去っただの、逆に森を作っただの。それをどの範囲からやったのか、と聞いたら、見える範囲すべてだと言う。すべてとはどういう事かと訊ねれば、「見渡す限りすべて」と返って来た。


「それは、あの山の麓からですか?」

「ええ、そうですよ」


 セレストは絶句した。山は、ヴァーミリオン領の北端にあり、その先の山脈の末端になる。距離で言えば馬車で三日といったところだ。そこからここまでを、造り直したのだと、そう聞かされた。


「と、とんでもないですわね」

「まあ、アルベルト様ですから」


 ドラセナはさらっとそう言ったが、セレストの頬は引き攣ったままだった。「さすがに三ヶ月かけてましたよ」と言われても、たった三ヶ月で出来るものなのか、と呆れが深まるばかりだ。

 この街で他に有名なのは水路だ。街を網羅する水路は治水の為というより、船での運搬の為のものだそうだ。それがヴァーミリオン領に張り巡らされ、更には南に隣接する領地まで伸びる。そこから先は、王国を縦断して海に出る。トゥイリアース王国は東西にもそれなりに広さがあるが、南北の方が長い。それを王国の北西に位置するヴァーミリオン領から、南の端、海まで貫く大運河。王都へも続いており流通に多大な影響を及ぼしたその運河は、そもそもヴァーミリオン領への迅速な貨物の運搬の為に造られたと、セレストはここで初めて聞いた。さすがに信じられなくて「嘘ですよね」とドラセナに尋ねたところ、「いえ、魔法で掘ってましたよ。この目で見ました」と返されたら、信じないわけにいかなかった。


「それを、あの子の為だけにやったと言うの……?」


 用意された部屋で一人になった時、セレストはそう呟いた。

 運河を利用して異国のオレンジを輸入していると聞いた。毎週届くその木箱のオレンジは、リリアンの好物だそうだ。

 王国の南の大きな港に入ってきたそれは、運河を上り王都へと入る。船はもちろんヴァーミリオン家のものだ。王都の別邸近くで荷物を下ろし、そのまま船はヴァーミリオン領へ向かう。港から入ってきたばかりのオレンジはその日の朝食に、リリアンに出される。


「ふ、ふふふ……」


 ただそのオレンジは、王国内で栽培がされている。南の海沿いの島で育てられているが、そもそも栽培が始まったのはヴァーミリオン家が融資して事業開発がなされたからだ。大嵐で船が大破し、漁を再開できなくなった漁師達を雇い入れ、島ごとオレンジ畑に変えてしまった。これが環境が良かったようで、オレンジは毎年豊作。なんなら国内でもよく売れている。それを輸入するのは、産地が異なれば酸味や甘味のバランスが多少異なるからだ。リリアンが飽きることがないようにとの配慮なのである。

 パンの小麦は広大な領地で育てられたもの。ジャムは領地で採れた果物から作られた特別製。食器は白い陶磁器、それを焼く為の原料となる石を領地で生成しているらしい。陶石、というのがそうなのだが、自然に出来上がっているものを採掘して使うのが一般的だ。それをどうやって生成しているのかは、セレストにはわからない。

 とにかくそうやって、リリアンの為に、領地であらゆるものが作られている。

 それを澄ました顔をして享受しているリリアンにも薄寒いものを感じたのだが--セレストはすぐにそれは振り払った。もし万が一、セレストがそんな事を考えているとドラセナやリリアンに近しい者に知られたら、身の危険があるかもしれない。そう思ってのことだった。


「〝銀朱(ぎんしゅ)箱庭(はこにわ)〟、ね。確かにここは……あの子の為の土地だわ」


 セレストは、来たばかりの時にドラセナが言っていた事が真実だったのだと実感するのだった。



 それから工房へ通い、様々な案を出し合った。セレストが出来るのは、主にデザインに関することだけだ。新しい生地、その開発は工房の職人が行うしかない。だが、難しいはずのそれを、彼らはなんでもないことのようにこなしていた。場合によっては何日も寝ずにやっているそうだ。そのせいで、時折話が通じなくなることもあったが、そういう時は問答無用で仮眠室に押し込んだ。幸い、染色の方は問題なく新素材にも適応できた。


「ほお! いい青じゃないか!」


 工房長は、染めあがったばかりの布地を広げ、そう言った。その青はアズール家で確立させた時のものより鮮やかに見えたが、それは新しい素材が光沢のあるものだったからだろう。色自体は工房長が言う通り良いもので、これならいいドレスになりそうだとセレストも感じていた。

 生地が出来上がったら、さっそくそれをドレスに組み上げる。ただ、わかりきっていたが、それが難関だった。


「やはりこのデザインはなぁ」


 工房長は頭をぺんぺんと叩く。


「ええ、難易度が高いですわね」


 セレストも腕を組んで唸っていた。

 アルベルトとセレストとが相談して書き上げたデザイン、それを元にドレスを作っているわけだが、ドレスのラインを出すのに作った型紙では、うまくウエストを引き締める事ができなかった。


「普通の生地なら返って作りやすいですね」


 協力してくれている職人は、試しに作ったドレスを手にそう言った。


「これでもそれなりにラインを出せますが」

「それで、ヴァーミリオン公が満足されるかしら」

「……しないでしょうね」


 試しに作ったドレスは確かに綺麗に仕上がっている。だが、コルセットを使わず着られるかと言うと、それは難しい。アルベルトの要求はあくまで〝コルセット不要のドレス〟。それも、リリアンに相応しい美しいものでなければならない。そうなると余計に難しい。いつもの事だ、と職人は笑った。


「ここ。ここに織り込んではどうかしら」

「だが、それでラインがうまく出るか?」

「では裏地に縫い付けるのは」

「それも不安がある。機能が十全に出るかどうか……」


 うーん、と一同腕を組み、唸り声を上げる。


「だめね。一旦休憩にしませんこと?」

「それがいいだろうなぁ。朝からずっと取り組んでいることだし」


 工房長がそう言ってくれたので、その場は解散になった。十分ほど休憩する事になり、セレストは世話役の侍女が淹れてくれたお茶を口に含む。思っていたよりも喉が渇いていたようで、すぐに半分以上飲んでしまった。

 お茶のお代わりを貰っている時に、工房長と職人達が戻ってきた。それを目で追っていると、職人のうちの若い一人が、手にしたふわふわのものと毛糸とをセレストに差し出す。


「セレスト様、こちら、ドラセナ様に依頼されていたものです」

「あら、ありがとう」


 セレストはカップを置いて、それを受け取った。


「それは?」

「アルパカの毛糸です。見た事が無かったので」


 紡いでいない白いふわふわの毛はこうして持っているだけで暖かく感じる。セレストの体温のせいだ。さらさらで滑らかな手触りは、確かに高級なカシミヤと大差ない。

 聞けば、ヴァーミリオン領でわずかに取れるアルパカの毛糸は、魔力を含んでいるらしい。それが保温に一役買っているそうだ。へえ、とセレストは目を丸くする。


「ですが、アルパカの毛は製品にはされていませんわよね」

「個体差が激しくて安定しないんだ。量も取れないし、繊維の太さもまばらだからな」

「織り分けたりはしませんの?」

「手間ばかりかかるからしない。もっと使い易いものがある事だし」


 なるほど、とセレストは思った。なにも使用する事に拘らず、もっと使い勝手の良いものがあれば、それを使った方が早い。カシミヤという、一般的にもよく流通しているものがあるのだ、一部に無理矢理使う必要はなさそうである。


「……!」


 セレストは目を見開く。そうだ、何も無理に使う必要は無いのだ。


「そうよ、そうだわ!」


 その声に一同がびくりと肩を揺らした。


「別に使わなくても良いのよ!」


 工房長はぱちぱちと瞬く。


「な、なにを?」

「だから、これをこう……こうして……」

「ふむふむ……」

「で、こっちをこう……」

「おお……!」


 セレストは、紙の端っこに大まかな型紙を描くと、そこに線を加える。考えていた当初の案は全身を新素材で作るというものだったが、それを思い切って上下で分断したのだ。そうして一部に新素材を使う。主に引き締める必要のある箇所にだけそれを使えばいいと、そう思いついたのだ。


「なるほど、これならいけるかもしれん」

「これで早速作ってみましょう!」

「ええ。上手くいくといいですわね!」


 そうして、本格的なドレス作りは始まった。その時のセレストの思い付きが功を奏し、ドレスは瞬く間に形になった。やはり、素材の開発が済んでいたのが大きい。一週間もすれば仮縫いの状態が終わった。その段階で、デザインを元に三つのパターンでのドレスが仕上がっていた。その三つからアルベルトが気に入ったものを仕上げる事になる。

 セレストは、それぞれのドレスの仕上がりを手紙にしたためた。


『職人の発想を取り入れた物も、形良く仕上がっております。長年リリアン様のドレスを作っていただけありますわ。当初の予定とは異なりますが、どの形状で進めましょうか』


 それに対する返答はすぐに返ってきた。


『悪くはないが当初の物より良いとは思えない。一番原型に近い物で進めるように』


 それはすぐに工房に伝達され、他の二つは倉庫に仕舞われた。別の機会に使うそうだ。さすがに破棄したりはしないのか、とセレストはなんとなく安心した。どちらもそれなりの金額を掛けて作られたものだからだ。

 形が決まれば装飾を施す事になる。が、肝心の砕いた魔石が届いていなかった。調整に手間取っているらしい。


『ドレスに縫い付ける魔石が揃っていません。色味を確かめようにも、わたくしでは魔力が弱いらしく、充分に確認が出来ないのです』

魔法天文台(まほうてんもんだい)から技師と機材を送らせる。魔道具の動作確認に使用するものだ。これで魔力を通すといい。魔石の方は調整しよう』


 手紙を出せば即座に返答がある。内容も的確で、行き詰まってもアルベルトからの手紙が来れば解決する。分かってはいたがやはり有能な男だ。これが娘のドレスの為だというのが残念なポイントだが。

 順調にドレスが出来上がっていく中、ある時のアルベルトからの手紙に、頼みがある、と書かれていて、セレストは瞬いた。


「頼み? 閣下がわたくしに?」


 驚いて手紙を読み進めると、そこには思ってもみなかった事が書かれている。


『先日シュナイダー君に会ったんだが、君がどうしているかとしつこく聞かれた。研究に取り組んでいるようだと言っておいたが、うるさくて敵わないから君からも報告してやってくれ』

「……あっ」


 セレストは瞬いた。ここへ来てからというもの、忙しくて忘れていた。家に手紙を出していなかったのだ。アルベルトからの手紙を投げるように机の上に捨て、慌てて便箋を取り出す。


「お父、様、ごめんなさい、こちらでは、刺激が多く……ご連絡を、忘れておりました……」


 急いで書いた為に走り書きになってしまったのを清書して、急いでアズール家に出して欲しいとドラセナに頼めば、その日のうちに届けてくれた。折り返しで受け取った手紙には、


『夢中になっていたようだな。元気そうでなによりだ。だが、連絡は忘れないように。風邪は引いていないか? 徹夜はするなよ、お前はまだ子供なのだからね』


と、心配事が羅列されていた。急いで書いて使者に渡したのだろう、ところどころインクが擦れて滲んでいる。セレストは反省して、アルベルトへの報告書と共に父への手紙を書くことにした。

 そうしてあっという間にひと月が経過した。


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