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異世界戦国記  作者: 鈴木颯手
最終章・三河決戦
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第百一話・三河侵攻5

 織田信秀による三河への逆侵攻と松平広忠の捕縛。安祥城、岡崎城を始めとする三河と尾張国境部の城の陥落は駿河を出て遠江に入った今川義元の耳に迅速に届けられた。二万の軍勢はその大軍ゆえに動きが鈍いが今川家の兵の中でも精鋭を固めたこの軍の速度は他家よりも早い動きを可能としていた。

 しかし、それでも様変わりする三河の情勢に介入できる程の速度はなかった。信秀の大胆な行動に義元は頭が痛む思いをしながら隣にいる太原雪斎に話かけた。


「雪斎よ。どうやら織田家は思い切った手を打ってきたようだ」

「そのようで。恐らくですが尾張が戦場となる事を嫌ったのでしょう。織田弾正忠家はこれまで美濃攻めを除き全てが尾張國内で行われてきたもの。戦火によって傷つき、荒れ果てた状態から回復してきたころ合いでしょう。それを再び荒らされるのを良しとしなかったという事でしょう」

「それで三河に侵攻か。早々できる事ではないな。織田は美濃の斎藤家とも敵対している。奴らが攻め手来るとは思わなかったのか」

「その辺は何かしらの策を用いているはずです。少なくとも斎藤家が全力でもって尾張に侵攻できない程度の何かを用意しているはずです」

「理由……、となると土岐家か?」

「若しくは美濃國中の国人衆か。いずれにせよ、我らは三河を決戦の舞台にするしかないでしょうね」


 三河は松平家が支配する土地であり、今川に忠誠を誓っている者はほとんどいなかった。何しろ松平家の前は吉良家が支配者であり、今川は遠江を奪い取るまで影響を与える事はなかったのだ。


「曳馬城の飯尾乗連殿に指示を出して先に三河入りをさせますか?」

「いや、やめておこう。曳馬城の兵は千程度であり、その程度で三河に入っても返り討ちにされるだけだ。ならば全軍を揃えて三河に入る。三河に不慣れなのは織田とて変わらない。焦る必要はないさ」

「かしこまりました。ですがいつでも出立できる準備は整させましょう。いざという時の備えは必要ですからな」

「頼む」


 信秀の三河侵攻には驚きはしたものの、その程度で揺れる程義元は経験不足でも能力不足でもなかった。駿河、遠江、三河を支配する大名として彼は一切動揺することなく堂々と進軍していた。その様子は兵達にも伝わり、一切動じることなく進んでいく。

 その様子に太原雪斎は心に来るものを感じていた。幼き日より教育係として義元の側に居続けた彼は義元の成長を喜ばしく感じていたのだ。


「(お館様……。大きくなられましたな。貴方様ならいずれ京に上り、天下に号令をかける事も可能でしょう)」


 雪斎の脳裏には京の都に君臨する義元の姿が浮かんでいた。しかし、それと同時にその隣に自分はいないだろうという確信もあった。このところ、彼は体調を崩すことが多くなっていた。既に50を目前としている彼はこの時代では老人に分類される年になろうとしている。つまり、何時死んでもおかしくはない状態にあったのだ。


「(お館様がいくら優れているとはいえ京の都は遠い。織田は当然として美濃の斎藤家に近江の六角家。京の都の更に西、摂津の細川家や三好家等障害は多い。それらすべてを退け、天下人となる頃にはもう私は……)」


 それを理解しているからこそ、今回の侵攻を失敗するわけには行かなかった。ここで織田家を滅ぼす乃至大きく力を削ぎ落すことが出来なければ今川は織田家と三河や尾張で泥沼の戦いを強いられるだろう。そうなれば義元の上洛は一体どれだけ遅延することになるのか。


「(何としても織田家を倒さねば……!)」

「雪斎? どうかしたのか?」

「何でもありませんよ。お館様。織田家との戦の流れを考えていただけですので」

「そうか……。だが戦はまだ先だ。今から張り詰めていては戦までに持たないぞ」

「そうですな。少し織田家の動きのせいで急いてしまったようです」


 雪斎は義元の心配そうな顔を見て適当に誤魔化しながらも主君の上洛の為に改めて覚悟を決めるのだった。


挿絵(By みてみん)

最終章の舞台となる三河國全土の地図になります。

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