第九十九話・三河侵攻3
松平軍二千五百を壊滅させた俺たちが軍を進め、安祥城に辿り着いたのは夕方ごろだった。俺としては何もせずに投降して欲しいと思っていたのだが安祥城の門は硬く閉ざされ、塀の上には少ないながら兵士が立っているのが見えた。
「どうやら敵はやる気のようだな」
「そうなると明朝から城攻めという事ですか。安祥城は大規模な城であり、清康が三河の重要拠点として整備しておりますので寡兵でもかなり粘る可能性がありますな」
「それでは困るからな。明日中には落としてしまいたいものだ」
どうするか。普通に平押しするかそれとも何かしらの奇策でも使うか。そう思っていると若手衆の金森可近が近づいてきた。
「殿! 某に夜襲の許可をくださいませ!」
「可近? 何を言っている? あれを落とせる自信があるのか?」
「無理でございます!」
じゃあ何で夜襲なんて言ってきたんだよ。
「我らが狙うは敵の防備にほころびを作る事です! 明日の本戦で戦いやすくするために城門や壁、何でも良いので突破口を作っておきたいのです!」
「……成程な。だがどうする? 普通に行うのでは意味が無いだろう?」
「勝手ながら若手衆の何名かを本体とは別行動を取らせました! 殿が野営の準備を大々的に行えば敵の視線はそちらにくぎ付けになるでしょう! その隙をつき、城に接近し一暴れしようと思いまする!」
……こいつ、ナチュラルに軍機違反を言ってないか? 隣で聞いている道安の顔が引きつっているぞ。まぁ、それは俺もなんだが。
だが、まぁ悪くはない。俺たちが野営をすれば敵は今日は攻めてこないと思うはず。それでもこちらを見張るために視線はくぎ付けになるだろう。態々寡兵しかいないというのに小賢しい手を使ってこないと相手も思うだろうしな。それも最初から本体にいない兵ならなおさらに。
「……良いだろう。だがお前達が窮地に陥っても助ける事はしないぞ? 構わないな?」
「勿論でございます! ですが必ずや殿が満足できる結果を持ち帰ってきて見せまする!」
そう言って可近は本陣を出ていった。道安が不安そうにこちらを見てくるが若手衆が勝手にやり始めてこちらが事態を把握できないよりはマシだろう。それで死ぬようなことがあれば……。悲しいが気持ちが逸った代償とかんがえるしかない。無論、俺としては全員が無事に戻ってきてくれた方が嬉しいけどな。
「殿! 大変です!」
野営の準備も終わり、見張りを立てて寝静まった頃に俺は突如としてたたき起こされた。目を開ければそこには道安がおり、その周囲には佐久間信晴や河尻親重等の姿もあった。
「何事だ?」
「安祥城より火の手が上がっております! どうやら、若手衆らが夜襲に成功したものと思われます」
「何?」
慌てて確認してみれば確かに火の手が上がっている。真っ暗な中で安祥城から火が燃え盛っている。あれは……城門か? 他にも城門付近の櫓も轟々と燃えている。
兵も悲鳴か、雄たけびか、それとも怒鳴り声か。混乱した様子の声がこちらにまで聞こえてくるあたり本当に混乱しているようだ。若手衆はその任務を見事に全うしたという訳だな。
「殿……!」
「道安。若手衆を迎える準備をせよ。それと、彼らの安祥城攻略の功績はでかい。何としても速攻で落とすぞ」
「はっ!」
それからしばらくして若手衆が戻ってきた。若手衆は思惑通りに夜襲に成功したようで安祥城の城門とそれを守る櫓の破壊に成功したらしい。それに城門を守る敵将を討ち取ったとも言っており、敵に少なくない出血を強いたようだ。
実際、翌日の城攻めで織田軍は修理が出来ていない城門をくぐり一気に内部に侵入。統率が取れていない少ない敵兵を鎮圧していきながら本陣を攻め落として安祥城を半日で攻略する事に成功した。
安祥城を守っていた本田忠豊は討ち死にし、俺たちはしっかりと英気を養い翌日岡崎城へと侵攻を開始したがこちらは広忠捕縛や安祥城落城の報告が来ていたのか戦わずに降伏した。
こうして松平広忠の支配地域を全て占領することに成功し、三河中央部を占領することに成功した。これで少なくとも尾張の外、つまり三河で今川義元を迎え撃つ主力の準備は整った事を意味しているのだった。




