第九十八話・三河侵攻2
「殿! 我らの勝利ですぞ!」
「我ら若手衆も活躍しましたぞ!」
「松平など恐るるに足らず! この程度の敵など敵ではありません!」
「ひゃーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!!!」
「うるさ……」
松平家当主広忠と筆頭家老大久保忠員を捕らえた前田利昌が本陣へとやってきたのだがその後ろには金森可近、島田秀満、池田恒利等若手衆もついてきており、思い思いに口に出しているせいでものすごくうるさかった。恒利なんてどこの世界の笑い声だよって言いたくなるような笑い声を出している。というかこいつがまともに喋っているのを見たことがないがもしかしてそう言う奴なのだろうか……?
確か摂津出身って言ってたけど摂津という場所ではそう言うのが流行っていたり? それとも14歳という事で中二病なのだろうか? 両方あり得そうでなんとも言えんな。別にうるさいだけで害はないし放っておいた方が良さそうだな。今はそれよりも大事な事が目の前にあるのだから。
「さて、初めましてだな。広忠殿。俺が織田弾正忠信秀だ」
「……っ!」
俺が自己紹介をしても広忠は睨みつけてくるだけで何も言ってこない。まぁ、縛られているから出来る事がそれしかないのだろうけどなんかものすごく恨まれているな。視線だけでものすごい恨みが込められているのを感じる。……俺別に何かした覚えはないんだけどなぁ。
「……何故、そんなに俺を恨みが籠った目で睨んでいるのか分からないのだが? 俺は別に何もしていないと思うのだが」
「っ! 貴様の! 貴様のせいで父上は! 亡くなったのだぞ! それなのに何を!」
俺の言葉を聞いて広忠はそう怒鳴ってくる。……ああ、成程。確かに清康は尾張攻めの失敗後に亡くなっていたな。5年も前だから具体的な事は忘れたが確か殺されたのだったか? ……いや、俺ら関係ないじゃん。
「バカか? そもそも松平清康の死に俺たちは関わっていない。交戦したのは織田家一門の藤左衛門家であり、我が弾正忠家ではない。そもそも、他国を侵攻し、返り討ちに遭って亡くなったのに責任を侵攻先に押し付けるなど愚かだな」
「っ!」
「大方、今川義元等の他者から俺を恨むように仕向けられてきたんだろう。その方が今川にとっては都合がいいからな。清康が誰に殺されたのかは知らないが織田家のせいにすればお前はこうして俺に恨みを抱き今川の為に戦ってくれると想定しているんだろう」
「……」
「松平の没落具合を考えれば家臣たちもそう思わせるしかなかったのだろうがそれにしても愚かだな。結局お前は都合よく踊らされていただけだ」
「わ、私は……!」
「殿……」
広忠も10代半ばの少年に分類される人だし仕方のない面もあるだろう。そう考えると中途半端なタイミングで殺された清康が全て悪いな。あれが死んでいなければこんなことにはなっていなかっただろうしな。まぁ、俺にとっては都合が良いんだがな。
「まぁいいさ。どちらにせよお前たちは織田家の捕虜だ。今後の処遇は追々決めるとする。俺たちはこれからお前達が捕らえられた知って混乱する安祥城と岡崎城を攻めねばならないからな」
二人は尾張に移送しておくとしよう。三河に置いておいて今川に殺されるなり救出されるなりされては面倒な事になりそうだからな。
「……今川に、勝てると思っているのか?」
「はぁ? なんだいきなり。それこそ愚問だろ。俺に忠誠を誓い、ここまでついてきてくれている奴等の為にも負けるわけにはいかないんだよ」
「そうか……」
最低でも尾張に侵攻するだけの力を削がないといけない。俺たちはそのために三河にまでやって来たんだからな。
「利昌。すまないが三百ほど率いて二人を熱田城に移送してくれ。移送後は俺たちに合流するために直ぐに戻ってきてほしい」
「お任せください! その任務! 二人を捕らえた者の責任として全うして見せましょう!」
広忠たちは利昌に任せておけば大丈夫だろう。さて、少し想定外の事もあったが俺たちも自分の役目を全うするとしますか。
「全軍! 前進せよ! 目標は安祥城と岡崎城! 一気に攻め落とすぞ!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
俺は五千の兵を率いて安祥城に向けて軍を動かすのだった。




