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異世界戦国記  作者: 鈴木颯手
最終章・三河決戦
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第九十六話・奇襲

 松平広忠率いる二千五百の兵は岡崎城の西に位置する安祥城に入ると数日後に再び出立した。自分達だけでは尾張に侵攻したとしても返り討ちにされるだけだと分かっていた為に今川軍がやってくるのを待っていたのだ。

 しかし、それも数日で限界を迎えた。正確には織田家の動きのせいで動かざるを得なかったのだ。


「まさか鷲塚城に織田家が攻め入ろうとは……」

「国境の城に籠り籠城するというこちらの読みが外れてしまいましたな」


 広忠のつぶやきに忠員が答えた。そう、織田家は三河西部の城、鷲塚城を攻撃したのである。鷲塚城は吉良義郷という武将が一帯を治める場所であり、松平家にとっては無視できない場所だった。というのも吉良家は由緒ある家系であり、本来であれば足利家や今川家に匹敵する家系なのだ。没落し、西三河の豪族の一つにまで落ちぶれたとはいえその権威は衰えていない。

 それだけに織田家がここを攻めるのであれば救援に向かうしかなかった。相手の数は不明であるがそれでも出来る限りのことをしなければ松平家の名に傷をつけてしまう事になる。


「織田はどの程度の兵で攻めてきているのか……」

「使者の報告では二千から三千との事ですがその程度で攻めてくるとは思えません。最低でも五千は覚悟しておくべきでしょう」

「倍の数か……。やはり松平家だけでは力不足だな」


 だがそれも今川が織田家を踏みつぶすまでの辛抱であると広忠は自分に言い聞かせた。今川の力をもってすれば織田家など物の数ではない。今攻め込んでいる敵も直ぐに叩き潰す事が出来ると安祥城から鷲塚城に続く道をつき進んでいく。


「西尾城からも援軍として三百の兵が向かっているとの事ですし城の兵と合わせて三方向から挟めば数の差があろうと追い払う事は出来るでしょう」

「……そうだな。そうであってほしいものだ」


 広忠は忠員の言葉にそう返すが次第に近づく戦の気配に体の震えを押し殺すので精いっぱいだった。実は広忠は今回が事実上の初陣なのである。そのために戦の気配に慣れておらず、織田家への復讐心だけではカバーしきれない程不安と恐怖に押しつぶされそうになっていたのだ。


「(やはり、私では父上のようにはなれないか……)」


 こういった面でも優秀な父親と比較出来てしまう為に広忠は悔しさを滲ませていた。それに、なんとなく気づいた忠員が何か励ましの言葉をかけようとした時だった。突如として右方から歓声が上がり、いくつもの上り旗が上がった。それらは織田家の家紋を記したものであり、進軍する松平軍を右から奇襲する形で出現したのである。


「な、なんだ!?」

「殿! 織田軍の奇襲です! 急ぎ陣形を!」

「わ、分かった! 者ども! げ、迎撃を……!」


 しかし、いきなり現れたとしか言いようがない織田家の出現に松平軍は全く対応できなかった。そして、そんな動きが鈍い松平軍を織田家の軍勢が横から食い破らんと一気呵成に攻撃を開始した。


「進めぇい!!! 松平の軍勢を打ち倒して手柄を立てるぞ!!!」

「手柄! 手柄を寄こせぇぇぇ!!!」

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「な、なんだこいつら!?」


 織田家の奇襲に全く対応できていない松平軍に織田家の若手衆、金森可近、島田秀満、池田恒利、佐々兄弟らが襲い掛かった。年若く、勇猛果敢な彼らは急造されたばかりの松平軍の中を次々と食い破り、陣形等作らせる暇を与えなかった。


「くそ! 狼狽えるな! 陣形を! 陣形を整えるんだ!」

「殿! 申し訳ございません! 某がもっと早く気づいていれば……!」

「忠員! 何とか、何とか出来ないのか!?」

「……」


 狼狽した広忠に掴みかかられるが忠員は答える事が出来なかった。この時、奇襲を仕掛けてきた織田家は数千にも上っており、自軍では太刀打ちが難しい相手だったのだ。それを理解していた忠員にはここから巻き返す方法は残されていなかった。


「……殿、残念ですがここは引きましょう。鷲塚城への援軍は西尾城の兵に任せるしかございません」

「織田家の兵を前にして逃げろというのか!?」

「その通りです! 急ぎ安祥城へ!」


 忠員が必死に広忠を説得しようとするが時間切れであった。彼らがいる本陣に織田家の騎馬隊が突入してきたのである。


「我は前田利昌! 松平広忠、覚悟!」

「殿!!!」






 その後、松平軍はまともな抵抗も出来ずに壊滅し、生き残りは散り散りに逃げ去る事となった。この戦いに置いて松平広忠と大久保忠員が捕えられる事となるのだった。


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