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波乱の自己紹介

 一人はショートカットが似合う長身の女の子。たぶん俺より歳は上だろう。

 もう一人の女の子は緩やかなウェーブがかかったロングヘアをハーフアップでまとめている。

 長身のほうはタンクトップとショートパンツという、女子にしては軽装すぎる姿。日に焼けた肌と肉感的なプロポーションが目に毒だ。俺はなるべくそっちを見ないようにした。

 もう片方は風が吹けば舞い上がるようなヒラヒラした膝丈のスカートを履いている。こちらを値踏みするような視線が針になって刺さるようだ。

 昨日まで都会で暮らしていた俺が言うのもなんだが、どちらも保守的な田舎では目立つ格好なんじゃないだろうか。


「え……っと、俺……その」

「この子が是澤洋くん。フリースクールに応募してくれたんだよ。今日から二人にもお世話になります。よろしくね」

 俺が言い淀んでいる間に、凪が代わりにハキハキと自己紹介をしてくれる。

「フリースクール……?」

 ハーフアップの女の子が意外そうに繰り返す。そうする意味は分かりかねた。

「二人も自己紹介してもらっていい?」

 凪の提案に、女の子ふたりは顔を見合わせる。まず口を開いたのはハーフアップの女の子だ。


(はやし)瑠奈(るな)よ。ここ一帯のインフラを担当してるの。覚えておいて」

 見た目は小柄で華奢だが、声と態度にプライドの高さと圧があった。ひと目で苦手なタイプと分かる。俺は無意識に視線を逸らした。

「……小野寺(おのでら)、あぐり。援農で働いてる。よろしぐ」

 語尾にどこかの地方の訛りが入っている。ぼそぼそとした喋りだが、低く落ち着いた声は不思議と耳の奥まで届く。俺とは大違いだ。

「ありがとう。洋くんも、二人の名前覚えたかな? みんなお腹すいたでしょ。さっそく晩ごはんに……」

「その前に」


 凪を止めたのは小野寺さんの一声だった。彼女はまっすぐに俺を見ている。

「おめ、喋れねえのか? それとも声を出すのが面倒なだけか?」

「え、あ、あの」

 冷や汗が背中を濡らすのを感じる。なんで責められてるんだろう。俺が何かしたんだろうか? 凪が代わりに自己紹介したのを怒ってるのか? でもそれなら俺じゃなく、凪が勝手にやったことだ。

 小野寺さんは表情豊かではない。声も低くて感情が読めない。

 だから、怒っているのかそうでないのかが分からなかった。

 俺はますます背中を縮こまらせてしまう。

「ちょっと、お姉さまが聞いてるでしょ。さっさと答えなさい」

「瑠奈」

「だってこいつ、はいもいいえも答えないんだもん。見ててイライラするのよね」

 棘のある言葉をポンポンと口に出す林さんを、小野寺さんは静かに見つめる。

 お姉さまって言ったよな。この二人は姉妹なんだろうか? その割に全然似てないし、苗字も違う。

「で、どうなの?」


 そこで見かねたのか、凪のフォローが入った。

「瑠奈さん、そんな風に聞かないで。ほら、緊張してるんだよ。船に乗ってる時間も長かったし、それに」

「凪」

 小野寺さんは、今度は凪に視線を向けた。

「おめも少し黙れ。こいつが喋れね」

「……はい」

 ハッと何かに気づいたような顔をした凪は、一歩下がって上目遣いで俺を見る。

「ごめん、余計なことしちゃった」

 凪からの小声の謝罪。それを受け止めてから、俺は小さく息を吸い込んだ。


「しゃ、喋れます。大丈夫、です」

「そっか。んじゃ、手伝え」

 小野寺さんはすでに準備が終わった人数分の料理を乗せた大きな盆を、遠慮なく俺に渡す。

「うおっ! 重……」

「落とすなよ。手前の部屋に運べ」


 玄関の脇に、長い年月をかけて磨き上げられた板間の上がり口から続く畳敷きの部屋が見える。

 慣れない重みに震える腕で盆を持ったまま靴を脱ごうとしたのを、林さんが目ざとく指摘した。

「何やってんの? 零しちゃうじゃない! 貸して」

「あっ……」

 俺から盆を奪い取ると慣れた様子で一旦、板間に盆を乗せる。

 そして優雅に靴を脱ぎ、立ち上がってから盆を持ち上げると、そのまま座敷へと運んでいく。

 俺はその背後をバカみたいに口を開けて見送っていた。

「ぼんやりすんな。次だ」

「ハイ」

 小野寺さんから次の盆を渡されて、流れ作業の機械のように運んでいく。

 ……俺、ここで上手くやっていけるんだろうか?

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