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文明の墓標

 ガタン、と電車が大きく揺れた。

 塩害を受けて錆が目立つ老朽列車が本州と四国を繋ぐ、終末後わずかに残った陸路――瀬戸大橋へと差し掛かる。


 リュックの紐を強く握り直し、俺は重い瞼を上げた。

 車窓の外にはただひたすらに青い海が広がっている。

 かつては「多島美」と称えられた世界に誇る観光地……だった。

 それが今は、ただ水没を免れた山頂が鋭い棘のように突き出している終わりの景色にしか見えない。


 電車は海面からわずか数メートルという、正気の沙汰とは思えない高さを走っていた。

 窓ガラスの向こう、すぐそこの線路を下を波が洗っている。まるで、海の上を直接滑走しているように錯覚する。

 もし今、嵐が来れば、この頼りない線路などひとたまりもなく飲み込まれてしまうのだろう。


 視線を下に向けると、透き通った水底に、何かが沈んでいるのが見えた。

 ……街だ。

 海岸線に沿ってゆるやかに区画された道路、工場の巨大な赤白煙突の先端、そして、かつて誰かが生活していた建物の屋上。

 それらが深い青色の影となって、ゆらゆらと海面の下で揺れている。


 まるで文明の墓標だ。

 俺たちが失った、二度と戻らない日常の。


 電車は沈んだ街の上を、無機質なリズムを刻みながら進んでいく。

 向かう先の香川の中継駅に到着したら、それ以降は完全な船路だ。

 ぽつぽつと水面に突き出ている、かつての山岳が見える海域を通り過ぎ、さらに南へ――俺が育った、あの段々畑の故郷へ。


 幼なじみ達は、俺の帰りを喜んでくれるだろうか。

 それとも天災が起きてすぐに都会へ逃げた俺を、よそ者として扱うだろうか。


 電車の軋む音が、俺の心拍数と重なる。

 遠くにあった故郷はもう、すぐそこだ。

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