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第四話 障 (1/3)

 放課後になりスマホを起動してみると、真白が早退していた事がわかった。

 発熱があったらしい。急いで帰宅すると、父も慌てた様子で階段を駆け下りてきた。


「おかえり青っ。すまない行って来る!」

「うんっ。いってらっしゃいっ」


 仕事に戻らないといけないからだ。家を出る父と入れ替わるように、私は玄関に上がった。

 手洗いを済ませた後、2階へと向かい、息を整え寝室の扉をそっと開けると、真白が私に気付いて、目をこすりながら身体を起こしたのだった。


「青ねーちゃん……? わぁい。青ねーちゃんだぁ……」

「真白。ごめん、起こしちゃったね。どこか痛いところはない?」

「ううん。ちょっと頭がフラフラするだけ……。でも、お腹空いた……給食の途中で帰っちゃったから……」

「そっか。じゃあ、軽く食べられるもの作ってくるね」


 お粥よりも短時間で出来る、雑炊を作ろう。ご飯はお弁当用に冷凍しておいたものがあるし、卵とネギもある。


「青ねーちゃん、行っちゃうの……?」

「すぐ出来るよ。アクアスエット、ここに置いておくね。えっと、ゾウさんは……落ちちゃってる。それじゃあ真白くん、ゾウさんと一緒に待つぱおんっ」

「うんっ」


 私は5分ほど時間をもらい、たまご雑炊と種を除いたスイカをひと口大に切って用意した。

 お盆を持って寝室に戻ると、真白はゾウのぬいぐるみと横になったままタブレットをぼーっと眺めていた。退屈そうだけれど、そう感じられる余裕があるなら良かったと思った。


「ごちそうさまでした。はぁ~美味しかったぁ」

「わぁっ。全部食べちゃうなんて偉いねぇ、真白」

「えへへ。ねぇ青ねーちゃん……ここに居てね……?」

「うん、わかった。居るね」


 お腹が満たされた真白は、再びぬいぐるみを抱きしめ布団に潜り込んだ。

 父の連絡の通り咳も出ていないし、こうしてご飯も問題なく食べられているなら、お腹の調子も大丈夫そう。

 うん。体温も平熱に戻ってきてるし、思ったより心配ないかも。



「私、寝ちゃってたんだ……」


 読んでいたはずの小説が、うつ伏せになって寝ていた。ページが折れていないかと、咄嗟に手を伸ばして取るけれど、良かった。寝癖はどこにも付いていなかった。


「ええっと……私、30分も居眠りしちゃってたんだ」

「う、うぅ」

「真白? どこか苦し――……え。何、これ……」


 私は目を疑った。(うな)される真白の全身を、黒い(もや)が覆っていたからだ。


「やめてっ。真白にまで……っ、本当にやめてっ!」


 うねうねと蠢きながら真白の腹部の上で留まる靄は、球体に無数の足の生えた、まるでプラズマボールに流れる静電気のような姿だった。

 そのもやもやしたものが、全身へと靄を広げているように見えた私は、真白の腹部に乗ったそれをまず退かさなければと急いた。


「……っ、離れて。真白から離れて!」


 中に手を入れると、靄で出来たうねうねが私の腕に絡め付いてくる。その感触は、コートやセーターを脱いだ時に発生する静電気の(まく)のようだった。

 私は手を繰り返し振った。両手を使って、真白の身体から靄を一生懸命振り払った。


「……青ねーちゃん? 青ねーちゃんっ」

「真白っ」


 真白が抱き付いてきた。何度も私を呼んで、震えている。

 靄はなくなっていた。私は震えるその背中を擦りながら、自分自身も真白に(すが)っていた気がした。


「僕、怖い夢を見たんだ……」

「そっかそっか。もう大丈夫だよ真白……。けど、そんなに怖い夢だったの?」

「うん……。黒い何かが追いかけて、僕、必死で逃げたんだけど、青ねーちゃんが」

「え? 私?」


 真白は顔を上げる。揺れる瞳の中に、頼りない表情の私が映った。


「うん……。青ねーちゃんが捕まっちゃって、青ねーちゃんが黒く固まったまま動かなくなっちゃったんだ……」

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