第29話 2つの依頼
翌日、俺はユノーとミネルバを呼び出した。
日が昇ってからまだそこまで時間は経っていない。
「お呼びでしょうか」
ユノーはミネルバを連れだってやってきた。
「早朝からすまない。頼みたい事があってな」
「いえ、わたし共も昨日はご馳走に預かりありがとうございました。一族の者は皆大変喜んでおりました」
ユノーは軽く頭を下げた。
「ユノーも食べてくれたか?」
「はい。あれほど美味なものはこれまで食したことがありませんでした」
「それは良かった。頼みたい事についてなんだが、雷狼族にダンジョンの周辺の探索をお願いできないだろうか」
「それは構いませんが、何か目的はおありですか」
「まず第一にどこかにマキリャ族という者たちが住む人間の村があるはずなので、それを探してほしい。第二にサントの街の情勢を探ってほしい。第三には人間の冒険者など、このダンジョンの脅威になるようなものがないか警戒してほしい」
サントの街を離れて以来、ククルやマキリャ族に関することは何もわからないままだ。
このまま座していても何も変わらないのであれば、こちらから探りをいれるほかない。
「承知いたしました。早速、諜報能力に長けたものを選抜して探索に向かわせます。期限は特に定めませんがよろしいですか」
「ああ。当面は周囲の警戒をお願いしたい。俺が人間の村を探すことやサントの街の情勢を探る理由は聞かなくていいのか」
「カガセ様が仰る事であれば、その理由を知る必要はございません。私どもは、ただ与えられた役目をこなすだけです」
「ありがとう。今回の依頼は俺の個人的な事情によるところも多い。周囲を探るにしても、無理だけはしないでくれ。特にサントの街にはあまり近づかなくて構わない」
「お気遣いありがとうございます。お呼びのあった場で恐縮ですが、私からも1つご相談させていただきたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
ユノーが俺に何かを相談するのは珍しい。
いつも俺のお願いを淡々とこなしてくれているのだから、なるべく希望はかなえてやりたいが。
「なんでも言ってくれ」
「ありがとうございます。鍛冶が可能となったことでノコギリなどの工具も作れるようになりました。ついてはダンジョン内に我らの家を建てることをお許しいただけないでしょうか」
俺も雷狼族の家については気になっていたが、源素が貴重なこともあり後回しにしてしまっていた。いくら森が住処の雷狼族でも帰る家は必要だろう。
「すまない。雷狼族が何も言わないことに甘えていた。もちろん建設を許可するよ。ミノタウルスやアラクネにも手伝うように言っておくから、場所も含めてユノーの思う通りにしてくれて構わない」
ユノーに任せておけば、無秩序に樹を伐採したり、おかしな場所に家を建てるようなこともないだろう。
なるべく彼らの住みやすい家にしてもらいたい。
「お気遣い痛み入ります」
必要なことを確認するとユノーは去っていった。
「そしたらアタシも戻って鍛冶でもするかな」
ミネルバはユノーに続いて帰ろうとしている。
「少しいいか。ミネルバには別な依頼をしたくてな。実は……」
呼び止めに応じてミネルバはこちらを振り向いた。
俺はそのままミネルバにある依頼を行った。
「それは面白そうだな!」
「よろしくな。できれば完成するまでみんなには秘密にしておいてくれ。それと、さっきユノーが言っていた雷狼族の家づくりの方を優先してくれ。俺のは余裕がある時にやってくれ」
「任せてくれ! 腕によりをかけて作ってやるぜ!」
俺の話を聞いたミネルバは、腕を回し始め、やる気に満ちた目をしていた。。
だが、急にミネルバの動きが止まった。
「そういえば、ラヴェンドラはどうしたんだ? 姿が見えないが」
俺の隣にラヴェンドラがいないことに気づいたようだ。
そう……今日はラヴェンドラがいないのだ。
ダンジョンができてからいつも俺の隣にいてくれたラヴェンドラが……。
「ラヴェンドラはイツカと稽古してるよ」
俺は自分の横の空間に目を落とした。
「あの二人いつの間に仲良くなったんだ? まあ、イツカに友達が増えるのはアタシも嬉しいけどな」
昨日のラヴェンドラのイツカの話の後、今日の約束をしたようだった。
きっと、彼女の無邪気なところにはイツカも気を使わなくて済むのだろう。
イツカがこのダンジョンでも気兼ねなく過ごしてくれるようになればいいと俺も思っている。
「じゃあ、そろそろアタシも行くよ」
ミネルバは片手を振って去っていった。
さて、俺も一人になってしまった。
ラヴェンドラとイツカの稽古に水を差すのも悪いから今日はこのまま一人で修行でもするか。
その日は、ほとんど一人で過ごすうちに暮れていった。




