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第20話 雷狼族

 「あれか」


 ユノーたちが発ってから2日が経っている。


 ユグドラシルで待つ俺の視界の先には、ボロボロの衣服を纏った集団がこちらに向かって歩いてきていた。


 老人や子どもも混じっており、20~30人ほどはいるであろうか。


 ミネルバと共に先頭を歩いていたユノーが歩み出る。


 「我が一族を連れてきた。これから世話になる」


 ユノーは改めて俺に深々と頭を下げた。


 後ろの集団は不安そうに俺たちを見ている。


 「よく来たな。まずはゆっくり休んでくれ。食料もある程度準備しておいた」


 「本当にいいのか? この地に我らが住んでも……」


 「今更何を言っている。もうどこにも行くところはないんだろう? と言っても、まだ家はないし、食料もそこまであるわけではないからな。休んだ後は手伝ってくれると助かるよ」


 ユノー達が去ったあと、俺たちはダンジョン内で彼らを迎える準備をしていた。


 ミノタウルスにはユグドラシルの後方ーーダンジョンの入口反対側の遠方ーーの木を伐採してもらい、材木の確保と平地の造成を行った。


 木霊とデスワームには、ミノタウルスが伐採した跡地に新たな畑を作ってもらっている。


 本来は、ダンジョンマスターの力で家なども作りたかったが、ミノタウルスを召喚したことにより、残りの源素量がゼロになってしまったため、先送りにしている。


 「一族を代表して感謝する。ありがとう」


 ユノーの言葉に合わせて後ろの者たちも頭を下げている。


 「太っ腹だな! じゃあ早速お言葉に甘えて、食いもんもらってもいいか?」


 「ミネルバ、お前はもっと遠慮しろ」


 ミネルバの言葉で雷狼族の者たちの顔にもやっと安堵の表情が浮かんできた。


 俺には想像もつかないが、これまで過酷な旅をしてきたのであろう。


 「皆さん! こちらに森の果物を用意してありますので、湖で体を洗ったら、ご自由に召し上がってください。あ、もし足りなかったら言ってくださいね。もっといっぱい獲ってきますから」


 ラヴェンドラの言葉を合図に雷狼族達は動き始めた。


 湖では子ども達が楽しそうに遊んでいる。


 果物を集めた場所には体を洗った大人達が集まり始めていた。方々からは旅の終わりを喜ぶ声が聞こえてきた。


 ミネルバも楽しそうに果物を食べている。


 ユノーは一族から離れた場所でその状況を見守っていた


 「ユノーちょっといいか」


 俺の言葉にユノーの耳がピクリと動いた。


 「なんだ?」


 「さっきも言ったとおり、まだ諸々の準備ができていない。特に家は俺とラヴェンドラが使っているあの煉瓦造りの家一つしかないが、何か良い案はないか」


 「そんなことを気にしていたのか。俺たちは狼。元来は森に生きる種族だ。家がないことなど些末な問題だ。皆、森の中で野宿するさ」


 そういえば俺の元いた世界でも狼は森の中を住処としていたな。


 当面はこのままでも大丈夫ということか。だが、人の姿をしている以上、家はあるに越したことはないだろう。追々考えねば。


 「私からもいいか?」


 「いいぜ」


 「今日はこのまま施しを受けたいと思うが、今後は自分たちの力で生活していきたい。森の中を探索し、動物を狩ることもあると思うが問題ないか」


 ユノーの提案は俺としてもありがたいものだった。彼らが自立した生活をしてくれるのであれば、このダンジョンももっと豊かになるだろう。


 「もちろん構わないさ。乱獲されたりすると困るけどな」


 「ありがたい。我らは誇り高き狼。食する分以外の命を奪うことなどはしないと約束しよう」


 誇り高き狼か。そんなユノーが力づくでダンジョンを奪いに来たのだ、はやり相当追い詰められていたのだろう。


 「それと、雷狼族のみんなに伝えてもらいたいんだが、夜になったらまたここにみんなで集まってくれるか。いいものを用意しておいた」


 「ああ。構わないが。何があるんだ」


 「それは、秘密です」


 ラヴェンドラは嬉しそうな顔をしながら、口の前に人差し指を立てるポーズをとった。


 その姿にユノーもそれ以上問いただすことはせず、雷狼族の輪の中に入っていった。


 「おお! よく来たな。こっちにきて座ってくれ」


 日が暮れてまもなく、ユノーとミネルバが一族を率いてやってきた。


 「うお! なんだこれ! すげーな!」


 ミネルバが驚愕の声をあげるのも無理はない。


 そこには石で作った大きな火処があり、その上には巨大な猪が横たわっているのだ。


 火処の上でこんがり焼かれている巨大な猪からは、脂の爆ぜる音と、食欲をそそる香ばしい匂いが立ち上っている。


 実は、ユノーとミネルバが一族を迎えに行った後、ラヴェンドラから雷狼族を歓迎する意味をこめて宴を催してはどうかとの提案を受けていた。火処の上の巨大な猪は、昨日ラヴェンドラが森で狩ってきたものだ。


 「俺とラヴェンドラから、雷狼族に歓迎の証だ。好きなだけ食ってくれ。酒なんかはないけどな」


 それからは宴会となった。


 火処を囲んで円形に座ると、雷狼族は嬉しそうに猪を食べ始めた。


 そこら中から歓喜の声が聞こえてくる。


 俺とラヴェンドラは後方に座りながら、その様子を眺めていた。


 「喜んでもらえて良かったな」


 「はい。とっても」


 ラヴェンドラも嬉しそうだ。


 しばらくその光景を眺めていた時、宴会の輪から一人の雷狼族の子どもが駆け寄ってきた。


 年の頃は6歳から8歳くらいだろうか。


 「僕たちをこのダンジョンに入れてくれたのはお兄ちゃんとお姉ちゃんなの?」


 その子どもはもじもじしながら上目遣いで聞いてきた。


 「そういうことになるかな。でも君たちが今ここにいるのはユノーとミネルバのおかげだよ」


 二人がこのダンジョンに来なければ、この一族が来ることはなかっただろう。


 「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう! 久しぶりにお腹いっぱいだよ!」


 子どもは顔いっぱいの笑顔で俺とラヴェンドラに礼を言うとまた輪の中に戻っていった。


 その後姿は、あの日のククルを思い出させた。


 「ククルは元気でしょうか」


 子どもに手を振るラヴェンドラも同じ情景を思い浮かべたようだ。


 「落ち着いたらできることを考えよう」


 「はい」


 今は雷狼族たちとの生活基盤を整えることが優先だ。この先余裕ができれば、サントの街や門番が言っていたマキリャ族の村の探索をすることもできるかもしれない。


 「ラヴェンドラ一つ聞いてもいいか」


 火処の灯りが俺たちの顔を照らしている。


 「なんでございましょう?」


 「ユノーたちと戦ったあの時、ミネルバはラヴェンドラが弱っていると言っていた。あれは本当か」


 ユノーはラヴェンドラを『古代竜エィンシェントドラゴン』と言っていた。最強の竜種とも。


 「それは……。そのとおりです。前にもお話したとおり、わたしは勇者に敗れた際に胸の逆鱗に傷を受けました。逆鱗とは竜の力の源。竜を竜たらしめる根源です。表面上の傷は塞がりましたが、勇者に与えられたダメージは莫大であり、未だに私の力は全回復していません」


 「どれくらい弱っているんだ」


 「おそらく今は以前の10分の1ほどの力しか出せていません。本来であればミネルバに苦戦することもなかったはずです」


 それほどまでに弱っているのか。


 それなのにラヴェンドラは俺のために戦ってくれていた。俺にも戦う力があれば……。

 「でも大丈夫です! ゆっくりですが力も回復してきていますので、いつか以前の力を取り戻せると思います!」


 「ありがとう。でも無茶はしないでくれよ」

 

 今の俺にはそう言うことが精一杯だった。


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