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第14話 サーコートの男

 「屋台のご飯おいしかったですね! もうお腹いっぱいです!」


 宿屋に帰り着いたラヴェンドラは幸せそうにお腹をさすっている。


 あれだけあった食べ物も、彼女にかかればあっという間だった。


 さて、このまま寝るのもいいが、やはりククルのことが気になる。門番の兵士が言っていたことをラヴェンドラはどこまで知っているのだろうか。


 「ラヴェンドラ」


 「いかがしました?」


 「ククルのことについてだけど、門番が言っていた大昔の魔王について何か知っているか?」


 ラヴェンドラは俺の向かいの椅子に座り姿勢を正した。


 「はい。この大陸には約500年前に魔王様がいらっしゃいました。魔王様は各地にダンジョンを作り出し、我々魔族とダンジョンのモンスターを率いて人間の王国と争っていました。しかし、長い争いの末、魔王様は人間に討ち取られたと聞いています。そして、その魔王様がお持ちだったお力こそカガセ様と同じダンジョンマスターであったと」


 そういうことだったのか。ラヴェンドラが俺を魔王と呼ぶのもそのせいか。


 「その話を聞く限りでは、魔王は人間の敵か。それならば魔王に協力したというマキリャ族が憎まれるのもわからないでもない。だが、なぜ人間であるククルの先祖は魔王に協力したんだ」


 このままいけば俺も人間の敵になるのだろうか。

 「人間の協力者がいたとはわたしも知りませんでした。あの兵士が言っていたことが事実であるのかも定かではありません」


 「それにしても500年前か。ククル達はあんな生活を500年も…」


 「わたしも過去の魔王様について、これ以上知っていることはありません。当時のわたしはまだ生まれたばかりでしたので……」


 500年前のことではラヴェンドラが知らないのも無理はない。……ん?


 「ラヴェンドラ。今、過去の魔王がいた時、子どもだったって言った?」


 「はい。それがどうかなさいましたか?」


 ラヴェンドラは不思議そうに小首を傾げている。


 「えーと……ラヴェンドラさんは今、何歳?」


 女性に歳を聞くのは失礼だとは理解しているが、この場は致し方ない。


 「あれ、言ってませんでしたか? 私はだいたい500歳です!」


 なんだと……。


 年上とかいうレベルじゃないじゃないか。少女の見た目をしているからつい忘れてしまうが、竜ならそういうこともあるのか……。


 「これでも竜族の中では若い方なんですよ」


 竜ってそんなに長生きなのか……。魔族恐るべし。


 話をしているうちに夜も更けた。部屋の唯一の灯りであるランプの油も尽きそうだ。


 「ラヴェンドラ今日はそろそろ寝ようか。明日は街を回ってみよう」


 「そうですね。カガセ様おやすみなさい」


 「おやすみ」


 消したランプの残滓が漂う中、俺とラヴェンドラは眠りについた。


 翌朝、起きたときには既に日は高く昇っていた。


 ラヴェンドラも眠そうに目をこすっている。


 俺たちは手早く支度を済ませ宿屋を出た。


 「今日は街を見て回ろう。ククルのことも気になるが、まずはこの街のことを知ることが先決だと思うんだ。とりあえず大通りを進んでいこうか」


 昨日と同じように大通りを歩いていく。銀鉱石を売った道具屋は既に通り過ぎた。


 正面の高台には辺境伯がいるのであろう大きな館が見える。


 さらに歩くと左手側の店先に剣が並んでいた。どうやら武器屋のようだ。


 店先で剣を眺めていると店主らしき男が話しかけてきた。


 「兄ちゃん、冒険者かい? そこの剣もまあまあ良いものだが、奥にとっておきがあるぜ」


 店主の後について店の奥に進むと、明らかに他の武器とは異なる雰囲気を放つ剣が置かれていた。見た目は西洋のロングソードに近いが、その剣身には鍔元から剣先まで文字のようなものが刻まれている。


 「魔法剣だ。本来なら騎士様じゃないと持つこともできないが、この前運よく手に入れてな。これがあれば魔族だろうがモンスターだろうがバッサリよ。まあ、多少値は張るがな」


 俺の目からもそれはあやしい雰囲気を纏っていることがわかった。まさに魔の者を弑するために作られた物なのだろう。


 「見せてくれてありがとう。残念だがそこまで手持ちがなくてな」


 俺たちはそう言って武器屋から出た。


 ラヴェンドラは武器屋で何も話していなかった。彼女はあの剣を見て何を思ったのだろうか。その横顔は何も語っていない。

  

 武器屋を出て少し進むと噴水のある広場があり、そこで大通りは終わりだった。噴水の奥には兵士達が訓練している様子が遠くに見える。おそらく兵舎があるのであろう。


 兵舎に近づき訓練を眺めていると、一人の男が目に留まった。サーコートを着た金髪のその男は、大声で兵士達に指示を出しており、その動きは遠巻きにも他の兵士とは一線を画すものだった。


 「何か用か」


 訓練を眺めていたところ、近くの兵士が声をかけてきた。


 「女連れで訓練を眺めに来るなんて怪しい奴だな。おい女。被っているフードをとれ」


 「誤解させたなら申し訳ない。俺たちは田舎から出てきたんで、訓練が珍しくてな。つい見入ってしまった」


 俺は咄嗟にその場を取り繕った。この場でラヴェンドラの正体が露見することは絶対に避けなければ。


 「どこの田舎だ? この街に何しにきた」


 「それは……」


 「どうした。何の騒ぎだ」


 俺が兵士からの問いに言葉に詰まっていると、奥の方からさきほどのサーコートの男が割って入ってきた。


 「こ、これはディマス隊長! 怪しい奴らが我々の訓練を盗み見していたので問い詰めていたところです!」


 ディマスと呼ばれたその男は、俺たちを一瞥した後、口を開いた。


 「ただの冒険者連れだろう。見るからに実力もなさそうじゃないか。そんなことより、この前の狼の掃討戦での情けない戦いぶりを忘れたのか。さっさとお前も訓練に参加しろ」


 「りょ、了解しました!」


 そう言って、ディマスと兵士は訓練に戻っていった。


 間一髪危機を逃れた俺たちは、足早にその場を後にし、街の東側から、宿屋方面に戻ることにした。


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