第13話 街の様子
「ラヴェンドラ、すまない」
サントの街に入った後、俺たちは門から続く大通りを歩いていた。
通りの脇には様々な店が並んでおり活気がある。見る限り、皆それなりに小綺麗な恰好をしており、ククルのような見た目の子は見られない。
「カガセ様に謝られることではありません。ただ、ククルのことを考えると、いたたまれなくて。わたしは魔族ですから人間の社会のことなど知る由もありませんが、なぜあのような小さな子が差別を甘んじて受け入れなければならないのでしょうか。あの兵士は古の魔王様に協力した罪のように言っていましたが、それは今の彼女が同じ人間から悪意を向けられる理由になるのでしょうか」
彼女の口調からは強い憤りが感じられる。
「ククルのことはまた考えよう。今の俺たちがすぐ何かできるわけではないだろう」
やろうと思えば、ラヴェンドラに力で無理やりククルを奪ってくることや雇い主を脅して生活状況を改善させることもできるかもしれない。だがそんなことをしても他のマキリャ族の状況が変わるわけではなく、俺たちがいなくなればまた元に戻るか、今よりひどくなるかだろう。それはククルのためにもならない。
それにそんなことをしてはラヴェンドラの正体も気づかれてしまう。
「はい……。わかっています」
ラヴェンドラは自分に言い聞かせているようだった。
ククルのことや魔王のことは後で考えるとして、街ではまず金が必要だろう。さすがにこの規模の文明で物々交換をしているとは考えにくい。換金できる場所があるはずだ。
しばらく歩いていると、道具屋らしき店を見つけた。
「カガセ様。このお店になにかご用ですか」
ラヴェンドラが不思議そうに聞いてくる。
「まずは金が必要だからな。まあ、着いてきてくれ」
ーー「いらっしゃい」
店に入ると、奥の方から声が聞こえてきた。周囲の棚には見たことがない道具が並べられている。
奥に進むと40歳から50歳くらいの見た目をした男が座っていた。
「これを買い取ってもらいたいんだが」
そう言って俺は、バッグから一つの石を取り出した。
「ほう。銀の鉱石か。まあまあの大きさだな。純度も悪くなさそうだ。ダンジョンででも見つけたのか」
これは以前に迷いの森の宝箱で見つけた銀の鉱石だ。ラヴェンドラは人間の街のことはわからないだろうし、銀であれば換金が可能だろうと思い持ってきていた。
「そんなところさ」
「ふん。まあいいさ。これくらいでどうだい?」
提示された金額が適正なのかはわからないが、そこまで金が必要なわけではない。
俺はその金額で了承し、金を受け取ると店を出た。
「あの鉱石を持ってきていたのですね」
店を出た後、ラヴェンドラは驚いたように俺に話しかけてきた。
「街では金が必要になると思ってね。予想通り買い取ってもらえて良かったよ」
「さすがカガセ様ですね!」
さて、軍資金もできたところで、まずは宿屋に行きたい。この世界の物価もわからないし、宿屋なら街の情報も聞けるだろう。
「まずは宿屋に行こうか。さっき門から少し歩いたところに宿屋らしい建物があったからそこに行ってみよう」
ーー「疲れたな。ゆっくり休もう」
宿屋の料金は銀鉱石を売った値段の十分の一ほどだった。思いのほか銀鉱石は高く売れたようだ。ラヴェンドラとそれぞれ二部屋とろうかと思ったが、ラヴェンドラが一部屋でいいと言い張ったことと、別々に部屋にした場合、彼女に何かあった際に対応できないことから一部屋にすることとした。
宿屋の受付で聞いたところだと、この街には鍛冶屋に武器屋、服屋、複数の道具屋や食堂、屋台などがあり、街の奥の高台にはこの地域を治める辺境伯が住んでいるとのことであった。
「今日は屋台で何か食べようか」
ラヴェンドラにそう提案して、俺たちは再度街に出た。
ククルを探すために食堂に行ってもいいが、室内での食事にフードを被っていては怪しまれるかもしれない。
大通りから少し入った広場に屋台が集まっていた。
すでに夕暮れだったが、広場には所狭しと様々な屋台が並んでいる。
「うわぁ! カガセ様見てください! ごはんがいっぱいありますよ! これはお肉の串焼きでしょうか。あっちにはパンもありますね。あ、ドーナツも売ってますよ!」
街に来てからは暗い表情が多かったラヴェンドラだが、今は目を輝かせて屋台を見て回っている。
「歩きどおしで疲れたからな。ちょうど広場の端に座れそうな段差があるから、そこで食べよう。お金を渡すから好きなものを買ってきていいよ」
「いいんですか!? 何にしようかな! やっぱりお肉? それとも甘いもの? 選べないー」
尻尾を振り回しながらラヴェンドラは悩みに悩んでいる。
数分後、彼女は両手に抱えきれないほどの食べ物を持って戻ってきた。
「えへへ。食べたいもの全部買っちゃったらお金なくなっちゃいました」
「それ、全部食べるのか…」
「はい! カガセ様もご一緒に食べましょう」
彼女にはさっきの宿屋二泊分はある金額を渡したのだが、全部使うとは。
俺は自分で買った肉入り饅頭を頬張りながら、幸せそうに次々と食べていくラヴェンドラを眺めていた。




