第11話 街を求めて
「さあ、行こうか」
かばんに食料をたっぷりいれたラヴェンドラと2人、ダンジョンの入口に向かう。
異世界に来てダンジョンを作って以来、外に出るのは初めてだ。
「カガセ様!」
「ん? どうした?」
ラヴェンドラが楽しそうに声をかけてきた。
「このコートお揃いですね! 同じ服で外出できるなんて、わたしとっても嬉しいです!」
そう言うとラヴェンドラは眩しい笑顔で尻尾を揺らしながら歩き出した。
入口からは外の様子は見えない。
不安を感じながら入口を通ると何か薄い空間を越えた気がした。そこはこの世界に転移して来た時と同じ荒野だった。
「やっぱり変わってないよな。ここを通っていくのか」
頭をポリポリかきながら、嘆息しているとラヴェンドラが俺の顔を覗き込んできた。
「今度は一人じゃないですよ。わたしと一緒です」
微笑みながらそう話す彼女を見て俺は安堵した。
この世界に来たばかりの時は一人でこの荒野で途方に暮れていた。だが、今はこうやってラヴェンドラがいてくれる。こんなに心強いことはない。
「ありがとう」
「ん?カガセ様どうかしましたか?」
「いや、なんでもないさ」
ーー迷いの森から出発して半日以上は経ったであろうか。燦々と輝く太陽はその身を大地に隠そうとしている。
アラクネに作ってもらったコートがなければ、もっと過酷な旅になっていただろう。
「そろそろ野営の準備をしようか」
少し先にちょうどいい大きな岩が見える。今日はあそこで夜を越すとしよう。
1日歩いたが、未だ赤茶けた荒野は終わらない。この荒野はどれだけ広いのか。
ラヴェンドラはあまり疲れていないのかニコニコと夕食を食べている。
このまま南に歩き続けても街は見つかるのだろうか。明日は違う方向に行った方がいいのかもしれない。
悩んでいてもしょうがない。手がかりは南の方向しかないのだから、このまま南に進むしかない。歩き続ければいつかはこの荒野も終わるだろう。
ーー翌日は夜が明けると同時に出発した。
早朝の方が日差しも弱く歩くのに都合がいい。
数刻ほど歩いただろうか、周囲の景色が少しずつ変わってきたと感じていた時だった。
「ラヴェンドラ、あれを見てくれ」
俺の指さした先には、うっすらと緑の大地が広がっていた。
「草が生えていますね! この荒野もやっと終わりでしょうか」
「そうだといいな。人間の街も近いのかもしれない」
俺とラヴェンドラは自然と足早になった。
荒野が終わった後は草原だった。遠くには樹木も見える。
だが、街の気配はない。目的地にはまだ遠いようだ
それでも荒野が終わったという事実が俺たちから疲労の色を奪っていた。
荒野が終わり少し進んだ先に湖が見えた。
「水があるぞ。今日も歩きっぱなしだし、休憩にしよう」
「賛成です! ついでにお昼ご飯にしませんか?」
「そうしよう」
覗き込んだ湖の水は透き通っており飲んでも問題なさそうだった。
「ああー。生き返る」
俺とラヴェンドラはめいめい濡らした布で体を拭き、木陰で昼食に入っていた。
長旅で疲れた体に水が染み渡っていく。
「疲れた時のお水は美味しいですね。昨日はずっと太陽さんが頑張ってたので疲れちゃいました。ちょうどいいところに湖があってラッキーでしたね」
今日の昼食はラヴェンドラが森で狩ってきた猪で作った干し肉とトマトっぽい野菜だ。この先、どのくらいで人間の街に着けるかもわからないので全部食べるわけにはいかない。
「それにしても荒野が終わって本当に良かったな。あのままずっと荒野のままだったら心が折れてたよ」
「実はわたしも1日中歩いてクタクタでした」
「あと、どのくらいで街に着くかな。そう言えば、ラヴェンドラは人間の街には行ったことはあるのか」
「昔、2,3回だけ行ったことがある程度です。人間を警戒して歩き回ったりはできなかったので、街のことはよくわかりません。」
「そうか。俺はこの世界に来て初めての人間の街だからな。どんなところか楽しみだ」
ラヴェンドラとたわいもない話をしていた時だった。
湖に人影が現れた。
人間だ。
子どもだろうか。背丈はあまり大きくないが、背中には背丈を越える程の木の枝を背負っている。
子どもが湖のほとりでしゃがみこんだ時。
「危ない!」
急に子どもがよろけ、倒れこんだ。
「大丈夫か!」
急いで子どもに駆け寄り、助け起こす。
「だ…だいじょうぶです…」
子どもは話すのがやっとといった様子だった。
「お水は飲めますか?」
子どもはラヴェンドラが差し出した水をゆっくり飲みこんだ。
「ありがとうございます。迷惑をおかけしてごめんなさい」
水を飲んだ後、子どもは落ち着きを取り戻した。
年のころは小学校低学年くらいの女の子か。髪はボサボサで服もかなりくたびれており、褐色のその肌も土で汚れている。
「気にしないでいいよ。名前はなんていうんだい」
「……ククル」
「ククルか。いい名前だな」
ククルは名前を聞いた時は少し戸惑った表情をしていたが、今は嬉しそうに照れている。
「あんなに大きな荷物を背負ってどうしたんですか」
やさしく問いかけたラヴェンドラの言葉にククルは安心したように口を開いた。
「わたしは、サントの街の食堂で下働きをしているの。それで今日はご主人様から薪を集めてくるように言われたの。いっぱい拾えたから街に戻ろうと思ったんだけど、疲れちゃったから、お水飲みたいなと思って、ここまできたの」
こんな小さな子が働いているのか。しかも街からは離れているであろうこんな場所まできて、あれだけ多くの薪を集めているなんて。この世界では普通のことなのだろうか。
その時大きな音が響いた。
ーーぐうぅーーー
「あ、ご、ごめんなさい。お腹すいてて。ごめんなさい」
ククルは怯えたような表情で泣き出しそうになっている。
「ははは。 俺たちは今お昼ご飯を食べてるんだけど、良かったら一緒に食うか。と言っても干し肉と野菜と果物くらいしかないけどな」
「え、いいの? でもわたしお金は持ってないよ……」
「お金なんていらないよ。野菜も果物も生ものが多いし。悪くなる前に食べてもらう方が助かるよ。な、ラヴェンドラ」
「そうですね。みんなでお昼ご飯にしましょう! ククルもいっぱい食べてね」
「ありがとう! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
やっとククルが笑顔になってくれた。しかし、彼女の境遇はどのようなものなのだろうか。




