【第16話】過去の記憶を見せられる儀式で死亡
カレルディアには、転生者を対象にした年1のイベントがある。
“記憶儀式”
神殿で行われる特別な魔法によって、
自分の過去を映像として“見せられ”、感情の根源を知るという壮大な自己啓発イベントだ。
「過去と向き合うことで、共感が芽生える。反省と感謝のサイクルが生まれる」
──っていう名目だけど、俺にはその理屈すら理解できていなかった。
だが俺、志無野 睦夫(49)は、逃げなかった。
「この儀式で……俺も、変われるかもしれない」
祭壇の前に立ち、魔法陣が発動。
精神をデータ化した“感情ホログラム”が、目の前に浮かび上がる。
まず映ったのは──
推しの誕生日に送ったファンレターだった。
「君の存在で俺は救われてる。
存在がありがたい。生きてるだけで課金価値がある。
……生きててくれてありがとう」
全64行。改行はゼロ。
続いて映ったのは、元カノとの別れ際の一幕。
「……え、泣いてるの?
てか、俺が悪いわけじゃないよね? 自分の感情くらい自分で処理しなよ」
そのときの彼女の目、完全に冷えてた。
さらに──
職場の後輩(人間)に対して言ったひとこと。
「“助けて”って言わないやつは、自業自得だよ。察してほしいっていうのは甘え」
俺、言ってた。
言ってたけど、今見ると……怖ッ。
ホログラムは容赦なく再生を続ける。
感情、関係、言葉、すべてが“自己防衛”で構成されていた。
振り返れば、他人の痛みに反応した記憶が一個もない。
あるのは、自分の正当性を守るための言い訳ログだけ。
俺の精神領域に異常が発生。
【過去ログ:過負荷状態】
【感情回路:過去自己による自己殺処理を開始】
つまり、俺の過去が、今の俺を殺しにきた。
監視していた神官が叫ぶ。
「こいつ……自己防衛の歴史しかない……!」
「感情のループが、閉じてる……!」
「やばい、記憶ホログラムが“自己嫌悪”じゃなく“自己回避”をトリガーしてる!」
ズシン、と俺の意識が揺れる。
「……やめろ……俺は……っ」
【感情フィードバック暴走】
【精神崩壊による意識クラッシュ】
最終ログに表示された文字列は──
【死因:過去に殺された】
第16話、終了──俺、“走馬灯ログの暴走”によって、精神的に死亡処理される。




