【第15話】“優しさ”を言語でしか理解できない
王都カレルディアで、年に一度だけ開催される祭りがある。
その名も──「感情の祝祭」
市民が集い、“共感”や“癒し”といった概念を体験的に味わい、
自分の情緒を見つめ直すイベント。
俺──志無野 睦夫(49)、もちろん参加する。
この世界で共感0.1という最低記録を持つ俺にとって、
こういうイベントは文字通り“ラストチャンス”なのだ。
「優しさを体験しよう!」というブースに並びながら、俺は手帳を取り出した。
事前に調べておいた情緒用語を復習する。
【やさしさ】
・感情構造:未定義
・相手視点:重要
・具体例:差し出されたものを受け取る?
俺は、構文で物事を理解していた。
“優しさ”はプロトコル。
つまり、入力された善意に対し、最適なレスポンスを返すシステム。
ついに俺の番が来た。
スタッフの精霊が、ふわっと微笑みながら花を差し出してきた。
「どうぞ、あなたに……この気持ちを」
俺はそれを受け取り、すぐに分析に入った。
「この行動には、どういった意図が? 対価は?
あなたの側に政治的背景はありますか?
あるいはこれは宗教儀式の一部ですか? 感情データの収集目的ですか?」
──空気が、凍った。
周囲の参加者たちが固まり、精霊の目から光が引いた。
「えっと……あの、これはただの“やさしさ”です」
「“ただの”っていうなら、それを言語的に証明できますか?」
係員がゆっくり近づいてきた。
「……失礼ですが、ブースの方はここまででお願いできますか?」
俺は理解できなかった。
なぜ質問しただけで追い出されるのか?
“情報を精査する”ことと、“優しさ”は両立しないのか?
その場にいた子どもが母親に言った。
「ママー、あの人、感謝の魔法が効かないんだって」
母親は答えた。
「大丈夫よ。ああいう人も、昔はいたの。心が、まだ読み込み中なのよ」
俺のステータス画面には、新しい警告が表示されていた。
【状態異常:情緒インストール未完了】
【注意:イベント内での会話が“会話”として認識されません】
その日、俺は祭りの全ブースから出禁を食らった。
第15話、終了──俺、“やさしさ”を定義しようとして人間関係から除外される。




