【第14話】魔道書で感情学ぶも誤読する
「本で学べば、情緒もわかるかもしれない──」
異世界転生から49年目(嘘、転生後数ヶ月)にして、
俺はようやく“学習”という方法に辿り着いた。
それまでは、感情は空気で感じるものだと思っていた。
しかし俺には空気が読めない。というか、空気に感情を感じたことがない。
つまり、読むしかない。文字列でなら、きっと理解できる。
俺は王都の禁書区画に忍び込み、1冊の古びた分厚い魔道書を手に入れた。
タイトルは──
『感情原理大全・第六版 〜感情欠損者向け注釈付き〜』
帯にこう書かれていた。
「情緒的障害者にも安心! 魔力式感情注釈つき!」
──俺にピッタリじゃねぇか。
開いた最初のページにこう書いてあった。
『やさしさとは、他者の痛みに寄り添い、自身を一歩引くことによって成り立つ調和である』
……なるほど。
俺のノートにはこうメモされた。
【やさしさ:他人の痛みを避けるために距離を取る】
よし、理解した。
“そっとしておくこと”が優しさ──なるほど、俺ずっと正しかったんだな。
次の項目は“共鳴”。
『感情の波長を合わせ、響き合う状態』
俺のメモ:
【共鳴:感情の音量を上げて相手を飲み込むこと】
……まぁ、ある意味で攻撃的な共感か?
その次、“同調”の定義。
『相手の気持ちを反復・理解すること』
俺のメモ:
【同調:相手の発言をそのままオウム返し】
読めば読むほど、魔道書が俺の中で別の言語に変換されていく。
まるで翻訳フィルターが壊れているようだった。
途中、感情の流れを図で表した「感情循環チャート」が現れた。
普通の人間なら、“悲しみ→癒やし→共感→成長”というプロセスを辿るらしい。
俺の脳内:
【悲しみ→不便→排除→静観】
明らかに違う進化ルートだ。
そして読了後、俺のステータスが自動更新された。
【新たな状態異常:誤読】
【効果:感情理解がすべて“逆翻訳”される】
【付加属性:“説明は理解したが意味はわかっていない”】
司書が遠くから顔を出し、俺のスキャン結果を見て首を傾げた。
「……あの、むしろ読んだ後の方が共感値が落ちてます」
俺の共感ゲージは、微妙に揺れていた。
上下ではなく、横方向に。
その日、俺は初めて知った。
知識は武器だが、誤読すればただの感情テロだと──
第14話、終了──俺、魔道書を誤読して“情緒逆成長型”という新ジャンルの感性爆誕。




