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『亡くした鷹が神獣になって帰ってきた件 ~元鷹匠の俺、異世界で最強の相棒と無双冒険ライフ~』  作者: まーサンタ


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第3羽:迷宮都市ベイルと、初めてのご褒美

「おお……あれが迷宮都市ベイルですか……!」

森を抜け、平坦な舗装街道を歩くこと1時間余り。 モリスの引く手押しカートの横を歩いていた俺の視界に、圧倒的な存在感を放つ建造物が飛び込んできた。

地平線の彼方に聳え立つのは、白く頑丈な石造りの城壁。その高さは地球のビルで言えば5階建て以上に相当するだろうか。城壁の背後には、尖塔を備えた重厚な建物群が立ち並び、中央には巨大なダンジョンの入口とされる黒々とした大穴を呑み込んだ巨塔が鎮座している。

「巨大な城壁に、賑やかな人通り……まさにファンタジーの街だな」 「ふふ、ベイルはこの地方でも有数の迷宮都市ですからね。ダンジョンの資源を求めて、世界中から冒険者や商人が集まってくるのですよ」

モリスが誇らしげに髭を撫でる。 俺の肩の上に止まっているハヤテも、首をクルリと巡らせながら興味津々な様子で街を見つめていた。

『ご主人様、あの街の入口あたりからすっごく美味しそうな匂いが漂ってくるわ! 香ばしいお肉と、甘い果実の匂い!』 「(おいハヤテ、頭の中で直接叫ぶな。耳がキーンとするだろ……ってか、お前の意識の半分は食べ物のことばかりだな)」 『失礼ね! 神獣だって腹は減るの! それに地球にいた頃は決まった生肉しか食べられなかったんだから、異世界のグルメを堪能する権利くらいあるでしょ!』

確かに、地球にいた頃は衛生面や健康管理の観点から、冷凍のウズラやマウス、決まった生肉くらいしか与えられなかった。喋るようになって自我が全開になった今のハヤテにとって、異世界の屋台飯は魅力の塊なのだろう。

「分かった分かった。街に入ったら何か美味いもんを買ってやるよ」 『ほんと!? 約束よ! バカご主人様大好き!』 「現金なやつだ……」

苦笑しながら街道を進むと、やがて街の大門へと辿り着いた。

◇

大門の前には、街に入るための列ができていた。 長槍を持った頑丈な甲冑姿の衛兵たちが、訪れる人々の身元検問を行っている。

「次! 行商人のモリスだな。身分証を見せてくれ」 「はいはい、毎度おなじみモリスでございます。それと、こちらは道中で私を魔獣から救ってくださった命の恩人のハヤト様です」

モリスが木製の鑑札を衛兵に見せつつ、俺を紹介してくれた。 衛兵の視線が、モリスから俺、そして俺の肩の上に止まっているハヤテへと移る。

「ほう、命の恩人……。ん? そいつは……鷹か?」 「ハヤトと申します。こっちは相棒のハヤテです」 「ふーむ……珍しいな。魔獣使い(テイマー)か? だが、従魔の契約の印(刻印)が見当たらんが……」

衛兵が訝しげに目を細めた。 異世界では、テイマーが連れる魔獣には通常、魔力で編まれた「従魔の刻印」が刻まれるらしい。しかし、ハヤテにはそんなものは一切付いていない。

「ああ、俺はテイマーじゃなくて『鷹匠』なんです」 「……た、たかしょう……? なんだそれは。聞いたことがない職業だな。商人の一種か?」

衛兵は「タカショウ」という言葉を口の中で繰り返しながら、首を傾げた。どうやらこの世界には「鷹匠」という概念そのものが存在しないらしい。

「あ、ええと……刻印や魔法で動物を縛るんじゃなく、訓練と信頼関係で鷹と絆を結ぶ職人みたいなものです。俺の故郷の伝統技術でしてね」 「魔法なしで猛禽を……? 道具や契約もなしにか? そんなことが可能なのか?」

衛兵は信じられないといった様子で眉をひそめ、ハヤテに顔を近づけた。

「ふむ……だが、街の中に猛禽を持ち込むとなると、市民に危害を加えないという保証が――」

衛兵が手を伸ばそうとした、その瞬間。

ピキッ。

ハヤテの琥珀色の瞳が、冷徹な光を帯びた。 神獣ヴェルズフェルニルとしての威厳――その極くわずかな『プレッシャー』が、意図的に開放されたのだ。

「――ッ!??!?」

衛兵の顔から一瞬で血の気が引いた。 ガタガタと膝が震え、手に持っていた長槍がカチャンと情けない音を立てて石畳に落ちる。

「ひ……ヒッ……!? な、なんだ今の気配……!? まるで最深部のボスモンスターと対峙したような……!?」

「おいハヤテ! 脅かすな!」 俺は慌ててハヤテの頭を軽く小突いた。

『なによ、馴々しく触ろうとするから少し脅かしてあげただけじゃない。調子に乗る人間にはお仕置きが必要よ』 「お前なぁ……入国拒否されたらどうするんだよ!」

俺は冷や汗をかきながら、へたり込んだ衛兵に手を差し伸べた。

「す、すみません! こいつ、知らない人に触られるのが嫌いでして……! 暴れたり人に襲いかかったりさせないよう、俺がしっかり手元で管理しますから!」 「あ、ああ……分かった……! 銀貨5枚の入国税を払えば通ってよし! ただし、街の中でその鳥を暴れさせるんじゃないぞ……!」

衛兵は腰を抜かしたまま、震える手で税金を受け取ると、逃げるように門をくぐる許可を出した。

「ふぅ……肝が冷えたぜ」 「ほほ、ハヤト様の相棒は、やはり只者ではありませんな」 モリスが意味深に微笑みながら、手押しカートを押して門をくぐる。俺たちもそれに続いた。

◇

門を抜けると、そこは活気に満ちあふれた異世界の大都会だった。

石畳の広い道路の両脇には、三層建ての木造や石造りの店舗がぎっしりと並んでいる。行き交う人々も様々で、剣を背負った人間族の冒険者、小柄で頑丈そうなドワーフの鍛冶師、しなやかな身のこなしの獣人族など、多種多様な種族が混ざり合って生活していた。

そして、街中に漂う香ばしい匂い!

「いらっしゃい、いらっしゃい! 串焼きポークボア、焼き立てだよー!」 「焼きたてのパンに、甘い果実のジャムはいかがー!」

屋台が並ぶ大通りに出ると、ハヤテの羽が興奮でピクピクと動き出した。

『ご主人様! ほら、あっち! あの煙が出てる屋台! すっごくいい匂いがするわ!』 「(おいハヤテ、頭の中で直接叫ぶな。耳がキーンとするだろ……ってか、お前の意識の半分は食べ物のことばかりだな)」 『失礼ね! 神獣だって腹は減るの! それに地球にいた頃は決まった生肉しか食べられなかったんだから、異世界のグルメを堪能する権利くらいあるでしょ!』

「分かった分かった。約束だからな。モリスさん、少し屋台に寄ってもいいですか?」 「ええ、構いませんよ。私も長旅で小腹が空きましたからな」

俺たちは吸い寄せられるように、一軒の肉串屋台へと向かった。

店主の頑丈そうな獣人のオヤジが、網の上で分厚い肉塊をジュージューと焼き上げている。特製のタレが焦げる甘辛い匂いが、鼻腔を強烈に刺激する。

「オヤジさん、その串焼きを3本くれ」 「あいよ! 串焼きポークボア、銀貨3枚だ!」

モリスから貰った礼金(革袋の中には銀貨がぎっしり入っていた)からお金を払い、出来立て熱々の肉串を受け取る。

「ほらハヤテ、約束のご褒美だ」

俺は串から肉を一口大に引きちぎると、火傷しないように少し冷ましてから、手のひらに乗せてハヤテに差し出した。

ハヤテは目を輝かせ、パクッと豪快に肉に食いついた。

モグモグ……モグモグ……。

「……っ!!」

一瞬、ハヤテの体がピシッと硬直した。

「ど、どうだ……? 激辛だったか?」 心配して顔を覗き込むと、ハヤテはボロい涙(※鳥の涙目)を浮かべていた。

『う……うまぁぁぁぁぁぁいっ!! なにこれ!? 外はカリッとしてるのに、中はジューシーで、甘辛いタレが肉汁と混ざり合って……! 地球のウズラ肉とは比べものにならないわ!!』 「おお、そんなに美味いか!」

俺も自分の串焼きにかぶりついてみる。

「――うまっ!?」

なんだこれは。肉の旨味が尋常じゃない。適度な噛み応えがありながら、噛めば噛むほど質の良い脂とタレのコクが口いっぱいに広がる。地球の最高級ブランド豚すら凌駕する味だ。

「モリスさん、これめちゃくちゃ美味いですね!」 「ふふ、ボアの肉はベイルの名物ですからね。特にあの屋台のタレは絶品ですよ」

『ご主人様! おかわり! もう一本ちょうだい!』 「コラ、ハヤテ。鳥がそんなにタレ付きの肉ばかり食べたら身体に悪いぞ……あ、でも異世界の神獣だから関係ないのか?」 『関係ないわよ! 胃袋は神獣スペックなんだから! ほら、早くおかわり!』

腕木の上で翼をバタバタさせてねだるハヤテ。地球で「クールで孤高の猛禽」だった頃の面影はどこへやら、完全に食いしん坊の甘えん坊である。

「はいはい、もう一本追加な」

オヤジさんにもう一本注文し、ハヤテに少しずつ与えていく。 満足そうに肉を頬張るハヤテを見ていると、自然と笑みがこぼれてきた。

(地球にいた頃は、病気にならないように餌の量もカロリーも厳しく管理して……好きなものを腹いっぱい食べさせてやれなかったからな)

神獣になったとはいえ、こうして相棒と一緒に美味いものを食べて笑い合える。それだけで、俺の心の中にあった3年間の穴が、少しずつ埋まっていくような気がした。

ピコン♪

脳内に軽やかな効果音が鳴り響く。

【絆の深まり】 ・ハヤテとの食事により『絆レベル』が 2 から 3 に上がりました! ・固有スキル『仕込み餌作成(フェイク・ベイト)』の精度が向上しました。 ・ハヤテの最大魔力が上昇しました。

(おお、美味いものを食わせるだけでも絆レベルが上がるのか!)

「ご主人様、なにニヤニヤしてるの? 気持ち悪いわね」 「お前が美味そうに食うからだろ。ほら、最後の一口だ」 『んぐ……美味しかったわ。ごちそうさま、ご主人様』

口元のタレを俺の袖で拭うハヤテ(服をナプキン代わりにするな)。だが、その瞳には地球の頃以上の深い信頼と愛着が宿っていた。

「さて、お腹もいっぱいになったところで、これからどうしますかな?」 モリスが串を片付けながら尋ねてくる。

「そうですね……まずは冒険者ギルドに行って、身分登録と仕事の確保をしたいです。この街で生きていくための拠点が欲しいので」 「なるほど。ベイルの冒険者ギルドなら、この大通りをまっすぐ行った広場にありますよ。よし、私も荷降ろしのついでに案内しましょう!」

「助かります、モリスさん!」

俺とハヤテ、そしてモリスは、活気あふれる街道を歩き出し、冒険者ギルドへと向かった。

しかし――この時の俺はまだ知らなかった。 冒険者ギルドで、異世界では誰も聞き覚えのない『鷹匠』という職業と、「一羽のただの鷹」が、さらなる大騒動を引き起こすことになるということを。


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