第9話 第1章 魔王を倒すための仲間を集めます!④
誕生日の夕食後、アナムス兄さんとルフォス兄さんが俺の部屋へやって来た。
俺への誕生日プレゼントを渡すために来てくれたみたいだ。
「デフトル、誕生日会に参加できなくて、ごめんな。父上も厳しいよな?弟の誕生日くらい勉強を休んだっていいよな?」
アナムス兄さんが父上に対する愚痴をこぼしていた。
「確かにちょっと厳しいね。用事がなくても勉強を休めるのは自分の誕生日と大晦日と元日だけだからね」
それに対してルフォス兄さんが少しだけ同意していた。
確かに父上は俺たちに対して少し厳しい。だが、それも俺たちのことを思ってくれてのことだ。
公爵家に生まれた俺たち兄弟が他の貴族の方々と会った時に恥ずかしい思いをしないように考えてくれているから、貴族として恥ずかしくない知識とマナーを俺たちに身につけさせようとしてくれているのだ。
そのことを兄さんたちに伝えた方がいいか少し悩んだが、兄さんたちは分かっているはずだと思い、それを口にすることはやめておいた。
「それよりもアナムス兄さん、そろそろデフトルに誕生日プレゼントを渡して俺たちも自分の部屋に戻らなくちゃ。デフトルが眠そうにしているし長居しちゃ悪いよ」
ルフォス兄さんの言う通り、俺は眠気に襲われていた。
精神年齢は大人だけど、体の年齢は子どもなので、あまり夜遅くまでは起きていられないみたいだ。
「それもそうだな。よし!それじゃあ、どっちが先に渡すか決めようか?ここは公平にじゃんけんで負け―――」
「俺が先に渡すよ。はい、デフトル、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。ルフォス兄さん」
「何で先に渡しちゃうんだよ?ルフォス?公平にじゃんけんで決めようって言ったのに」
「だってアナムス兄さんは後に渡したいのでしょ?俺はどっちでもいいから先に渡したんだよ」
「それはそうだけど、じゃんけんで決める楽しみがなくなっちゃったじゃないか。」
「そんなにじゃんけんがしたいのなら後でしてあげるから」
「それじゃ意味ないって分からないのか?」
「分かっているよ」
「―――もういいよ。ところでデフトル、ルフォスのプレゼントの中身は何だったんだ?」
「今包みを開けているところです。……これは、本ですかね?」
ルフォス兄さんのプレゼントの包みを開けると分厚い本が現れた。
本の中身を確認すると全く文字が書かれていなかった。
「これは……?」
「それは日記帳だよ。デフトルも5歳になったのだから日々の行いを反省したり、良いことをした時は自分を褒めたりする機会も必要だと思ったからプレゼントしたんだ」
「ありがとうございます。ルフォス兄さん。早速今日から日記をつけようと思います」
「うん。まあ、俺が言ったことは気にしないで、その日あったことを書くだけでもいいからな。後で読み返せば良い思い出にもなるし」
「さすがルフォス!良いものをプレゼントするな。だけど俺のプレゼントも負けてないぜ。はい、デフトル、誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます。アナムス兄さん」
俺はアナムス兄さんからプレゼントを受け取り、包みを開け始めた。
包みを開けると出てきたのは―――。
「これは……エヴィメリオ王国の建国記ですか?」
「その通り!デフトルももう5歳になったのだからエヴィメリオ王国の成り立ちについて知っておいた方がいいと思ってね。全部本当の話かは分からないが物語としてはすごく面白いから読んでみてくれ!」
「(そうか。俺が建国記を読んだことがあったのは、アナムス兄さんに誕生日プレゼントとしてもらったからだったっけか。すっかり忘れていたな。でもそうなると今日エリスと建国記の話をしたのはまずかったかな?時系列がおかしくなるよな。でも、アナムス兄さんは誕生日会に参加してないから、俺が建国記の話をしていたことがバレなければ大丈夫か―――)」
「早速今日から読んでくれてもいいんだぞ、デフトル?」
「そうですね。早速今日から読み始めようと思います」
「そうか。それは良かった!」
俺が誕生日プレゼントに建国記をもらったことを喜んでいると思っているアナムス兄さんはすごく上機嫌だった。
「(これは絶対にバレない様にしなくちゃな)」と俺は心の中でそう誓った。
「それじゃあ、プレゼントも渡したし、俺たちも自分たちの部屋に戻ろう、アナムス兄さん?」
「そうだな。それじゃ、デフトルおやすみ」
「おやすみ、デフトル」
「おやすみなさい。アナムス兄さん。ルフォス兄さん。」
兄さんたちが部屋を出ていった後、俺は眠いのを我慢しながら、日記に今日のことを書き記し、建国記を数ページ読んでからベッドに横になった。
「とりあえず、まずは5年後のあれを解決できるように準備しなくちゃな」
5年後のエリスに降りかかる事件を解決するために必要なことを考えている間に俺は眠りについていた。
誕生日の次の日から俺はとにかく武術と魔法の習練とエリスと親しくなることと勇者に選ばれた時に連れて行く仲間探しに時間を費やした。
だが、武術の習練と仲間探しはなかなかうまく行かなかった。
1回目の人生では武術の習練は勇者を目指し始める13歳から始めたのだが、その時はハモン家の騎士団の団長にお願いして訓練に参加させてもらっていた。
しかし、訓練に参加する許可をもらうのに1年かかったので、実質始めたのは14歳からだった。
2回目の人生では、もうすでに俺は勇者を目指しているが、5歳の俺を騎士団の訓練に参加させてくれるような物好きな大人はいない。
仕方なく俺はある程度重さのある木の枝を拾ってきて、それを剣に見立てて素振りをしたり、目標物を用意して斬ったり突いたりする練習をした。
本当は木の枝をナイフで削って剣の形にしたかったのだが、5歳の子どもにナイフを貸してくれる親も兄もメイドもうちにはいなかった。
しかし、一本の棒にはしたかったので細い枝が何本か伸びているのを折ったのだが、それが5歳の子供の体ではかなり大変だった。
早く本物の剣が振れるようになるために体づくりもしっかりした。
毎日走り込んだり、筋力トレーニングをしたりもした。
だが、知識はあっても5歳の子どもにできる武術の習練や体づくりには限界があった。
だから俺は武術の習練よりもまず魔法の習練に多くの時間を割いた。
魔法は王族や貴族だったら大半の人が使える。
魔法が使える才能はほとんど遺伝で決まる。
平民で魔法が使える人はほとんどいない。
エヴィメリオ王国を建国したプロチオ王も魔法を使えたと建国記に記されているが始祖だとは書かれていないので、エヴィメリオ王国が建国される前から魔法を使える人はいたみたいだ。
仇敵である叔父のチェイオスやプロチオ王がその叔父を倒すのに協力した仲間たちも魔法が使えたらしいので、昔は今よりも魔法が使える人が多かったみたいだ。
だが、今は王族か貴族でなければほとんど魔法を使えない。
おそらくエヴィメリオ王国が魔法を使える人を重用してきたため、魔法を使える人のほとんどが貴族になり、その貴族たちが自分たちだけずっと甘い汁を吸えるように魔法を使える才能を広めないために貴族の間で婚姻関係を結んできたことが理由だろう。
しかし、ごくまれに平民の中からも魔法の才能にあふれた人が生まれることがある。
そのうちの一人が御前試合で俺に勝った勇者プルトだ。
俺とプルトが使える魔法は同じ身体強化魔法と物質強化魔法だ。
ただし、プルトが使う魔法の方が俺の使う魔法よりも強力だったため、俺は1回目の人生では御前試合でプルトに負けた。
しかも、プルトの英雄譚を編纂していた時に知ったのだが、プルトにはさらに奥の手ともいえる魔法を使えるらしい。
強力な魔法を使うために必要なのは、魔力供給源を大量に確保することだ。
この魔力供給源が何かは人によって違う。
つまり大量に確保しやすい魔力供給源を持つ人が有利というのが常識だ。
魔力供給源になるものもいろいろあって、風や太陽の光といった周りの自然だったり、飲んだ水の量や食べたリンゴの数といった何かを摂取した量だったり、自分の怒りや悲しみといった感情だったりもする
俺のというか、ハモン家の魔力供給源は感情に関連した物が多い。
父上とルフォス兄さんの魔力供給源は《楽しいという感情》だ。
これは自分が楽しいと感じれば感じるほど使える魔法が強力になる。
だから、戦闘狂の性格の持ち主でなければ、あまり戦いの場で有利な魔力供給源とは言えない。
まあ、2人とも文官としてエヴィメリオ王国に仕えていたから、戦いの場に行くことなんてなかったのだが。
俺とアナムス兄さんの魔力供給源は《笑顔》だ。
これは自分が笑顔であればあるほど使える魔法が強力になる。
これもあまり戦闘向きじゃない魔力供給源だが、父上たちと違うのは作り笑顔でも魔力を供給することができるというところだ。
つまり、どんな状況でも笑顔でいることができるようにすれば、いつでも強力な魔法が使える。
そのため、まず俺の魔法の習練は、どんな時でも笑顔でいられるようにすることだった。
木の棒を使った剣の練習の最中でも笑顔、走り込みの時も笑顔、腕立て、腹筋、スクワットなどの筋力トレーニングの最中も笑顔、父上が雇った家庭教師による一般教養やマナーの授業を受けている時も笑顔、食事中も笑顔、といった具合に四六時中笑顔でいるように努力した。
その結果、2年後にはお面が張り付いているのかと疑いたくなるくらい常に笑顔でいられるようになった。
常に笑顔でいられるため、俺は常に魔法が使えるようになった。
さらに常に笑顔でいることの副産物と言っていいのかは分からないが、1度目の人生の時よりも大人の方々に可愛がられることが多くなった。
やはり、笑顔の子どもは可愛いのかもしれない。




