第6話 第1章 魔王を倒すための仲間を集めます!
パッと目を開けると、見えたのは薄暗い部屋の天井だった。
見覚えがある天井のような気がしたが、まだ頭がうまく回らず、ここがどこなのか、どうしてここにいるのか分からなかった。
とりあえずベッドから上半身を起こし、部屋の中を見回してみた。
部屋は割と広めだったが見えるのは衣装ダンスとイスとテーブルくらいだった。
それ以外の情報だとカーテンの隙間から光が差し込んでいたので、もう朝日が昇っている時間だということが分かった。
段々と頭が回り始めてきた時、ふと視線を下げると自分がかなりでかいベッドの上で寝ていたことに気付いた。
「(なんだ、このでかいベッドは⁈)」と一瞬驚いたが、自分の腕を見てみると子供のように小さいことにも気づいた。
布団をめくって自分の下半身を見てみても、やっぱり子供のように小さかった。
「(え⁈俺、子供だったっけ⁈自分ではもっと大人のような気でいたのだけどな。何で自分のこと大人だと思っていたのだろう?そういえば、夢?で老人の俺が死んで神様から人生をやり直さないか?と尋ねられるというのを見たから、自分のこと大人だと思ったのかもしれない。え⁈あれって夢だっけ?)」
自分の記憶が実際にあったことなのか夢で見たことなのか混乱してきた。
ただ、俺が死んだ時の記憶だけでなく俺が子供から大人になって死ぬまでの大量の記憶もあった。
これが全部夢だったとは考えにくい。
「(何なんだ、この記憶は?グノース様の加護で1度目の人生の記憶を持ったまま人生をやり直したという記憶もあるけど、これは夢じゃなくて本当の記憶なのか?どうしても勇者に選ばれて魔王を倒したいと1度目の人生の俺は思ったみたいだけど、プルトが魔王を倒してくれたのなら別に俺じゃなくても……何でプルトという奴のことを考えると、こんなにむしゃくしゃするのだろう?魔王を倒してくれた英雄だというのに……いや、プルトが魔王を倒すと、その英雄譚を俺が編纂しなくちゃいけなくなるだけじゃなく、語り部として十数年間もエヴィメリオ王国民に語って聞かせなくちゃいけなくなる。そんなのはごめんだ!今度こそ魔王を倒すのは、俺だ‼)」
この時、やっといろんなことが腑に落ちた。
やはり俺は人生をやり直している。
夢だと思った記憶は夢じゃなくて1度目の俺の人生の記憶だ。
俺はモーラー様のおかげで5歳の誕生日から人生をやり直したんだった。
体が子どもで中身が大人なのは1度目の人生の記憶を持っていたからだったんだと納得していると、トントントンとドアを叩く音が聞こえた。
「失礼いたします」と言ってメイドが1人部屋の中に入ってきた。
そのメイドは真っすぐ窓に向かって行きカーテンを開けた。
「デフトル様。もう朝ですよ。起きて……いらっしゃったのですね。すみません」
「謝ることはない。キミが俺を起こしに来るよりも早く俺が目を覚ましただけに過ぎないのだから」
「……失礼いたしました。それではデフトル様、もうすぐ朝食の用意ができますので、お着替えをいたしましょう」
「分かった。でも俺は自分で着替えるから、キミは服を用意するだけでいい」
「……失礼いたしました。それではお召し物の用意をいたします」
俺がメイドの用意した服に着替えている間、メイドがずっと怪訝な顔をしていた。
俺はそれが気になったので着替えを終えるとメイドの方を見て、「どうかしたか?」と尋ねた。
するとメイドは少し慌てた様子を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻し、「いえ。特に何もございません」と答えてきた。
俺は絶対に何か思うところがあるだろうと思ったが、それ以上は問い質さなかった。
俺が姿見で身だしなみの確認をしていると部屋のドアがバーンと開いた。
「おはよう!デフトル!5歳の誕生日おめでとう!」
「アナムス兄さん……」
7歳年上のアナムス兄さんが俺の誕生日をお祝いに部屋までやってきてくれたみたいだ。
「アナムス兄さん、もう少し小さな声で話した方がいいと思うよ。デフトルが驚いているみたいだから」
5歳年上のルフォス兄さんも来ていたらしく、アナムス兄さんの後ろからアナムス兄さんの声量を注意していた。
「ルフォス、何を言っているんだ?めでたいことを祝うのだから声が大きくても悪いことなんてないだろう?な!デフトル……何で泣いているんだ?」
アナムス兄さんに指摘されて初めて俺は自分の目から涙がこぼれ落ちていることに気付いた。
「ほら!デフトルはアナムス兄さんの声量に驚いて泣いているんだよ!ちゃんと謝りなよ!」
「ごめん、デフトル!そんなに驚くとは思わなくてさ」
アナムス兄さんはすごく気まずそうな表情をしながら謝罪してきた。
「アナムス兄さん、違うのです!これは嬉しくて泣いているのです。驚いて泣いている訳じゃないのです」
俺は涙を袖で拭いながら涙を流した理由を答えた。
俺は兄さんたちに泣いている理由を、お祝いが嬉しいからと答えたが本当は違う。
本当は久しぶりにアナムス兄さんの顔を見られたことが嬉しくて泣いていた。
アナムス兄さんは俺のことをすごくかわいがってくれていたので、俺もすごく懐いていたのだが、この日から8年後に王国騎士団と魔王軍の戦いで命を落とす。
アナムス兄さんが亡くなった後、俺はアナムス兄さんの敵を討つことを決めて勇者を目指し始める。
勇者を目指したことは全く後悔していない。
アナムス兄さんが王国騎士団に入団した理由が俺やルフォス兄さんが魔王の恐怖に怯えずに安心して暮らせる平和な世界を願ったからだと母から後に聞いたからだ。
そんな弟思いの兄の願いを叶えたいというのも勇者を目指す理由の1つになった。
俺の人生に影響を与えたアナムス兄さんの顔を60年ぶりに見られたことが嬉しくて俺は泣いていた。
いくら拭っても拭っても、とめどなく涙があふれてきた。
最初の内はアナムス兄さんは俺の返答を聞いて、「ほら!ルフォス、デフトルは驚いてないみたいだぞ!むしろ、俺のお祝いが嬉しかったって言っているぞ!」とルフォス兄さんに言っていたが、俺が全く泣き止む様子がないので段々と慌て始めた。
「ルフォス、デフトルの涙を拭くハンカチはないか⁈」
「アナムス兄さん落ち着いて!ハンカチならあるから!」
ルフォス兄さんがポケットから取り出したハンカチを受け取ったアナムス兄さんが俺の止まらない涙を拭きとろうとしてくれた。
かなり強めの力でごしごし拭かれた痛みで俺の涙はそれ以上出なくなった。
「ありがとう、アナムス兄さん。でも、もう大丈夫だから」
「そ、そうか?」
「ほら、アナムス兄さん、お祝いも済んだのだから、そろそろ行きましょう。」
「そうだな。ルフォス。それじゃあ、デフトル、俺たちは先にダイニングルームへ行っているからな。」
「分かりました。僕も涙で濡れた服を着替えたらすぐに向かいます」
「それじゃあ、また後でな」
そう言ってアナムス兄さんは部屋を出て行った。
ルフォス兄さんも続いて出て行こうとしたが、急に俺の方を振り向いて、「デフトル!」と呼びかけてきた。
「何ですか?ルフォス兄さん?」
「誕生日おめでとう」
「……ありがとうございます」
「まだ俺は言ってなかったから、ちゃんと言っておかないとと思ってさ」
「そうでしたっけ?」
「覚えてないのか?まあ、いろいろバタついていたからな。それじゃあ、俺ももう行くよ。デフトル、また後でな」
「はい。また後で」
アナムス兄さんのことで頭がいっぱいでルフォス兄さんのことをすっかり忘れていたがルフォス兄さんも俺に優しい尊敬すべき兄さんだ。
アナムス兄さん亡きあと、ハモン家の家督を継いでハモン家のことを一番に考えて必死に頑張ってくれていた印象がある。
「(俺は良い兄たちに恵まれたな)」と感慨にふけっていると、俺の着替えを用意して待っていたメイドが、「デフトル様、お着替えを用意いたしました」と話しかけてきた。
「ああ、ありがとう……」
俺は着替えを受け取ろうとして動きを止めた。
その理由はメイドの名前が何だったかを思い出せなかったからだ。
1度目の人生の記憶を持ったまま人生をやり直したと言っても、すべての記憶をすぐに思い出せるわけではないみたいだ。
俺が動きを止めたのを見て、メイドが不思議そうな顔をしている。
「どうかいたしましたか?」
「……」
このまま黙っているのは良くない!何とか思い出さなくちゃいけない!
そう分かってはいるのだけれど、なかなか思い出せなかった。
俺が小さい時に身の回りの世話をしてくれたメイドの名前は……メイドの名前は……?
「……そうだ!フロンだ!」
急に俺が大声を出したのでフロンは少し驚いた様子だった。
「そうだそうだ!フロンだよ!フロン!ハモン家と懇意にしているイポーリオ商会の娘さんで俺が8歳になるまで身の回りの世話をしてくれたんだった!キミの名前はフロンで合っているよな?」
「はい。私の名前はフロンで合っています。……あの、デフトル様、2つ質問してもよろしいでしょうか?」
「2つ?まあ、別に構わないが。」
「ありがとうございます。先程からデフトル様の話し方が随分と大人びていらっしゃるのですが、何か理由がございますか?それと私がデフトル様の身の回りのお世話をデフトル様が8歳になるまでさせていただいたと先程デフトル様がおっしゃられましたが、デフトル様はなぜ未来のことをご存じなのでしょうか?」
フロンの質問を聞いて、フロンがさっきから俺のことを不思議そうな顔で見ていた理由が分かった。
俺が年齢に似合わない話し方をしていたから不思議がられていたようだ。
昨日まで子供の話し方だったのだから急に変わったら普通に不思議がられるか。
う~ん、どう言ってごまかそうかな?さすがに「人生をやり直して中身がおじいさんになっているから、この話し方なのだ」と正直に話しても理解してもらえないだろう。何か良い言い訳はないだろうか?……そうだ!これなら……。
「ああ、そのことか?それは俺ももう5歳になったのだから、昨日までの子どもっぽい話し方はやめて、父上の様な大人らしい話し方を身に付けようと思ったからだ。あと、フロンが8歳まで俺の身の回りの世話をしてくれたと言ったのは、夢で見たからなのだ」
「夢……ですか?」
「そう、夢!ついさっき見た夢の内容と現実を混同してしまったのだ。断じて俺が未来を知っているからという訳ではないのだ」
「そうなのですね……」
フロンは何かを考えこむような表情をした後、俺の目を見て、「申し訳ございませんでした!」と頭を下げてきた。
「何を急に謝っているのだ?」
「先程からの私の態度について謝罪しております。私はデフトル様が急に話し方が変わられたり、お召し物を自分で着替えられたりしたことをほんの少しですが奇妙に感じていたのです。しかし、それもデフトル様の深いお考えで行動されていたのですね。デフトル様はまだ幼いと思っていましたが、私が浅はかでした。申し訳ございません」
「フロン、顔を上げてくれ。俺はまったく気にしてないから謝る必要なんてないぞ。それに兄さんたちが待っているダイニングルームに早急に向かわなくてはいけないから、早く着替えないと。」
「ありがとうございます」
顔を上げたフロンから俺は着替えを受け取り、涙で袖を濡らした服から着替えて急いでダイニングルームへ向かった。




