第33話 第7章 勇者選抜御前試合④(決勝戦開始)
勇者に選ばれて実際に魔族と戦う時は相手の情報を事前に知ることができない場合が多いので、御前試合では参加者が他の参加者の試合を見ることはできない。
試合を終えて控室に戻って来た方が勝者なのだということ以外の情報は手に入らない。
俺が控室に入ると待機している参加者の視線が俺に集まった。
俺はそれを全然気にせずに堂々と歩いてスケーロくんの隣に座った。
「1回戦突破おめでとう。デフトルくん」
「ありがとう、スケーロくん。」
「きっと勝つだろうと思っていたよ」
「俺も絶対に勝つと思っていたよ」
俺とスケーロくんは顔を見合わせて笑い始めた。
俺とスケーロくん以外の人たちは会話を一切していなかったので、控室に俺とスケーロくんの笑い声が響いた。
俺たちの笑い声が静かな控室にびっくりするほど響いたので、俺もスケーロくんもすぐに笑うのをやめた。
それからは他の人たちの迷惑にならないように俺とスケーロくんは声の大きさに気をつけて話をした。
「ミソールさんは強かったかい?」
「初見だったらてこずったかもしれないけど、俺はミソールの魔法も魔力供給源も大体知っているから楽勝だったよ」
「そっか。俺も1回戦ぐらいは勝ちたいけど難しいかもね」
「どうして?そんな強そうな人と当たったのかい?」
「やっぱりデフトルくんは覚えていないんだね?いや、むしろ聞いていなかったのかな?」
「ごめん。確かに自分の対戦相手以外のことを覚えていないのは事実だ。否定はしないよ」
「ごめんごめん。デフトルくんのことを責めたかったわけではないんだ。デフトルくんは対戦相手が因縁のある相手だったわけだからね。ただ、俺の対戦相手も覚えていないくらい意識がそっちに向いていたんだなと確認したかっただけなんだ。俺の対戦相手はプルトっていうかなり強そうな人だよ」
「え?プルトだって?」
「うん。最後に控室に入ってきた人だよ。おそらくだけれど、今この場にいる人全員が強いと感じている人だね」
「そうか。(今の俺は)プルトと戦ったことはないけれど、かなり強いと思う。でも、スケーロくんも十分強いと思うよ。どちらが勝つかは分からないけれど俺はスケーロくんを応援するよ」
「ありがとう、デフトルくん。応援してくれる人が一人でもいると思うと励みになるよ。自分から振っておいてなんだけど、この話題はこれくらいにしようか?」
「そうだね。それじゃあ、これから試合で控室から出て行く2人の内、どちらが勝って控室に戻ってくるか予想するというのはどうだい?」
「面白そうだね。よし、やろう!今は第4試合が行われているから、次の第5試合から予想しようか?」
「そうだね。そうしようか」
俺とスケーロくんは試合の勝者を予想するゲームを始めた。
一応それなりに腕が立つ俺とスケーロくんの予想が外れることはあまりなかった。
第5試合から第14試合までの10試合を予想したが、俺とスケーロくんが予想を外したのは1度だけだった。
そして第14試合の勝者が控室に戻ってくるとすぐに、きちんとした身なりの人が控室にやって来て、「第15試合が開始されますので、スケーロさんとプルトさんは準備してください」とスケーロくんとプルトを呼び出した。
スケーロくんは立ち上がり、「楽しかったよ、デフトルくん。もっと続けたかったけど、俺の番が来ちゃったよ。それじゃあ、行ってくるよ」と言い置いて控室の出入口のドアへ向かおうとした。
「頑張って!スケーロくん!勝者を予想するゲームはスケーロくんがプルトに勝てば、まだまだ続けられるよ!」
「ハハハハ!それもそうだね!それじゃあ、絶対に勝たないとね!」
俺の発言に笑う余裕があるみたいなので、緊張で実力を十分に発揮できないということはないだろう。
これはひょっとしたらひょっとするぞ!
俺が期待してスケーロくんを見送って5分ほどで控室のドアが開いた。
ドアを開けて控室に入って来たのはスケーロくんではなくプルトだった。
「(やはりそれはそうか)」と俺が肩を落としていると、周りにいる人たちが、「こんなに早く戻ってくるなんて」と言って、驚きを隠せずにいた。
確かに俺の試合を含めて今までの試合はすべて勝者が控室に戻ってくるまでに最短でも10分以上かかっていた。
そう考えると5分で勝負が決まるというのはかなり早い。
しかし、プルトはそれを誇る様子もなく淡々と控室に戻って来て椅子に腰を掛けた。
その様子を見ると、さらに俺のプルトへの苛立ちが増してきた。
「(気取っているんじゃねえよ)」
俺は心の中でプルトへ悪態をついて気持ちを少し落ち着かせた。
「(スケーロくんのような話し相手がいれば、この気持ちをもっと落ち着かせることができたのにな)」
スケーロくんがいないことは、プルトへの苛立ちを押さえる面でかなりマイナスに働いていた。
「(そういえば、スケーロくんは大きなケガとかはしていないだろうか?)」
そう考えた後、プルトが控室に戻って来てすぐにスケーロくんの身を案じないとは、俺はなんて友だちがいのない奴なのだろうとかなりの自己嫌悪に陥った。
「(スケーロくんの心配よりも自分のプルトへの苛立ちを優先させてしまうような自己中心的な考えの持ち主だから、魔王を倒すという偉業を成し遂げたプルトの英雄譚の語り部という人生では満足できなかったのではないだろうか?)」
「(百数十年、ケントロ大陸にある国々を恐怖に陥れた魔王をプルトは倒してくれたのだから感謝すべきであり恨むなんてお門違いじゃないだろうか?)」
考えれば考えるほど自分という人間が嫌になってきた。
もう俺みたいな人間は勇者に選ばれない方が良いのではないかとも考えた。
しかし、そんな時に俺はいつの間にか顔の前で両手を合わせていることに気付いた。
それは人生をやり直した時から毎朝ずっと続けていた神様たちへのお祈りの姿勢と似ていた。
「(そうだ!俺が人生をやり直せているのはモーラー様のような神様たちのおかげだった!俺が今考えているような勇者にふさわしくない最低の人間だと神様たちが思っていたら人生をやり直させてくれるはずなんてない!)」
もう少しで次の試合を棄権するかもしれなかったが、俺はすんでのところで踏みとどまることができた。
スケーロくんのことは本当に申し訳なかったが、誰か一人しか選ばれない勇者の座を狙って争っている関係なのだから、負けた相手より自分のことを優先しても仕方ないのではないだろうかと考えることにした。
試合が進むにつれて一人また一人と控室にいる人の数は減っていった。
俺はミソールとの試合と同じ素早く動いて間合いを詰める戦法で順調に勝ち上がって行った。
むかつくことにプルトも最速で試合を終わらせて勝ち上がっていた。
そして、勇者選抜御前試合が開始されて8時間後には控室に残っているのは俺とプルトだけになっていた。
「決勝戦が開始されますので、デフトルさんとプルトさんは準備してください」
進行係の人に呼ばれて俺とプルトは控室を出て試合会場へと向かった。
俺とプルトは魔王を倒すという共通の目的はあるが、勇者の座を争う敵同士なので控室に2人だけになっても一言も会話しなかった。
俺から話すことは何もないし、話しかけられても対応に困るだけなので、たいした問題はなかったのだが1つの部屋に無言で2人きりでいるのは少し辛かった。
そんな状況から解放されたので、試合会場へと向かう間、俺は歩きながら腕の筋を伸ばしたりして緊張をほぐした。
前を歩くプルトを見ると俺と同じく体の筋を伸ばしたりしていた。
1度目の人生の時はプルトよりも後に入場口を出たが、このまま2度目の人生でもプルトよりも後に出るのは縁起が悪い気がしたので、少し歩く速度を速めてプルトを抜いて俺が先に入場口を出た。
入場口を出ると、「ワーッ!!」という今までの試合で入場した時よりも大きな歓声が起こった。
俺は意気揚々と歩いて試合の舞台に上がろうとした時に観客の歓声が更に大きくなった。
急に歓声が大きくなったので、俺は辺りを見回した。
するとちょうど入場口からプルトが出てきたところだった。
1度目の人生の時にプルトよりも後に入場口を出た時は気が付かなかったが、俺とプルトでは観客の期待値が違うことに今気付いた。
まあ、すべての試合を最速で勝ち進んできたプルトと1度目の人生の時よりは早く試合に勝ったがプルトよりも遅い俺では、どちらが観客の期待に応えたかは言うまでもないだろう。
こんなことなら勘違いしていられるようにプルトの後に入場口を出れば良かったかなと少し考えてしまった。
プルトは悠然と歩いて試合の舞台へ上がり、試合開始の立ち位置に立った。
「それではこれより、第13回勇者選抜御前試合の決勝戦、デフトル対プルトの試合を始める!両者互いに礼!」
今までと変わらない進行を係の人がしていた。
これが観客を楽しませるだけの興行としての試合だったら、もっと観客が興奮するような進行をするのだろうけど、これは国王陛下もご覧になっている魔王を倒すための勇者を選ぶ試合のため、無駄な演出は省いているのだろう。
俺とプルトは礼をして互いに木剣を構えた。
さらに俺はにっこりと笑顔を作っておいた。
「それでは、始め!」




