第31話 第7章 勇者選抜御前試合②(開会式)
控室のドアを開けて中へ入ると異様な熱気と殺気を感じた。
控室にはすでに2,30人が待機していて、見るからにどいつもこいつも強そうに感じていた。
1度目の人生の時は。
だが、5歳から勇者に選ばれるために必死に努力して実力と自信をつけた2度目の人生の俺にはどいつもこいつもこけおどしにしか見えなかった。
「(やはり、プルト以外は敵ではないかな)」
俺がそう考えていたところ、控室の端の方で俺に向かって手を振っている人がいることに気付いた。
控室の端にはいたが、そいつ一人のせいで控室が狭く感じてしまうほどの巨体だった。
そしてそいつもどこかで見たことがある顔をしていた。
「デフトルくん!」
「スケーロくん!どうしてここに⁈」
「それはもちろん、勇者に選ばれるためだよ!と言いたい所なんだけれども、実際はデフトルくんと戦いたかったからだよ」
「それなら学院の戦闘実習でいつでも戦えるじゃないか?何でわざわざ御前試合に参加してまで?」
「戦闘実習はあと2回しか行われないし、学院を卒業したらデフトルくんと戦える機会はなくなるから、1度でも多くデフトルくんと戦いたくて参加したんだ」
「スケーロくんは王国騎士団に入団するのだろう?もし勇者に選ばれたらどうするんだい?」
「もちろん半端な気持ちで参加したわけじゃない。勇者に選ばれたら、魔王を倒すために全力を尽くすつもりだよ」
「そうか。それなら俺から言うことは何もないかな」
「俺と戦う前に負けないでくれよ!デフトルくん!」
「それはこっちのセリフだよ!」
俺とスケーロくんが笑い合っていると控室のドアが開いてプルトが控室に入ってきた。
プルトがドアを開けた瞬間に控室の空気は一瞬でピリついた。
理由はおそらく控室にいる誰もがプルトの強さを感じ取っていたからだろう。
「(1度目の人生の時と同じだな。あの時の俺はプルトの強さを見誤っていたけど、今回ははっきりと分かる。プルトは信じられないくらい強い。たぶんまともに戦えば俺の勝率は3割もないだろう。しかし、こいつに勝たなくては勇者になれない。だったら、正面からぶつからなければいいだけだ!そのための作戦もある!勇者になるのはプルトじゃない!この俺だ!)」
そんなことを考えながらプルトをにらみつけていると、「あいつ強いね」とスケーロくんが話しかけてきた。
「スケーロくんも感じていたんだね。あいつはかなり強いよ」
「デフトルくんと当たる前に戦いたくはない相手だね」
「ああ、俺も決勝までは当たりたくはないね。もちろん、スケーロくんもだけどね」
そう言ってスケーロくんの顔を見て笑うと、スケーロくんも、「嬉しいこと言ってくれるね」と言って笑ってくれた。
「(1度目の人生の時はあと少しで行われる御前試合の1回戦で笑顔を作るのに苦労したって言うのに、今回はまだ自然に笑える余裕があるな。これなら……)」
その後もスケーロくんと周りの人たちの見た目から感じ取った強さについて話し合っていると、また控室のドアが開いて、きちんとした身なりの男性が入ってきた。
「御前試合に出場する皆さん、お待たせいたしました。開会式が開かれますので入場口へ向かってください」
俺たちを呼びに来た男性に付いて行く形で出場者がぞろぞろと控室を出て行った。
俺とスケーロくんは最後に控室を出て試合会場の入場口へと向かった。
薄暗い通路を通り抜けて入場口から出ると御前試合の観客の歓声が聞こえた。
俺とスケーロくんよりも先に試合会場に来ていた人たちのほとんどが自分たちを観ている観客の多さとその歓声を聞いて、どう対処していいか分からずにまごついていた。
しかし、何人かは観客の多さに圧倒されずに観客に手を振ったりしていた。
その内の一人がプルトだった。
この状況に全く動じていないプルトの様子を見て俺はすごい苛立ちを覚えた。
プルトへの恨みや憎しみのせいでプルトが何をしても苛立ちを感じてしまうのかもしれない。
「デフトルくん、どうしよう?」
「……ん?どうかしたのかい?スケーロくん?」
「俺たちも観客に向かって手を振ったりした方が良いのかな?」
「うーん?正直に言わせてもらうと振っても振らなくてもどちらでもいいと思うよ。観客のほとんどが俺たちの1人1人をじっくり見ている訳ではないと思うからさ」
「そっか。どちらでも良いのなら振っておくよ。ありがとう。デフトルくん」
そう言ってスケーロくんは右手を上げて観客に向かって振り始めた。
しばらくの間、それを眺めていると、急に、「静粛に!」と言う大きな声が闘技場全体に響いた。
声がした方を向くと、おそらくアプリトの次に宰相になったチカタスタ宰相が一番眺めの良い王族専用の観覧席の近くで何か棒みたいなものを右手に持ってお立ちになっていた。
「それではこれより御前試合の開会宣言を国王陛下が行われる。皆静かに拝聴するように。……それでは国王陛下よろしくお願いいたします」
チカタスタ宰相に促されてシリヴァリア国王陛下が椅子から立ち上がり、チカタスタ宰相が右手に持っていた何かを受け取り、それを口元に持っていき、おもむろにお話になった。
「諸君、本日はよくぞ集まってくれた。
この御前試合は、ただ勝敗を競う場ではない。
我が国と民を守るに足る勇気、慈悲、そして覚悟を示す神聖な舞台である。
己が剣に、己が信念に、そして己が誇りに懸けて戦え。
今日ここより、新たな勇者の伝説が始まることを切に願う。
それでは、第13回勇者選抜御前試合の開幕をここに宣言する!」
シルヴァリア国王陛下が開会宣言をおっしゃって手に持った何かをチカタスタ宰相に手渡されてから席に戻られるとすぐに観客の「ワー!!」という歓声が起こった。
「静粛に!静粛に!」
チカタスタ宰相は観客を静かにさせようとされていたがなかなか歓声はやまなかった。
数分経って歓声がやんだどころでチカタスタ宰相が御前試合の進行を始められた。
「本日の出場者はちょうど32名なのでシードなしの5回勝ち抜きのトーナメント戦を行う。それではまず、出場者の試合順を決めたいと思う。御前試合の参加申し込みが早かった順にくじを引いてもらい決める。それでは1番、ミソール・アポニチキ!」
「はい!」
「(ミソール?ミソールってもしかしてあのミソールか?)」
俺は驚きつつもミソールが俺の知っているミソールか確認するためにくじを引きに前に出てくる人を注視していた。
試合が行われる舞台に、いつの間にかいた、くじの入った箱を持った人と不正がないように見張る王国騎士団員の方が立っているところにミソールと呼ばれた人が進んでいった。
ミソールと呼ばれた人の横顔を見ると、多少俺の記憶よりもやつれていたが、やはりミソールと呼ばれた人は1度目の人生では俺の護衛兼家庭教師だった、あのミソールだった。
「(1度目の人生の時は第13回目の勇者選抜御前試合に参加したのは30名だったので、スケーロくん以外にも俺の知らない参加者がいるとは思っていたが、まさかミソールだったとは……)」
ミソールは俺が驚いていることなど知らずにくじが入った箱を持っている人の前まで行って箱に手を突っ込み、くじを掴んで引き抜いた。
そしてミソールはくじが入った人の横にいるくじを確認する人に自分が引いたくじを渡した。
くじを確認する人がくじを開いて番号を確認すると、チカタスタ宰相が持っているものと同じ何かが付いた棒を口元に持って行き、「1番、ミソール・アポニチキ、Bの2番!」と言う声が会場に響いた。
ミソールはそれを聞くと自分がいた場所へ戻って行った。
「では次、2番、ラチェオ!」
チカタスタ宰相が次にくじを引く人を呼んだ。
次にくじを引く奴はあまり覚えていないから1度目の人生の時は俺と試合をしていないのだろうなと考えていると、ポンっと右肩を叩かれたので振り向くとスケーロくんが、「なあ、デフトルくん。チカタスタ宰相やくじを確認している人が手に持っている棒の先についているのは魔石かな?」と尋ねてきた。
「おそらくそうだろうね。たぶん出した声を拡声することができる魔石が付いているのだろうね」
「やっぱりそうか。ありがとう。デフトルくん」
「疑問が解消されたのなら良かったよ」
俺がまたくじの箱を持った人の方を向くと、もうラチェオと言う人はくじを引き終わっていた。
「2番、ラチェオ、Dの1番!」
ラチェオと言う人が元いた場所に戻ると、「次、3番、デフトル・ハモン!」と俺の名前が呼ばれた。
「はい!」
俺は背筋を伸ばして堂々と歩いて、くじが入った箱の前まで行き、箱に手を突っ込んだ。
「(できればプルトとは決勝で当たる試合順なら良いなぁ。そういえば、1度目の人生の時はBの1番を引いて第2試合目だったけど、また同じになったりして。……まさかね)」
俺はそんなことを考えながら、くじを引き、引いたくじを確認する人に渡した。
「3番、デフトル・ハモン、Bの1番!」
そう発表する声が会場に響いたら、「うぉー!!」と観客からどよめきの声が上がった。
そりゃそうだろう。
なんせまだ3人しかくじを引いていないのに、もう対戦する組み合わせが1つ決定したのだから。
俺の1回戦の対戦相手は1度目の人生で護衛兼家庭教師だったミソールに決定した。




