第30話 第7章 勇者選抜御前試合
貴族学院を卒業する3ヶ月前、1度目の人生の時と同じく第13回目の勇者選抜御前試合が1ヶ月後に開催されることが公示された。
遂に俺の人生の一番の転換点である第13回目の勇者選抜御前試合が開催されることになった。
1度目の人生の時は文官の採用試験のために勉強ばかりしていた時期だったが、今回は勉強と並行して剣と魔法の訓練を欠かさなかった。
それに1度目の人生の時は文官採用試験を終えるとすぐにハモン公爵領に戻り、団長に模擬試合で勝たなければいけなかったが、今回はすでに模擬試合で団長に勝っているため、ハモン公爵領に戻らなくていいので時間には余裕があった。
俺は余裕をもって文官採用試験のための勉強と御前試合のための特訓を並行して頑張った。
そして文官採用試験を終えた2週間後、第13回目の勇者選抜御前試合が開催された。
御前試合が行われる王都テヴォーサには地方から大勢の人が試合を見物しようとやってきていた。
俺とスピドロとエリスは歩いて闘技場へと向かっていた。
この日は地方からも大勢の人がやって来るので馬車に乗って闘技場へと向かうことが禁止されていたためだ。
と言っても、それは出場者受付がある平民用の闘技場の入口へと向かう場合で、貴族専用の入口へと通じている道は馬車を使うことができた。
俺は出場者なので平民用の闘技場の入口へと向かっていた。
「いや~すごい人の数ですね」
「ホントに。うちの領地の州都とは比べ物にならないくらいの人の数ですね」
「これでも御前試合が開催される度に見物しようとやって来る人数は減ってきているみたいだぞ。国民も12人も勇者を送り出したのに、いまだに魔王を倒す勇者が現れないから期待しなくなってきているのだろう。『どうせ数年経てば、また勇者選抜御前試合が行われるんだろう』って考えている人も少なくないだろうな」
スピドロとエリスは御前試合を見物しようとしている人の数に圧倒されているみたいだ。
本当は俺も少し驚いているのだが、それが2人にバレない様に努めて冷静に振る舞っていた。
「へぇーそうなんですね。でも、その予想は外れますね。14回目は行われないですから」
「そうね。13人目に選ばれるデフトルが魔王を倒してくれますからね!」
「2人ともやめてくれ。まだ俺が勇者に選ばれるとは決まっていないのだから」
「デフトル様は謙虚ですねぇ。どう考えてもデフトル様より努力してきた人も実力がある人もいませんよ!」
「スピドロの言う通りですよ!そしてデフトルよりも勇者にふさわしい人もいませんもの!」
「分かった分かった。2人の気持ちは嬉しいけど恥ずかしいからその辺でやめてくれ!」
俺はおそらく顔を赤くしながらスピドロとエリスがこれ以上周りの人に聞かれて恥ずかしいことを言わないように制した。
そうこうしているうちに俺たちは御前試合が行われる闘技場までやってきていた。
「デフトル様は御前試合の申し込み受付が開始されてすぐに参加申し込みをしていらっしゃるんですよね?」
「ああ、もちろん。でも、今回からは当日の参加申し込みも可能になったはずだぞ」
回を重ねるごとに御前試合への参加者が減ってきているので、今回から導入されたのだが、俺としては導入しないでほしかった。
「へぇーそうなんですね。あ、あっちが受け付けみたいですよ!早く行きましょう!」
「そんなに慌てなくても受付時間はまだまだあるぞ、スピドロ!」
「そうよ、スピドロ!慌てなくても大丈夫よ!」
俺とエリスは顔を見合わせて笑ってからスピドロを追いかけた。
「参加申し込みをしたデフトル・ハモンです」
俺は受付の女性に申し込みをした時に受け取った参加証を見せた。
「デフトル・ハモン様ですね。……確かに。どうぞお通りください」
受付の女性は俺の参加証が本物か確かめた後、控室へとつながる通路へ案内してくれた。
「それでは私たちはここまでですね。デフトルなら大丈夫だと思いますが、頑張ってください」
「俺もしっかりと応援いたしますので、デフトル様頑張ってください!」
「ありがとう、2人とも。俺、頑張るよ」
1度目の人生の時は応援してくれる人など1人もいなかった。
それに比べて2度目の人生では2人も心から応援してくれる人がいる。
それだけでこれ以上なく力が湧いてくるような気がした。
「それじゃ、行ってくるよ」
俺が控室への通路へ向かおうとすると背後から、「ああここだここだ!受け付けはここだぞ!プルト!モガレス!」と遠い昔に嫌というほど聞いた声が聞こえてきた。
振り向くと性格の悪そうな顔をした背の低い戦士と戦士になった方が良いのではないかと思うくらい巨体の魔法使いと俺がこの世界で魔王並みに憎んだ奴が立っていた。
「そんなに急かさないでくださいよ!キミル!試合の参加受付終了までは、まだ1時間もあるって言うのに!」
「あと1時間しかないんだよ!こののろま!」
「まあまあ2人とも。参加申し込みには間に合ったんだから喧嘩しないでくれよ」
「それは結果論だろ!今回は当日も参加申し込みできたから良かったものの、今まで通りだったら御前試合の参加申し込みは6日前には締め切られているんだぞ!」
「でも実際は締め切られてなかっただろう?それに何もしないで6日も遅れたわけじゃない。魔物に襲われていた村を2つも救うことができたよ」
「そうですよ、キミル。あの村の人たちが魔物に殺されても良かったって言うのですか?」
「分かった分かった。それを言われたら反論できねぇよ。俺が悪かったから、さっさと受付を済ませてくれよ」
「そうだね。受付を済ませてしまおうか。……ん?」
プルトの視線とプルトたちのことを見ていた俺の視線が重なった。
俺はすぐに視線をそらしたが、ごまかしきれなかったみたいで、「そこのキミ!俺のことを見ていたようだが、何か用かな?」とプルトが質問してきた。
それを無視して控室へ向かおうかとも俺は考えたが、それはかなり不審がられるかもしれないと考え直し、「いや、すまない。キミの顔をどこかで見たことがある気がしたのだが気のせいだったみたいだ。気に障ったのなら申し訳ない」と返答した。
「そうだったのか。てっきり俺に何か用があるように感じたんだけど、気のせいだったんだな。こちらこそ申し訳ない」
そう言い終えるとプルトは御前試合に参加申し込みをするために受付の女性と話し始めた。
俺はこれ以上プルトに気にかけられないように一刻も早く控室へ行こうとしたが、パッと右手首を誰かにつかまれてしまった。
俺が手首をつかんだ相手の顔を見ると、その相手は心配そうな顔をしたエリスだった。
「大丈夫ですか?デフトル?かなり動揺しているみたいですが。今話しかけてきた人と本当は何かあったのですか?」
「大丈夫ですよ、エリス。今の人は本当にどこかで会ったような気がしただけですよ。本当に何でもありませんよ」
「そうなのですか?」
「はい」
「それなら良いのですが……頑張ってくださいね……」
エリスは他にも何か言いたげだったが、それ以上は何も言ってこなかった。
もしかしたらプルトの強さを何となく感じ取っていたのかもしれないと思った俺は、「全力を尽くしますので安心してください。勇者になるのは絶対に俺です!」と啖呵を切った。
「フフフッ。そうですよね。私もそう思います」
エリスの顔がさっきまでの俺を心配している顔から笑顔に変わったので俺は安心して控室へ向かった。




