第28話 第6章 貴族学院入学!②
周りの生徒だけでなく監視している教師たちも俺とスケーロの試合を見ていた。
「デフトルくんには悪いけど、手加減しすぎても実習にならないから、ある程度本気は出させてもらうよ」
貴族学院では親の爵位で学生の間に序列ができるのを防ぐために学院内では生徒は全員平等という理念に基づき、教師が生徒を呼ぶ時も生徒が生徒を呼ぶ時も「くん」をつけて呼ぶように徹底されていた。
「ああ、構わないよ。そうじゃないと実習にならないしね」
そう答えて俺はわざと木剣を下げて構えた。
「それじゃ遠慮なく」
スケーロは俺の誘いにまんまと引っかかって木剣を上段に構えて突っ込んできた。
そして俺の頭を目掛けて木剣を振り下ろしてきたが、俺は木剣が振り下ろされる前にスケーロの胴に重い一撃を食らわせてやった。
「うっ……」
スケーロは俺の一撃を食らうとそのままうずくまった。
「そこまで!」
俺とスケーロの試合を監視していた教師が試合を止めた。
「スケーロくん、大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶです!まだやれます!試合を続けさせてください!」
スケーロは立つのもやっとと言った感じだが、なんとか立ち上がり木剣を構え直した。
「スケーロくん、何を言っているんだ?そんな状態で続けさせるわけないだろう。さあ早く医務室へ行こう」
「嫌です!俺はまだ負けてない!デフトルくん、続きをやろう!」
「とスケーロくんは言っていますが、先生どうしたらいいですか?」
「仕方ないな。スケーロくん、ちょっと待っていてくれ。デフトルくんちょっといいかな?」
先生が俺を呼ぶので近寄るとスケーロに聞こえないくらいの小声で、「たぶん、デフトルくんの方がスケーロくんより強いだろうし、デフトルくんはだいぶ手加減しているのだろう?だからこれはお願いなのだけれど、スケーロくんをあまり傷つけずに試合を終わらせてくれないか?」とお願いされてしまった。
たぶん先生の言う「傷つけない」というのは「体」をということなのだろうが、スケーロを納得させるには「心」も傷つけないようにしなくてはいけないと俺は考えていた。
「分かりました。なんとかしてみます」
俺がそう答えると先生は安心した表情を見せて、「そうか。難しいかもしれないがよろしく頼むよ」と小声で言うと、スケーロの方を向いて、「待たせたね。スケーロくん。それでは始めようか。ただし、もう一回だけだよ」とスケーロに言った。
「そう来なくっちゃ!さあ早く試合を始めましょう!」
スケーロはさっきまで立つのがやっとだったが、試合を続けられることの喜びで回復したのか、さっきまでよりはしっかり立っているように見えた。
俺がスケーロの向かいの位置に戻ると試合が再開された。
さっきのことがあったのでスケーロは猪突猛進に突っ込むのはやめて、まずは様子をうかがっているみたいだった。
だが、やっぱりさっきの俺の一撃があるから少し息遣いが荒かったし、少しふらついていた。
俺がその隙を見逃すわけがなく、一気に間合いを詰めてスケーロの木剣を叩き落とした。
「そこまで!勝者デフトルくん!」
「ありがとうございました」
俺がそう言って頭を下げたが、スケーロは納得していないみたいだ。
「先生もう一回、もう一回お願いします!」
「いや、スケーロくん、それはダメだよ。これでおしまいという約束だっただろう?それに今の試合を見ていて感じたけど、やっぱり前の試合でキミはケガをしているんじゃないのかな?今すぐ医務室に行ったほうがいい」
「ケガなんてしていません!もう一回、もう一回だけで良いのでお願いします!」
「何度やっても結果は同じだよ」
俺はスケーロに聞こえるくらいの大きさで努めて冷静に事実を伝えた。
「何⁈もういっぺん言ってみろ⁈」
「聞こえていないのなら何度でも言うけど、今の君じゃ何度やっても結果は同じだよと言ったんだ」
「それは今の俺じゃ実力不足だって言いたいのか⁈」
「勘違いしないでくれ。『今のキミでは』と言うのは『今の状態のキミでは』という意味だよ」
「今の状態の俺?」
俺のあおりとも取れる発言で激しく怒っていたスケーロが今の俺の説明で少し落ち着きを取り戻しつつあった。
「ああそうだよ。2度目の試合では1度目の試合の負傷のせいでスケーロくんは本気を出せていなかった。その状態じゃ俺には勝てない。でも1度目の試合は本当に紙一重の試合だった。俺が勝てたのは運が良かっただけだ。俺もスケーロくんと試合をしたいが、今のスケーロくんとはしたくない。スケーロくんが本気を出せる時に試合をしたい。だから今は医務室に行って治療を受けてほしい」
「……」
スケーロは少しの間黙っていたが、次に口を開くと、「分かったよ。デフトルくん。今は医務室に行くことにするよ。だけど今度やる時は絶対に俺が勝つからな」と言い置いて、先生に連れられて医務室へ向かった。
「(スケーロが単純な奴で助かったな)」と俺は少しホッとしていたが、1度目の人生では1度しか勝てなかった相手に楽に―しかも魔法を使わずに―勝ててしまったことに、かなり物足りなさを感じていた。
初めての戦闘実習が終わった後、1度目の人生の時と同じく生徒の間でスケーロには粗野で乱暴者というイメージが付いた。
一方俺はと言うと、正義感が強く実力もあるというイメージが付いたらしい。
1度目の人生の時とは違って実力があるというイメージが付いてくれたのは嬉しかった。
1度目の人生の時と違うことはもう1つあり、スケーロに目をつけられてしまったことだ。
戦闘実習の度にスケーロから試合を申し込まれた。
自分で言うのもなんだが、俺とスケーロでは実力の差があり過ぎて勝負にならなかった。
しかし、あまりにも実力の差を見せつけるとスケーロにもっと絡まれることは目に見えていたので、実力の差がないように振る舞って試合に勝つようにしていたが、それが結構大変だった。
強いと思っていたスケーロも相手にならないので、俺は戦闘実習の度に憂鬱な思いになっていた。
「(こうなるとあとはスケーロが魔法を使えるようになるまで待つしかないな)」
あまり期待できないが、それしかできることはなかった。
貴族学院に入学して半年が過ぎた頃、大体の生徒が魔法実習で練習して自分の魔法が使えるようになってきて戦闘実習でも使うようになってくる頃だ。
スケーロも例に漏れず戦闘実習で魔法を使い始めた。
スケーロの魔法は「体を鉄のように硬くする」魔法だ。
魔法なので理由は分からないが体を鉄のように硬くしても関節は普通に曲げたりできるので動き回ることができる。
スケーロは単純なので、そんな魔法が使えるようになると戦闘実習での戦い方は1度目の人生の時と同じく相手に突っ込んでいって突き飛ばして勝つというものになってしまった。
これで俺以外の相手に無双していたが俺には通じなかった。
俺との試合が始まるとスケーロは俺に向かって一直線に突っ込んできた。
それを俺は横によけ、右足でスケーロの足を引っかけて転ばせた。
さすがに1度転ばせたくらいでは勝負はつかず、すぐにスケーロは立ち上がり、また俺の方へと突っ込んできた。
俺はそれをまた横によけ、右足を出してまたスケーロの足を引っかけて転ばせた。
それでもスケーロはまた立ち上がり、それをまた俺が転ばせた。
そんなことを7,8回繰り返したところで、スケーロは立ち上がらなくなり俺の勝ちで試合は終わった。
この勝ち方は1度目の人生で唯一スケーロに勝つことができた戦い方だった。
それまでは突っ込んでくるスケーロを正面から受けて勝とうとしていたが、それでは勝つことができなかったため、なんとか勝てないか必死に考えた苦肉の策だった。
体を硬くすることはできるが痛みを感じる神経がなくなるわけではないので、転ばされて床に倒れればスケーロも少しは痛みを感じるから、それを何度も続けて勝つことができた。
しばらくするとスケーロが床に倒れたまま右手で床を何度も叩きだした。
「クソッ!クソッ!クソッ!何でデフトルくんには勝てないんだ⁈」
「このままだったら一生俺には勝てないよ」
俺の発言を聞いたスケーロだけでなく周りの生徒も俺の方を向いた。
「デフトルくん、どういう意味だ⁈俺がキミに一生勝てないというのは⁈」
「言葉通りの意味だよ。スケーロくんがこのままの戦い方を続けるのなら一生俺には勝てないよ」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ⁈俺の『体を鉄のように硬くする』魔法では、こんな戦い方しかできないだろ⁈」
スケーロは目を血走らせて俺の意見に反論してきた。
「いや、今の戦い方はスケーロくんの戦い方の最適解じゃないね。スケーロくんはただ突っ込むだけじゃなくて、もっと剣の扱い方を覚えた方が良い。体を鉄のように硬くできるということは盾を持たなくても良いということだろう?それなら両手持ちの剣を使うことや二刀流などを視野に入れた方が良い。どちらにせよ、防御は魔法に任せて攻撃の手段を増やした方が良いと思うよ」
俺の助言をスケーロは黙って聞いていた。
そしてスケーロは床から立ち上がると、「分かった。まずは言われた通り剣の扱い方を覚えることにする」と言って戦闘実習の担当教師に剣の扱い方を教わり始めた。
「(俺の話をスケーロが真面目に聞くとは思わなかったな。だけどこれでスケーロが真面目に剣の扱い方を覚えたら、この後の戦闘実習は退屈しなくて済みそうだな)」
この時の俺はスケーロが少しでも強くなって戦闘実習を退屈させないでほしいという希望からスケーロに助言したが、スケーロは戦闘実習の教師や戦闘実習の成績が良い生徒からも助言をもらって、めきめきと強くなっていった。




