第25話 第5章 団長に勝て!②
俺が副団長に勝って1週間後、念願の団長との模擬試合をすることができた。
結果はぼろ負けだった。
団長が使える魔法は「物の重さを自由に変える魔法」だ。
物の重さを自由に変えられるため、俺が普通の木剣なのに対して団長は太くて長い丸太を武器として使用していた。
振り回すときは丸太の重さを軽くして、俺の木剣に当たる時だけ重くすることによって、俺と同じ木剣で攻撃しているんじゃないかというくらい攻撃の手数が多かった。
速くて重い攻撃を受け流すことは簡単ではなく俺の木剣はすぐに払い飛ばされてしまった。
模擬試合では武器が手から離れても負けという決まりなので、俺は何もできずに負けてしまった。
だが、これくらいは織り込み済みだった。
団長との模擬試合の1回目で勝てるとは思っていなかった。
俺の目的は現在の団長と俺の力量の差を知ることだった。
1度目の人生の時に団長に模擬試合で勝てたのは勇者を選抜する御前試合が開催される1週間前だった。
1度目の人生では13歳の時から鍛え始めて18歳の時にやっと1度だけ勝てた。
それだけ勝つまでに時間がかかったし、18歳という肉体的若さと肉体的強さも兼ね備えたちょうど良い年齢だったから勝てたというのもあっただろう。
だが、2度目の人生では5歳の時から自己流とはいえ体力や筋力をつける特訓をしてきた。
さらに1度目の人生の時は貴族学院に入学して自分の魔力供給源を知ってから始めた魔法の特訓も、2度目の人生では5歳の時から始めている。
何が言いたいのかというと、それだけ準備してきたのだから、あと4ヶ月もあれば勝てるのではないかと俺は考えていた。
1度目の人生では力でねじ伏せようとしてくる団長に力で対抗したが、今回は副団長の時と同じく移動の素早さで勝負を仕掛ければ勝てるはずだと信じていた。
だが現実はそんなに甘くはなかった。
それから3か月間、延べ9回団長と模擬試合をしたが1回も勝てなかった。
団長は動きの素早い相手との戦いにも慣れているらしく、俺が正面から戦おうとせずに素早い動きで翻弄しようとすると、団長は全く慌てるそぶりも見せずに丸太を両手で持ってグルグルと回転を始めた。
最初は何をしているか分からなかったが、すぐにこの行動が攻防一体の技として完成されていることを身をもって知った。
丸太を持ってグルグルと回転することによって簡単には近づけないし、恐れずに近づいてもすぐに丸太に当たってしまい弾き飛ばされてしまう。
それならば団長が目を回して回転するのをやめた時を狙えばいいだろうと考えたが、1分や2分くらいでは目を回したりしないくらいには回転することになれているみたいだ。
そうだとしても10分くらい待てばいくら何でも目を回すだろうと考えたが、団長も馬鹿じゃないのでただずっと回っているだけではなく回転しながら俺の方へ近づいてきた。
いくら広い訓練場で試合をしているとはいえ、長さが2メートル以上ある丸太をぶん回しながら近づいて来られたら段々と追い込まれて逃げ場がなくなり負けを認めるしかなかった。
団長に勝つ方法が分からないまま年が明けてしまった。
そして1度目の人生の時と同じく、第12回目の勇者選抜御前試合が2月に開催されることが公示された。
あと1ヶ月以内に団長に勝たないと御前試合に参加できない。
俺はかなり焦ったが、10回団長と模擬試合をした経験から、もしかしたら勝てるかもしれない勝ち筋を見出していた。
1ヶ月しか猶予がなかったので、すぐにでも団長と模擬試合をしたかったのだが、団長は何かと理由をつけて俺と模擬試合をしてくれなかった。
おそらく、あと1ヶ月俺との模擬試合を避け続ければ、否が応でも今回の勇者選抜御前試合に俺が参加できなくなるから、俺との模擬試合を避けているのだろうと俺は予想した。
勝ち筋を見出しているのにそれを試せないのはかなり腹が立ったが、団長が俺との模擬試合を避けているということは、もしかしたら団長は今度模擬試合をしたら俺に負けるかもしれないと感じているのではないかとも俺は考えた。
そう考えると少し気分は良かったが、このまま模擬試合を避け続けられて勇者選抜御前試合に参加できなくなるのは困る。
俺は団長に食い下がって模擬試合をしてもらえるよう嘆願し続けた。
それでも団長は2週間以上俺との模擬試合をしてくれなかったが、さすがに模擬試合を避ける理由がなくなったのか、勇者選抜御前試合の9日前になってやっと俺との模擬試合を受けてくれた。
あと3日後には王都に向かって勇者選抜御前試合に参加申し込みをしなくてはいけないので、今回の模擬試合が団長と模擬試合をできる最後の機会だった。
俺はこの日のために団長に勝つための特訓を欠かさなかったので自信とやる気は満ち溢れていた。
俺と団長が模擬試合をするという情報はすぐにハモン公爵領の騎士団員に知れ渡り見物人が大勢いた。
俺が団長を倒して勇者を目指すということは団員の方々も周知の事実で、そのために努力を惜しまなかった俺の姿を見ていた団員の方々のほとんどが俺を応援してくれていた。
模擬試合が始まると、すぐに俺は脚力を強化して素早く動き回り始めた。
すると団長は予想通り丸太を両手で持って回転し始めた。
今までだったら俺は団長から逃げ回っているだけだったが、今回はスピードを落とさずに回転する団長に向かって行った。
そしてある程度団長に近づいたら俺はスライディングした。
俺の作戦は団長が持っている丸太と地面の間に滑り込んで団長にぶつかることで団長の回転を止めようというものだ。
しかし、急に団長が持っている丸太の先端が地面に接する形で団長が回転し始めたので、団長にぶつかる前に俺は弾き飛ばされてしまった。
吹っ飛ばされた俺はすぐに体勢を整えようとしたが、団長はすでに回転をやめて俺の方へ向かってきていた。
俺が立ち上がって木剣を構える前に団長が俺の目の前に丸太の先端を向けてきて降参するように宣告してきた。
俺はこの状況を打開する手段を考えたが全く思いつかなかった。
猶予を与えるつもりのない団長は黙っている俺に向かって丸太を振り上げた。
仕方なく俺は降参するしかなかった。
団長との模擬試合が終わった後、試合を見ていた団員の方々からは、「残念でしたね。でも惜しいところまでいっていましたよ」とか「デフトル様ならもう少し鍛えれば団長に勝てますよ」とかたくさんの慰めの言葉をもらったが、俺の心はちっとも晴れやしなかった。
これで9日後の勇者選抜御前試合には参加できないことが決定したからだ。
俺は団長に向かって礼をしてから訓練場を飛び出して屋敷の自分の部屋に閉じこもった。
1度目の人生と同じなら9日後の勇者選抜御前試合を逃せば、次に行われるのは6年後だ。
アナムス兄さんが魔王軍との戦いで命を落とすのが今から約1年後。
団長に勝って、9日後の勇者選抜御前試合で勇者に選ばれ、魔族を倒しまくってアナムス兄さんが命を落とさなくて済む確率を上げようと考えていたが、もうそれもかなわない。
俺は希望を見失い絶望しそうになっていた。
そんな時に部屋の扉をノックする音が聞こえた。
今は誰とも会いたくなかったので無視しようかと考えていたところ、また扉をノックする音が聞こえた後、「デフトル様、いらっしゃいますか?」とスピドロが尋ねる声が聞こえた。
「スピドロ、何の用だ?今は誰とも会いたくないのだが」
「そうですか。では、扉越しで良いので話を聞いてくれませんか?」
「……」
「デフトル様、諦めないでください。デフトル様はまだ11歳なんですから1度の失敗で何もかもが終わったかのように感じないでください。もう無いことに越したことはないですが、勇者選抜御前試合が次に行われたらきっとデフトル様が選ばれますよ!アナムス様も頑張れとおっしゃってくれたのでしょう?だったら頑張らないといけませんよ!」
そうだった!アナムス兄さんが「頑張れ」とおっしゃってくれたんだった!
俺は何を落ち込んでいたのだろう?
今扉の前にスピドロがいることやアナムス兄さんが俺に「勇者を目指して頑張れ」とおっしゃってくれたことは、俺が2度目の人生で1度目の人生とは違う行動をとって運命を変えてきたからなのだ。
つまり、運命は変えられる。
アナムス兄さんが命を落とす運命も2度目の人生では変わるかもしれない!
いや、アナムス兄さんだって努力しているのだ。きっと変わる!
俺はそれを信じて第13回目の勇者選抜御前試合に向けて準備していれば良いのだ!
そうと決まれば今からやるべきことは一つだ。
「スピドロ!話したいことがある。部屋の中に入ってくれ」
「宜しいんですか?」
「ああ。構わないから早く入ってくれ」
「失礼いたします」
スピドロが扉を開けて部屋に入ってくると俺はすぐに、「スピドロ、お前も今日の俺と団長の模擬試合を見ていたのだろう?それで質問なのだが、俺はどうすれば団長に勝てると思う?」と質問をぶつけた。
「デフトル様がどうすれば団長に勝てるかですか?」
「ああ、遠慮せずに意見を聞かせてくれ」
「では遠慮なく。デフトル様が団長に勝つためには真っ向勝負を仕掛けるしかないと思います」
「それはどうしてだ?」
「まずこのまま素早い動きで団長を翻弄しようとする作戦はうまく行かないと思うからです。なぜなら団長は素早い相手や大人数を相手にするときは回転して敵を近づけさせないようにしますし、今日デフトル様がやったみたいに隙間に潜り込もうとすると丸太の先端を地面に擦る形で回転して隙間に潜り込ませないようにするので、隙があまりにも少ないからです。後は遠距離から攻撃するか飛び上がって団長を上から攻撃するかのどちらかくらいしか思いつきませんが、団長はどちらもきっと対策しているでしょうね。だけど真っ向勝負を仕掛ければ、団長が重さを自由に変えられるとはいえ、2メートル以上ある丸太を振り回すとなると攻撃パターンは単調になると考えます。あとは攻撃パターンを覚えて攻撃をかわすかいなすかして団長に近づいてデフトル様の最大の攻撃を当てれば勝てると思います」
「そ、そうか」
普段はあまり賢くないと思っていたスピドロだが、戦いのことになると俺よりも賢いというか聡いというか。
さすがは1度目の人生の時はハモン公爵領の騎士団長にまで上り詰めただけはある。
「よし。それならば俺は素早さよりも攻撃を重視した方が良いという訳だろう?」
「はい。そして団長と何度も模擬試合をして団長の攻撃バターンを覚える必要もありますね」
「分かった。スピドロを信じて頑張るよ。さっさと団長を倒して次の勇者選抜御前試合には間に合わせないとな」
「その意気です!デフトル様!」
落ち込んでいる暇なんてない!
アナムス兄さんのためにも俺は強くならなければいけないんだ!
俺は決意を新たにして勇者に選ばれるために努力をやめないことにした。




