第24話 第5章 団長に勝て!
違法に魔石を採掘していた坑道やため込まれた魔石を見つけてシトロギー伯爵領から帰って来た日、俺は父上に、「俺は魔王を倒す勇者になります!」と宣言した。
予想通り、父上は猛反対した。
だが俺も父上からどれだけ反対されても頑として意見を曲げなかった。
「お前がいくら鍛えても魔王を倒せるほど強くならないから諦めろ!」と父上に言われた時、俺は「(それを待っていました!)」と心の中で喜びながら、「そんなの分からない!今から2,3年あればハモン公爵領の騎士団員の人より遥かに強くなれます!」と反論した。
「だったら強くなってからその話をしろ!それまではそんな馬鹿なことを言うな!」
「では、せめて俺が騎士団員の方と訓練することを認めてください!認めてくだされば、今回は引き下がります!」
「良いだろう。ただし、騎士団長のアーチゴよりも強くならなければ二度とこの話をするな!」
「分かりました。絶対にアーチゴさんよりも強くなってみせます!」
俺は心の中でガッツポーズをとった。
今回の話し合いでの俺の目的は最初から「勇者を目指すこと」の許可ではなくて、「騎士団の訓練に参加する事」の許可だったのだ。
まずは本格的な戦闘訓練に参加することを許可してもらえれば、すぐには無理でも2年後の勇者を選抜するときまでにはアーチゴさんよりも強くなれると俺は考えた。
アーチゴさんよりも強くなれば、父上も俺が勇者を目指すことを反対できないだろう。
父上が騎士団の訓練に参加することを認めてくれるのは分かっていた。
なぜなら1度目の人生でも同じ交渉をやってうまく行っていたからだ。
しかも今回は、その時よりも幼いので騎士団の訓練に参加してもアーチゴさんよりも強くなれるとは父上も思わなかったのか、すぐに認めてくれた。
だが、言質を取ってしまえばこちらのものだ。
これで堂々と勇者になるための戦闘訓練ができる。
1度目の人生の時よりも早く準備できたし環境も良い。
これで勇者になれなかったら、やはり努力ではどうにもできない神様が決めた運命の力というものがあるのだろう。
だが、プルトに神様の加護があるように俺にも少ないけど神様の加護と期待がある。
俺は絶対に勇者になってみせる!
そう自分を奮い立たせた。
父上の許可があった次の日から俺は騎士団の訓練に参加した。
最初は騎士団員からは貴族の公子が勇者に憧れて遊びで参加しているのだろうと思われていたが、俺が訓練に必死で付いて行こうとしている姿を見たからか、3ヶ月もすると騎士団員の半数が俺のことを認めてくれた。
残りの半数はなかなか認めてくれなかったが、1年間しっかりと訓練に参加して体と魔法を鍛えた俺に模擬試合でぼこぼこにされてからは認めざるを得なくなったみたいだ。
1年間騎士団の訓練に参加して俺は確実に強くなった。
ハモン公爵領の騎士団員の中で俺が勝てないのは団長と副団長くらいになった。
ハモン公爵領の騎士団員の名誉のために言っておくが、騎士団員が全然強くないという訳ではない。
ただ騎士団員全員が魔法を使えるわけではないので魔法の使用が許可されている模擬試合では俺の方が有利な相手が多かっただけだ。
しかし、副団長と団長には1回も勝てなかった。
正しくは副団長とは2回ほど模擬試合をしてもらったが2回とも負けた。
団長には「副団長に勝てないような人とは模擬試合はしない」と言われて1回も模擬試合をしてもらえてない。
だが、俺以外の騎士団員は副団長に勝てていないのに団長と模擬試合をしている人がいるので、これはおそらく父上から命令されているのだろうと俺は考えていた。
団長と模擬試合ができないからといって、いじけたままでいる俺ではない。
副団長に勝てば団長は試合をしてくれるのだから、まずは副団長に勝つことを目標とすることにした。
しかし、副団長ともなかなか試合ができない間に騎士団の訓練に参加して1年が経ってしまった。
そして俺が11歳になる年、1度目の人生では貴族学院を卒業するアナムス兄さんが王国騎士団に入団することを父上に報告する年になってしまった。
俺はその日が来ないことを毎日祈っていたが、貴族学院が夏季休暇に入りアナムス兄さんが帰って来た日―1度目の人生と同じ日―の夜、父上の怒号が屋敷中に響き渡ったのを聞いて、その日が来てしまったことを知った。
母上とルフォス兄さんと俺が父上の書斎まで向かうと、ちょうどアナムス兄さんが父上の書斎から出てきた。
アナムス兄さんは何かを決意した瞳で俺たちを見ると、「母上、先程父上に王国騎士団に入団することを伝えました。父上からは『王国騎士団に入団するなら勘当する!今すぐ屋敷から出ていけ!』と言われたので、すぐにこの屋敷を出て行きます。母上、今まで大変お世話になりました。これからもどうかお健やかに」と言って一礼した。
「ルフォス、お前には迷惑をかけるがハモン家のことは頼んだぞ。そしてデフトル……」
「(『母上とルフォスのことを支えてあげてくれ』って1度目の人生の時は言われたな)」と俺は思い出していた。
「お前、勇者を目指しているんだって?全然知らなかったが頑張れよ。応援しているぞ」
1度目の人生の時とは違う言葉をかけられたことに俺は一瞬驚いたがすぐに、「はい!絶対に勇者になってみせます!」と答えた。
俺の返答にアナムス兄さんは微笑んでくれた。
「それでは母上、失礼いたします」
そう言い置くとアナムス兄さんは俺たちのことを一切見ずに屋敷を出て行った。
母上は一晩中泣いていらっしゃった。
俺とルフォス兄さんはそんな母上を一晩中慰めていた。
母上を慰めながら、俺はアナムス兄さんの期待に応えるためにも必ず勇者になろうと決意を新たにしていた。
貴族の公子が通う貴族学院はかなりの学費がかかる。
「(父上から勘当されたアナムス兄さんはどうやって今後の学費を払うのだろう?)」と1度目の人生の11歳の俺は不思議に思っていたが、貴族学院に通ったことがある今の俺ならその答えが何となくだが分かる。
貴族学院にも特待生制度がある。成績優秀者は学費が免除される。
おそらくアナムス兄さんは特待生だったのだろう。
だから学費の心配をせずに卒業まで8ヶ月以上ある夏期休暇に王国騎士団に入団することを父上に報告したのだろう。
俺は2度目の人生では1度目の人生の時とは違う行動をとり過去の結果を変えてきた。
だが1度目の人生の時と変わらずにアナムス兄さんは王国騎士団に入団する。
俺は自分が勇者に選ばれた後のことを考えてスピドロやエリスの過去を変えたが、アナムス兄さんの考えを変えるためには行動してなかったので仕方ないことではあった。
本来ならば知っているはずのないことを、「やめたらどうですか?」とアナムス兄さんに提案することは俺にはできなかった。
それにアナムス兄さんは俺たちが安心して暮らせることを考えて王国騎士団に入団することを選んだ決意を無下にしたくもなかった。
俺がアナムス兄さんの人生を変えるのだったら、勇者に選ばれて俺自身の手で魔王を倒すことで変えたいと考えていた。
それにはまず、来年の2月に行われるだろう勇者を選抜する御前試合に参加しなくてはならない。
そして御前試合に参加するなら団長に勝たなくてはいけない。
だから当面の目標は副団長に模擬試合で勝つことだ。
だがそれは割とすぐに達成できた。
アナムス兄さんが屋敷を出て行って3ヶ月後、俺は副団長に模擬試合で勝った。
副団長は「見えない手を作りだす魔法」が使える。
手と言ってもその大きさはある程度自由に変えることができ、遠くに飛ばすこともできるみたいで、巨大な手で相手を掴んで動きを封じたり、見えないパンチで遠距離から攻撃したりしてきた。
すごく使い勝手が良い魔法だが弱点もある。
それは副団長の魔力供給源だ。
副団長の魔力供給源は「神への祈り」だった。
つまり魔法を使いたいときは常に両手を合わせて神へ祈っている姿勢をしなくてはいけなかった。
だから遠距離からの見えない手による攻撃をかわして近距離の戦いに持ち込めれば勝つのは難しくなかった。
1度目の人生の時はもともとの筋力と魔法によって強化した力で見えない手の攻撃を跳ね返しながら近づいて行き副団長に勝ったのだが、今の俺はその時よりも幼いので攻撃を跳ね返すだけの力はなかった。
だから俺は身体強化の魔法を足に集中させて移動するスピードを上げて副団長の攻撃をかわして近づき副団長に勝った。
俺が副団長に勝ったため、もう団長は俺との模擬試合を断れなくなった。




