第20話 第3章 作戦実行!④(戦闘開始!)
30分ほどアナカトたちを尾行すると、アナカトはある場所で動きを止めた。
そこは木々が生い茂ってはいたが、傾斜があまりない場所だった。
アナカトが何かをブツブツと言うと木だと思っていた物が急に人に変わった。
アナカトは急に現れた人と何か話しているが、俺たちがいる場所からは聞き取れなかった。
俺が何とかして奴らの会話を聞けないものかと考えていると、「『急にやってきてどうしたんだ?』って言っていますね」とエリスが教えてくれた。
エリスが持っている魔石のおかげで奴らの会話を聞くことができた。
「ちょうど良かった。エリス、奴らの会話の内容を教えてもらえますか?」
「はい。『例の公爵様の息子と護衛が急にどっかに行っちまったんだよ!だから、一応警戒しとけって伝えに来たんだよ!フォビノとイポタは中にいるのか?あいつらとも話したいからカムフラージュの魔法を解いてくれないか?』って言っています」
エリスがそう言った後、さっきまで木々が生い茂っていた場所から小屋が急に現れた。
おそらくカムフラージュの魔法を解いたのだろう。
アナカトとアナカトについてきた奴は現れた小屋の中に入っていった。
「エリス、奴らの会話は聞こえますか?」
「少し待ってください。……あ!聞こえます。聞こえます。『公爵様の息子と護衛がどっかに行っちまったから、ここに来ることはないと思うけど、一応警戒はしておいてくれ!』、『わかった。しかし、それを言いに来るためだけにここに来たのか?』、『ああ、そうだ』、『プラナス伯爵はケチだよな。こんなに魔石があるんだから、離れていても会話することができる魔法が使える魔石があったら、こういう時に使用しても良いと思うんだけどな』、『確かにそうだな。だが、プラナス伯爵はこういう事態が起こって、俺たちのやっていることがバレることよりも、俺たちが魔石を使用して壊れることを恐れているんだろうな』、『やっぱり、あれなのか?この件にはプラナス伯爵よりも上の貴族がかかわっているって言うのは本当なのかな?』、『余計なことは考えない方がいいぞ。この件にかかわった俺たちは、この件がうまく行ったとしても余計なことを知っていたら、プラナス伯爵たちに命を狙われるかもしれないんだから』って言っています。」
プラナス伯爵、シトロギー伯爵の隣の領地を預かっている貴族だ。
会話の内容から小屋の中にいる奴らはプラナス伯爵とはつながっているみたいだ。
だが、この件の裏にアプリト大臣がいることは知らないみたいだ。
小屋の中にいる奴らがアプリト大臣までつながっているとは考えていなかったので予想通りだった。
魔石を採掘している坑道と魔石をためている小屋の場所も分かったし、そろそろ関所まで戻ろうとエリスとスピドロに伝えようとしたら、スピドロが真剣な表情で俺より先に口を開き、「エリス様、小屋の中で会話している人の人数は分かりますか?」とエリスに尋ねていた。
「え~と、おそらく4人です。それがどうかしましたか?」
「4人ですか。ということは全部で5人か。何とかなるか。」
「おい、どうしたんだよ?スピドロ?」
俺はスピドロが何を考えているのか分からず、そう尋ねた。
「デフトル様、アナカトたちが小屋から出てきたところを狙って、奴らを捕まえましょう!」
「スピドロ、何言っているんだよ!もう坑道も魔石のある小屋の場所も分かったのだから、あとはシトロギー伯爵に任せれば良いんだよ!無理して俺たちが奴らを捕まえる必要はないんだよ」
「ですが、奴らは坑道も魔石のある小屋もカムフラージュの魔法をかけて隠しています。今回俺たちが坑道も魔石のある小屋も見つけられたのはアナカトを追跡することができたからですが、このあたりの地理に明るくない俺たちが今度来た時にシトロギー伯爵に魔法でカムフラージュされた坑道や魔石のある小屋の場所を正確に教えることができますか?俺はできません!だから、ここで奴らを捕まえる方がいいと俺は考えます!」
確かにスピドロが言う通り、坑道や魔石のある小屋にカムフラージュの魔法をかけているのは少し想定外だった。
それにカムフラージュの魔法をどうにかできても、俺がシトロギー伯爵に坑道や魔石のある小屋がある場所まで案内することができるのかというのも少し不安がある。
ただこの辺りにアナカトたちが勝手に坑道を掘って魔石を採掘していますとシトロギー伯爵に伝えれば、どうにかなると思っていたが、もしアナカトたちが口を割らなかったら―おそらくその可能性の方が高い―俺の目論見は外れてしまう。
まさか、そのことをスピドロに指摘されるとは思っていなかった。
だが、スピドロの提案を聞いても俺はまだ決めきれずにいた。
大人5人を相手にして俺とスピドロだけで勝てる自信がなかったからだ。
その時、エリスの、「デフトル、大変です!」と声が聞こえた。
「どうしたのですか?」
「アナカトさんがデフトルたちが帰ったら、魔石を別の小屋に移そうという話をしています!」
「何だって⁈」
それはまずい!ため込んだ魔石を移動されたら、アナカトたちが魔石を違法に採掘していた証拠を押さえることができなくなってしまう!そうなると大きな罪でアナカトたちを裁けなくなってしまい、裏にいるプラナス伯爵やアプリト大臣まで捜査の手が伸びないかもしれない!
「あ!外に出てくるみたいです!」
アナカトと他3人が笑いながら小屋から出てくる。
どう考えても、ここであの5人を捕まえる方がいいのに、俺は決断できずにいた。
俺とスピドロであの5人に勝てるか?アナカトは関所の番人を任されるくらいだから、それなりに強いだろう。それにあの魔石のある小屋の見張りもガタイが良くて、いかにも強そうだ。あああ、どうすれば良いんだ?
俺があの5人と戦うという選択をしなくていいように考えを巡らせているのを感じ取ったのか、スピドロが、「分かりました。デフトル様、魔石を貸していただけませんか?」と言ってきた。
「どうするつもりだ?」
俺は答えが何となく分かっていたのに、魔石を持った左手をスピドロの方に差し出していた。
スピドロは俺から魔石を受け取ると、「ここで見ていてください!俺が5人とも捕まえてみせますよ!」と言い置いて5人に向かって行った。(と言っても、魔石の魔法でその姿は俺には見えなかった。)
数十秒後、5人の内の1人が、「うわっ!」と言って倒れた。
他の4人は倒れたのは何かにつまずいたのだろうと考えているのか、特に気にしている様子はなかったが、倒れた奴が立ち上がろうとした時に、「グワーッ!」と叫び声をあげて苦しそうにしているのを見て慌て始めた。
倒れた奴が「足がー!」と叫んで右足を押さえているのが見えたので、おそらくスピドロが倒して右足を折るくらいのことをしたのだろうと俺は推察した。
急に仲間の一人の足が折れたのを見て、残りの四人は動揺していた。
すると間髪を入れずにスピドロが鍬の刃のない方で殴り倒したのか、残りの4人の内の1人も「グワッ!」と言って倒れた。
残り3人になってこれはヤバいと感じたのか、アナカトが残りの2人に対して、「気を付けろ!姿の見えない奴に攻撃されている!」と注意を促していた。
「姿が見えない奴なんてどうすれば良いんだよ?」
「動かずに静かにしているんだ!相手の足音を聞き取れ!」
アナカトがそう指示を出すと3人は帯剣していた剣を鞘から抜き、全く動きもしゃべりもしなくなった。スピドロも動くことができず膠着状態になってしまった。
「(スピドロが2人倒してくれたし、残り3人なら何とかなるんじゃないか?)」
そう考えた俺はエリスに、「ここにいてくださいね」とお願いして、「うわぁぁぁぁぁ!」と叫びながら木剣を構えて3人に向かって突撃した。
当然、3人の注意は俺に向いた。
俺は今までの練習を忘れずに笑顔を保ったまま、アナカトの脇腹を狙って木剣を右から左へとなぎ払った。
魔法で俺の身体と木剣を強化していたので一撃で決まるかと思っていたが、アナカトには剣で防がれてしまった。
そのまま、俺の木剣とアナカトの剣の押し合いになった。
「お前は、公爵の馬鹿息子じゃないか。いきなり攻撃してくるということは俺たちがここで何をしているかはバレているみたいだな」
「おとなしく投降しろ!投降して罪を認めるなら、痛い思いはしなくて済むぞ!」
「やっぱり馬鹿だなお前は。こうなった以上お前には何もしゃべれなくなってもらうしかないんだよ!おい!フォビノにイポタ!何やってるんだ⁈今のうちにこいつを斬っちまえ!」
俺がアナカトとの押し合いで手一杯なのを狙って、イポタが俺を斬ろうと向かってきたが、すぐに、「グハッ!」と言って倒れてしまった。
おそらく、スピドロが倒してくれたのだろう。
これで、敵もあと2人になった。しかも、どう見ても流れはこちらが優位だった。
「クソッ!何やってんだ!」
「もう諦めたらどうだ?お前らに勝ち目はないぞ!」
「はあ?何言ってやがる?お前の味方はどうせ護衛の奴が一人だけだろう?まだまだ数では負けてないぞ!フォビノ!何やってんだ!さっさとこいつを斬れ!」
「アナカト、俺たちの負けだよ。投降しよう」
「はあ?何言ってるんだ?」
「俺がそいつを斬ろうとしたら、もう一人の姿の見えない奴にやられるだけだよ。今投降すれば痛い思いもしないし、俺たちの命くらいは助かるんじゃないか?」
「これだけのことをして命が助かる保証なんてないんだよ!俺たちが助かるにはこいつらをしゃべれないようにするしかないんだよ!いいからやれっ!」
「嫌だ!」
フォビノはすっかり戦意を喪失しているみたいだ。それでもまだ、アナカトは諦める気配がなかったが、スピドロがフォビノを気絶させると一瞬隙ができたので、俺が木剣でアナカトの右手首を打って剣をアナカトの手から落とさせた。
「クソッ!もう少しで計画がうまく行ったって言うのに!このクソガキどもが!」
アナカトは俺たちに悪態をつくことでやり場のない怒りをぶつけていた。
勝ったのか?勝ったんだよな?勝ったんだ!俺たちの勝ちだ!
ほとんどスピドロの手柄だが、俺たちが勝ったことに違いはない!
今にも跳びまわりたいくらい嬉しかったが、ここで気を緩めたら良くないと思い、アナカトが抵抗できないようにするため気絶させるか足でも折っておこうと考えた。
「スピドロ!こいつが動けないようにしてくれ!」
「分かりました!」
スピドロが魔石の魔法を解いて姿を見せた。
思っていたよりもスピドロは俺とアナカトの近くにいたことには一瞬驚いた。
おそらくフォビノを気絶させた後、俺の援護ができるように動いていたのだろう。
「足の骨でも折っておけばいいですか?」
「ああそうだな」
「ちょっと待った!そこの2人とも、それ以上一歩も動くんじゃねぇ!この娘がどうなっても良いのか⁈」
急に呼び止められて、「何だ?何だ?」と思いながら声がした方を振り向くと、髭と髪の毛で顔が毛むくじゃらの男が右手にナイフを持ち、左腕をエリスの首に回しながら立っていた。




