第17話 第3章 作戦実行!
関所に到着した瞬間、本当はそのまま地面に座り込みたかったが、そんな姿をシトロギー伯爵やシトロギー伯爵領とハモン公爵領の騎士団員に見られたくなかったので、グッとこらえて膝に手をついて肩で息をする程度にした。
だが、そんな俺の状態を見た周りの人たちは口々に、「デフトル様、大丈夫ですか?」と聞いて来た。
俺が肩で息をしていたら心配しなくちゃいけない立場の人がこの場に多いのは理解しているのだが、俺は大勢から心配される現状がどうにも歯がゆかったので、「大丈夫だ。心配するな」と答えて、出来るだけ平気な振りをした。
「デフトル様、大丈夫ですか⁈」
そんな中、一際大きい声で尋ねてくる声が聞こえたので、「だから、大丈夫だと言っているだろ!」と語気を強めて返答してしまった。
「申し訳ございませんでした。少し顔色が優れないように見えたもので」と相手はすぐに謝罪してきたのだが、その声を聞いて俺は相手がシトロギー伯爵だと気付いた。
シトロギー伯爵は俺の言葉にひどく委縮されているように見えたので、俺はすぐに、「シトロギー伯爵、申し訳ありませんでした。皆から心配の声を掛けられて少しうんざりしていたところだったもので。シトロギー伯爵は私を心配して声を掛けてくださったのに邪険に扱ってしまい申し訳ありませんでした」とシトロギー伯爵に謝罪した。
「そうだったのですね。私ももう少しデフトル様の状況を確認してからお声を掛ければ良かったですね。以後気を付けます」
シトロギー伯爵の表情が少し和らいだので、俺は少しホッとしていた。
「それではデフトル様、関所をご案内させていただいてもよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
「それではまずここの責任者をご紹介いたしますので、ついてきてください」
俺はシトロギー伯爵に連れられて関所の門の近くにある番人が滞在している小屋に向かった。
関所の門も番人が滞在する小屋もこんな険しい山の中腹にどうやって立てたのだろうと不思議になるくらいしっかりとしたものに見えた。
小屋の中に入ると5人の番人が迎えてくれた。
「シトロギー伯爵様、エリス様、デフトル様、険しい山道を登ってエレンチ関所に慰労に来てくださり誠にありがとうございます」
5人の中の1人がそう言って頭を下げると、残りの4人も、「ありがとうございます」と言って頭を下げた。
「デフトル様。こちらにいるのがこの関所の責任者のアナカトです」
シトロギー伯爵が最初に挨拶をして頭を下げた番人を手の平で指して俺に紹介してくれた。
俺はハンカチで手を拭いてから右手を差し出して、「デフトルです。一応ハンカチで拭いたのですが、山道を登って来る間に手をついたりしたため綺麗な手ではなくて申し訳ないです。今日はよろしくお願いします」と弁明してアナカトに握手を求めた。
しかし、アナカトは特に気にする様子もなく、「全く差し支えありません。こんな場所ですから、私の手も綺麗かと言われたら綺麗ではありませんので」とにっこり笑って俺の右手を握った。
俺はアナカトと握手した後、残りの4人とも左手を差し出して握手と挨拶を交わした。
5人全員と挨拶を終えると、俺はアナカトの方を向いて、「ここで働いているのは、ここにいる皆さんで全員ですか?」と尋ねた。
アナカトは首を横に振って、「いえ、あと5人います。交代で休憩をとっているので、今は休んでいます」と答えた。
「そうですか。もう一つ聞いても良いですか?」
「はい。何なりとご質問ください」
「トイレはどこでしょうか?」
「トイレですか?」
「はい。トイレです。実はここに来るまでの間、かなり我慢していたもので」
「そうでしたか!トイレはこちらです!ご案内いたしますのでついて来てください!」
俺がトイレを我慢していたことを知り、アナカトは慌ててトイレまで案内してくれた。
俺の後ろを護衛であるスピドロがついてきた。
俺たちが入ってきたドアを開けて少し離れた所にあるトイレに案内された。
一応、前後左右と上を囲むようにしてあり、プライバシーは確保されていた。
「こちらがトイレです。貴族の方が使用されるような綺麗なトイレではありませんが」
「いえいえ。こんな場所にトイレがあることだけでもありがたいことです。全然僕は気にしていませんよ。」
「一応掃除は念入りにしてありますので、どうぞごゆっくり」
「ありがとうございます。さっきの小屋へは自力で戻れるので、アナカトさんは戻っていいですよ。僕には護衛もいますし」
「え?いや、でもそれは……」
さすがに護衛がいるとはいえ貴族の子どもを置いて戻るわけにはいかないと考えているのだろう。アナカトは小屋に戻ることをためらっていた。
俺としては一刻も早く小屋に戻ってほしいと思っていたので、どうしたものかと思案し始めたところ、スピドロが急に話に割って入って、「アナカトさん、デフトル様は音を聞かれるのが嫌なのです。だから、どうか小屋に戻ってはくれませんか?」とアナカトに説明した。
「(よくやった!スピドロ!)」
俺は心の中でスピドロの優れた対応を褒めつつ、口では、「スピドロ。それは言ってほしくなかったのだが……」とスピドロの対応を注意した。
スピドロは俺の方を向いて、「申し訳ございません!デフトル様!」と本気で謝罪しているかのように演じた。スピドロの演技が迫真の演技なので、一瞬本気で謝罪しているかのように感じた。
「そ、そうでしたか!気が回らなくて申し訳ございません!すぐに戻ります!」
スピドロの迫真の演技を見たアナカトは、そう言い置いて小屋に戻って行った。
俺は一応トイレに入って、しばらく経ってから外にいるスピドロに向かって小声で、「どうだ、スピドロ?アナカトはもう小屋に戻ったか?」と尋ねた。
スピドロが小声で、「大丈夫ですよ。もう小屋に戻りました」と答えたので俺はトイレのドアを開けて周りを見渡した。
周りには俺とスピドロ以外誰もいなかったので俺は安心してトイレから出た。
まずはさっきのスピドロの優れた対応を褒めておこうと思い、「スピドロ、さっきは……」と言いかけた瞬間、「先程は申し訳ございませんでした」とスピドロが謝罪してきた。
俺は意味が分からず目をぱちくりさせていると、スピドロが続けて、「アナカトさんに小屋に戻ってもらうには何て言えばいいのか考えた時、ああいう理由しか思いつかなかったんです。本当に申し訳ございません」と謝罪の理由を答えた。
「ああ、そういうことか。それなら全然怒ってないぞ。むしろスピドロの対応を褒めようと思っていたのだから」
「本当に怒っていらっしゃらないんですね?」
「ああ、むしろよくやった!」
「良かったぁ。」
スピドロが冗談ではなく本気でホッとしている様子を見て、俺がさっきアナカトの前で注意した時の謝罪は演技ではなく本気だったのだと理解した。
「(まあ、こいつの理解力の低さは今に始まった事じゃないしな)」と結論付けて、俺は話を先に進めることにした。
「早くしないと誰かが見に来るかもしれないから、作戦を実行するぞ!スピドロ!」
「はい。デフトル様。……ところでデフトル様、一つ聞いてもよろしいですか?」
「ん?何だ?」
「トイレから音が聞こえなかったのですが、トイレは済まされたんですか?」
「(こいつ馬鹿なんじゃないだろうか?)」




