第14話 第2章 捏造された罪を暴け!②
事の発端は12年前にシトロギー伯爵領で魔石の鉱脈が発見されたことだ。
魔石というのは魔法を使うことができない人でも、それを使えば魔法を使うことができるという代物だ。
魔法を使える原理はまだ分かっていないが、魔石に蓄えられている魔力のおかげで誰でも魔法を使用することができる。
ただし使用できる魔法は魔石によって決まっていて、炎を出すことができる魔石は炎を出すことしかできないし、竜巻を起こすことができる魔石は竜巻を起こすことしかできない。
それに加えて魔石は消耗品だ。
何度か魔法を使うと砕けてしまい魔法を使うことができなくなる。
しかし、魔法を使うことができない人も魔法を使うことができるという長所は消耗品であるという短所なんか気にならないくらい魔石を魅力的なものにしていた。
実際、魔石は交易品として高値で取引されたり、国防のために騎士団に配備されたりしていた。
そんな魔石の鉱脈がシトロギー伯爵領で発見されたのだが、エリスの祖父であるパポスは魔石で儲けようとは考えず、魔石採掘業を主要産業にはせずに従来の農業を主要産業にして、魔石は国に税として納める量だけ採掘する程度にしていた。
6年前にシトロギー伯爵の爵位を継いだエリスの父親であるイリキルもパポスと同じく、農業を主要産業にして魔石採掘業を主要産業にはしなかった。
シルヴァリア国王陛下はそんなシトロギー伯爵の考えを否定することなく、堅実な領地運営で素晴らしいと褒めていらっしゃったのだが、それに納得できない人物がいた。
それがエヴィメリオ王国の宰相であるアプリトだった。
アプリトは4年前に宰相に就任したのだが、就任当初からシトロギー伯爵の領地運営に対して文句を言っていたらしい。
エヴィメリオ王国があるケントロ大陸の3分の1は魔族に侵略されていて、残り3分の2をエヴィメリオ王国とアナトリー国とディティカ王国が占めていた。といっても3分の2のうちの半分以上はエヴィメリオ王国が占めていて、他の2国よりも魔族領と接する境界は多かった。
そのため、誰でも魔法が使える魔石がエヴィメリオ王国の国土を守るのに重要なのは当然だが、アナトリー国やディティカ王国にとっても必要不可欠なものだった。
しかし、アナトリー国やディティカ王国ではあまり魔石が採れなかったため、エヴィメリオ王国から輸入していた。
魔石が高値で他国に売れることに目を付けたアプリトはシトロギー伯爵に魔族との戦いに必要だから、もっと魔石を採掘するように要求したが、シトロギー伯爵はその要求に従わなかった。
魔石を他国に売って、その利益の一部を不正経理で自分の懐に入れようと考えていたアプリトはなかなか自分の要求に従わないシトロギー伯爵にかなり苛立っていたらしい。
シトロギー伯爵領に埋まっている魔石をどうしても採掘したいアプリトはシトロギー伯爵に何か罪を捏造して領地を没収できないかと考えたらしい。
そこでアプリトは自分に従う貴族を仲間にして、シトロギー伯爵に国家反逆の罪を捏造することを考えたらしい。
まず、シトロギー伯爵の領地と隣の領地のプラナス伯爵を味方に引き込み、シトロギー伯爵領の関所を守っている番人たちを買収し、シトロギー伯爵が気付かないように魔石採掘の坑道をシトロギー伯爵領に掘り始め、採れた魔石を密かにシトロギー伯爵の領内にため込んでおいたらしい。
そして、大量の魔石がたまったら、アプリトはシトロギー伯爵が魔石をため込んで王位を簒奪しようとしていると密告があったから内部監査をさせろとシトロギー伯爵に要求する。
密告内容に全く身に覚えのないシトロギー伯爵だったが、変な疑いをかけられたままなのも嫌なので内部監査を受け入れた。
すると、内部監査を受け入れて数日後、ヴノーで魔石を採掘するための坑道と大量の魔石が発見された。
シトロギー伯爵は身に覚えがないと訴えたが、魔石をシトロギー伯爵に命じられて採掘したと答える鉱山作業員が何人も捕らえられたので、シトロギー伯爵の訴えは認められなかった。
捕らえられた鉱山作業員も大臣が雇っていた人たちだった。
ただ、シトロギー伯爵がため込んだとされる魔石を王位の簒奪に使おうとしていたという証拠は見つからなかったので、大臣の要求に従わずに使途不明の大量の魔石を隠していたことだけを問われ、一族郎党全員死罪は免れ、領地の没収と爵位の剥奪だけで済む。
というのが、俺の1回目の人生で起こった事件のあらましだ。
ただ、1回目の人生の時は俺を含めて、ほとんどの国民が大臣たちの暗躍を知らなかったので、この事件が起こった時はシトロギー伯爵が悪いやつなのだなという認識だった。
しかし、事件から数年後、アプリトが王様の直轄領になっていた元シトロギー伯爵領から採掘された魔石を他国に売って得た利益を自分の懐に入れていたことが発覚して失脚したことにより、過去のいろいろな罪も明るみになり、シトロギー伯爵を陥れたことも発覚したのだった。
シトロギー伯爵がアプリトによって陥れられたことが発覚してすぐに、王様はシトロギー伯爵に領地と爵位を返還しようとしたが、シトロギー伯爵一家が消息不明だったため返すことはできなかった。
けれども、それからさらに数年後、魔王を倒して世界を救った勇者の仲間としてエリスが現れる。
エリスは王様に魔王を倒した褒美として何が欲しいと尋ねられると領地と爵位を返していただきたいと答えた。
勇者プルトと他の仲間2人にも領地と爵位は与えるつもりだから、領地と爵位以外に望むものはないのか?と王様がエリスに再度尋ねると、エリスは他には何もいりませんと答えて、他の褒美は固辞したらしい。
その後エリスは返してもらった領地を父親と同じ堅実な運営で盛り立てることに心血を注いでいたらしい。
俺がアプリト宰相に陥れられてシトロギー伯爵が国家反逆の罪を捏造されそうになっているというところまでをスピドロに説明し終えると、スピドロは、「そうなんですか。大臣がシトロギー伯爵様を陥れようとしているんですね?それは大変だ」と本当に理解しているのか怪しいくらい大げさにうなずいていた。
「事の重大さが理解できたか?そういうことだから、今回こそは大臣が掘削させた坑道か、そこから採掘されてため込まれた魔石を見つけなくちゃいけないのだ」
「分かりました!俺にできることがあれば何でも言ってください!何でもやりますので!……ところで、1つ質問させてもらってもよろしいですか?」
「何だ?言ってみろ」
「どうしてデフトル様は大臣がシトロギー伯爵様を陥れようとしていることにお気づきになられたのですか?デフトル様の父親のペトラス様が治めるハモン公爵領とシトロギー伯爵領って、かなり距離が離れているじゃないですか?それなのにデフトル様がシトロギー伯爵領で起きている異変にお気づきになられたのは何でだろうと思いまして」
やっぱりそれはスピドロもおかしいと思うよな。まだ成人していなくて政に参加してもいない子供の俺が大臣の策略に気づけるとは到底思えないよな。
しかし、1年以上スピドロと付き合ってきて、スピドロの性格なども理解していたので、俺はスピドロにされた質問の回答をあらかじめ準備していた。
「何で俺がアプリト大臣の策略に気づいたかと言うとな……神のお告げがあったからなのだ」
「神のお告げですか?」
「そう!神のお告げだ」
「やっぱりそうでしたか!デフトル様が受ける神様のお告げに間違いはないですからね!」
「と、当然だろ!俺は神様に愛されているからな!友人の危機的状況も神様が教えてくれるんだよ!ハハハハッ!」
やはり神のお告げと言えばスピドロを納得させることができたな。
スピドロは俺がスピドロの魔力供給源やミソールの魔法と魔力供給源を当てた理由を神のお告げだと答えた時もすんなり受け入れていたので、今回も問題ないだろうと考えたのだが、やはり問題なかったな。
いや、こんなにもすんなりと受け入れられると1つだけ問題があるな。
それはスピドロの思慮の浅さだ。
いくら信頼している相手の発言だとしても、すんなりと受け入れすぎている!
こんな思慮が浅いやつを仲間に選んで大丈夫なのか本気で心配になってくる。
まあ、もともと思慮深さや疑り深さなどをスピドロに求めてはいないのだけれども、それでももう少し疑ってきてくれても良かったなと思ってしまう。
スピドロは図体ばかりでかくなって頭の方はからっきしダメだった。
それは俺の長所を伸ばそうという育て方をしていたからだった。
俺の護衛に選ばれてからスピドロをハモン家の騎士団の訓練に参加させた。
元々ハモン家の騎士団の団長にまで上り詰めた実力を持っていたので、めきめきと実力をつけていった。
14歳という歳でほとんどの団員を打ち負かしていたし、魔法の威力もかなり上がっていた。
身長も180㎝近くにまで伸びて、しっかりと筋肉が付いた肉体をしている。
だが、スピドロに知識を身に着けさせようと積極的に勉学を受けさせようとはしなかった。
自分で望んだこととはいえ、スピドロの思慮の浅さは不安材料ではある。さらに俺がそれよりも不安を抱えていることがある。それは……。
「ところでスピドロ、お前は俺の護衛だよな?」
「はい!おっしゃる通り、俺はデフトル様の護衛です!それがどうかしましたか?」
「うん。そうだよな。スピドロ、お前は俺の護衛だ。それでお前が手に持っている物は何だ?」
「手に持っている物?これは鍬です。お忘れになったんですか?」
「いや、俺は名前を忘れたから、お前が手に持っている鍬のことを聞いたんじゃない。護衛であるスピドロが何故鍬を持っているのか聞いているのだ」
「それは……デフトル様を護衛するためです!魔法を使うのに一番しっくりくるのが鍬だからです」
「それは知っているんだよ!俺が言いたいことは護衛なら早く剣でも魔法を使えるようになれってことだよ!こんなに皮肉交じりに聞いているのに全く理解できていないのだな?ハァ……」
「申し訳ありません、デフトル様。でも、この鍬は金属製ですから耐久性もありますし、敵を攻撃する面でも役に立つと思いますよ」
真っすぐな瞳で、そう答えるスピドロを見ていると、もう鍬を武器にしていても問題ないんじゃなかろうかと思えてくる。
だが、魔王を倒す勇者一行の仲間の一人が農具で戦うというのは、どう見てもかっこ悪い。何とかしなくては。
とは言っても、魔法をきちんと使えない武器を持たせておくのも不安だから、仕方がないがここは……。
「今は許すけど、ちゃんと剣でも魔法を使えるように練習しろよ!」
「はい!分かりました!」
スピドロの返事が良いのも、ますます俺を不安にさせた。




