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死に戻った私は、冤罪で殺された娘の幸せだけを求めます  作者: 凛蓮月@記憶をなくした孤独な妻発売!
第四章/運命に抗うもの

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72.家族として


 頼みの綱のユリアーナはいない。

 私一人でカールハインツの相手をしろと言うの?

 無理だわ。うん。ユリアーナもいないのだし、よし戻ろう。


「寝ないのか?」

「ね、寝るわよ? じゃあ、おやすみなさい!」


 寝室の扉を抜けて廊下伝いに自室へ向かう。


「マリー!」


 だが、カールハインツに掴まれて再び寝室に逆戻りしてしまった。


「ちょっと、今から寝るのよ」

「ああ、……だが、ユリアーナがいるだろう?」

「ユリアーナは今夜からマルテと寝るそうよ。だから一緒に寝るのはおしまいでいいでしょう?」


 掴まれていた手を離し、扉を開けようとするが拒まれてしまった。


「ま、待ってくれ。……その、話が……したい……」


 夜の帳で室内は薄暗く分かりにくいが、カールハインツの表情が強張っているのが分かる。

 その瞳が熱くなっているのは気のせいだろうか。


「ユリアーナの……その、今後の事で」


 ユリアーナの事で話があると言われれば聞くしかない。抵抗するのをやめて、仕方なくソファに座った。

 カールハインツも隣に腰掛けたようで、ソファの衣擦れの音がやけに耳に響く。

 二人だけの空間が慣れなくて、視線を外したまま腕を組んで話を待った。

 だが沈黙が過ぎていくばかりでカールハインツは微動だにしない。


「で、話って何? ユリアーナの今後の事ってどういう話?」


 痺れを切らしてカールハインツの方を向くと、固まったまま肩を跳ねさせた。


「あ、ああ。ゴホン。その、ユリアーナに、婚約の打診がいくつか来ているんだ」

「ユリアーナに? どこから?」

「ああ。……ラルス殿下を始めとして、ノワール公爵家ルークス、あとは」

「はあ? はぁあああ? 冗談でしょう?」

「冗談じゃない。まあ、二人ともまずは友人としてという打診だ」


 昨日の今日で何を考えているのあのバカ殿下は!


「二人とも先程打診をもらって、ひとまず保留にしている」

「当たり前よ! 幼い頃からの婚約なんて、めったに上手くいかないわ。アカデミーに入った頃には色気づいて心変わりするわよ」


 私の実体験と、周りの状況を見た総合的な判断だ。傷つくのは女性たちばかりだった。

 ティアナやクラーラみたいな愛人候補の女性はいつの時も現れる。

 最初からそっちとくっついていればいいものを、わざわざ裏切るんだから質が悪いわよね。

 心変わりして、素直に婚約解消してくれればいいが、そうならない人もいるわけで。


「俺はずっとマリーしか愛していない」

「愛って、相手に伝わらないとただの独りよがりなのよ。少なくともあなたが私を愛していたなんて、つい最近まで知らなかったわ」

「……すまない」


 あからさまに落ち込まないでほしい。何だか私が悪い事をしているみたいじゃない。この人の口下手なところは中々直らないかもしれない。


「……でも、修道院で意識を失った時、夢を見ていたの」


 闇に呑まれ厄災となってしまった私の中に入り込み、ずっと光を与え続けてくれていた存在がいた。

 全てが憎くて仕方がなく、世界中の誰もが敵だった。そんな中、たった一人だけ、味方だった。


「たぶん、一度目のあなたと私だった」


 たった一つの救いだった。

 少しだけ、愛されていると実感できた。

 その光に縋って、前回も今回も生きていたのだと思う。


「でも、神様に闇の女神を取り除かれて、私の中の光を求めるものが無くなってしまったの。正直、以前のようにあなたを求めていないわ」


 神様が言っていたように、私の中の闇の部分が、カールハインツを病的に求めていたのだと思う。

 闇が無くなった今、以前のような狂おしい程の気持ちは無く、彼からの愛も求めていない。


「それでも、マリーを愛している」


 カールハインツはまっすぐに私を見つめる。

 前回の私がほしくてたまらなかった言葉。


「遅いのよ。死ぬ前に……言ってほしかった」

「ごめん」

「奇跡は二度と起きないわ」

「ああ。だからこれからは間違えないようにする」


 信じてもいいのだろうか。

 二度と苦しい思いはしたくない。

 もう愛に苦しむのは懲り懲りなのだ。


「愛さなくていい。信じられないなら信じてもらえるように努力する。マリーが不安にならないように、証明していく」


 カールハインツの指が私の頬に触れて濡れる。

 少しだけ、わだかまりが解けた気がした。


「マリー、抱き締めてもいいだろうか」

「……こういう時は、許可を取るものじゃないわ。拒絶したくなる」

「分かった」


 ゆっくりと腕が背中にまわる。

 顔が薄い胸板に押し付けられると、速い鼓動が耳に入る。


「緊張してるの?」

「俺はいつもこうだ」


 そうだったかしら? と逡巡するが、そもそも抱き締められた記憶もあまり無い。

 しかしあまりにも速くて、思わずふ、と笑みが漏れた。


「マリー、……これからも、一緒にいてほしい」

「どうしようかしら」

「……っ、か、家族として、でも……いいから、そばにいてほしい」


 言葉が尻すぼみになり、さらにごくりと音がした。

 私とカールハインツは、今まで夫婦とも家族とも呼べる間柄ではなかったかもしれない。

 男女としての絆より、ユリアーナを間にしてようやく家族になりかけているようなものだ。


「私はあなたを愛せないかもしれないわよ?」

「それでもいい。俺が……マリーを愛したい。ユリアーナも、今までしてこなかった分、これからの時間を三人で過ごしたい。生きていてくれれば、それでいい」


 相変わらず鼓動は速いし、緊張しているのか声も震えている。

 でも、……抱き締められるのも悪くないわね。


「仕方ないわね。そのかわり、……この先家族が増えるような事があっても、私たちを放置しないでよね」

「あ……マリー、そ、そそそそれは……」


 あら、何だか一段と速くなったわ。

 面白くなって顔を上げると、真っ赤なベリーよりも顔を赤くしたカールハインツがいた。


「マリー、その、あの」

「あふ……そろそろ眠くなってきたわね。もう休みましょう。ユリアーナはいないから、真ん中を空けて、端と端ね」


 ソファから立ち上がり、ベッドへ向かう。

 掛布を捲り、身体を横たえる。

 カールハインツは微動だにしない。

 口をパクパクさせているが、何だか涙目になっているのは気のせいかしら?


「寝ないの?」

「あ……いや、その……。……寝る。寝ます……」


 トボトボと近寄ってきてベッドの中に入り、端の方で小さくなったのを見届けると、少しだけ近寄った。


「おやすみなさい」


 耳元で囁くと、唇が柔らかな耳朶に触れる。

 そのまま端に寄ろうとしたところで強く引き寄せられた。


「ちょっ!?」


 首元にかかる息が熱い。触れるか触れないかくらいの唇がくすぐったくて背中が粟立つが、がっちりと身体を捕まえられて身動ぎもできない。

 そのままベッドに横たえられ、唇を奪われた。


「待っ」

「待たない。待った。待てない」


 どういう事? 何で三段活用なのよ!

 というか、この人そういうの興味無いと思ってたのに、何で発情してんのよ!


「落ち着きなさいよ」

「落ち着いてる。落ち着かない。」

「カタコトで話すのはおかしな証拠でしょう!」


 ──結局、おかしくなったカールハインツを宥めるために、翌日盛大な筋肉痛になってしまった。

 ユリアーナに介抱されたのはいいけれど、毎晩続くのはさすがに勘弁してほしいところだと抗議しようと思う。


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