61.真実
ひと通り建物内を探したが、ロッテの姿は見当たらず、一旦公爵家へ戻る事にした。
管理人と外にいた護衛は医師に治療してもらい、マルテはまだ眠りから覚めなかったので公爵家へ運んだ。
目覚めを待ってから話を聞く予定だ。
囚人はロッテしかいなかったので、警備は外に二人、中に二人。
外の二人は軽傷ではなかった。
ここの護衛は公爵家で雇っている実力派の騎士や腕に覚えがある者ばかり。
これが手薄なのかは私には判断がつかないが、実力派の護衛を配置していても対応しきれなかったのは反省すべき点だ。
もう一つ、反省すべき点がある。
マルテが運ばれて来たのを出迎えたユリアーナに見られてしまった。
「マルテ……?」
護衛に抱えられたマルテを見て、ユリアーナが駆け寄って来る。
休暇を取っただけで心ここにあらずだったのに、抱えられての帰還となったのだ。
「大丈夫よ。眠っているだけだから」
「でも……」
「お医者様も大丈夫とおっしゃっていたから、心配いらないわ」
不安そうな表情のユリアーナの頭をそっと撫でる。それでもよほど心配なのだろう。表情は晴れないままだ。
「マルテが起きたら知らせるわ。ユリアーナはお部屋で待っていてくれるかしら?」
「……分かりました。マルテが起きて、大丈夫そうならお話したいです」
ユリアーナの優しさに目を細め、安心させるように力強く頷いた。
ユリアーナを侍女に連れて行ってもらい、私も着替えるために自室へ向かう。
あの牢屋を襲撃した目的はロッテが狙われた──そう考えた方が自然だろう。
だが何故ロッテを狙うのか。
北の修道院とロッテがいた牢屋が狙われた事は関連しているだろう。
ティアナが関係しているのだろうか。
移動の魔法陣を使えるほど、ティアナに魔力があっただろうか。
あの人は男性に取り入るのが上手かった。
魔法に長けた人と繋がって……
「……ティアナがこんな策略するかしら」
あの人は男性を籠絡する事には長けている。
フォルクハルトの取り巻きを何人も婚約破棄の危機に陥らせたのだから。
エッカルト様も未練タラタラだったし、女性から見た印象と男性から見た印象は違うのだろう。
だがこんな荒っぽい真似をするかしら?
ティアナだったらロッテを救い出すような真似はしない気がするわ。
自分の周りに男性ばかり置いて、女性を気に掛けるような人ではないもの。
着替え終わり、そのままソファで考え事をしていると、扉を叩く音がする。
そのまま入室を促すと、入って来たのはカールハインツだった。
「マリー、今いいか?」
「ええ」
彼はおそらく二人の行方を追うため、影を放っただろう。
行き先の見当はついているのだろうか。
室内に招き入れ、向かい合わせにソファに座る。
お互い険しい顔をしているのだろう。重苦しい沈黙が流れた。
「北の修道院に偵察に行っていた王家の部隊から連絡があった。橋が落とされて今簡易的に掛け直しているそうだ」
「……って事は」
「移動の魔法陣がある可能性がある。……おそらく、指定の」
通れる人を指定する。
それができるのは──先日アマランス夫人と話した事に当てはめるならば。
「魔法陣を敷いたのは、どこかの当主、ね?」
「ああ」
「誰……って、その顔、もう分かっているのね……」
おそらく、その人が関わっているという事を、私は信じたくないのだ。
理由が分からないし、動機は無いはずだ。
もしそうならば、私への加護はいつ、何のために付けたのだろうか。
「彼がどう思っているのかは分からない。本意であるのか、仕方なく、なのかも。もしかしたら俺たちを」
「理由があるのよ。何か……理由が……」
言いながら理由を探すが、考えれば考えるほど分からなくなっていく。
「それにもしそうだとしても、彼がロッテを拐う理由が分からないわ」
「俺も分からない。だが、……彼ができる事がある」
カールハインツは、重い口を開く。
「彼にしか、できない事がある」
──最初は、時が戻ったのは、神様のおかげだと思っていた。
だが、生贄を捧げて初めて許可が降りるという事を知った。
今回は私が厄災になったから、神様から許可が降りた。
では、私は厄災になっていない今、もし生贄を捧げれば……?
時を戻る事は可能なのだろうか?
「……待って、生贄……生贄は、誰を……」
「生贄になる条件は、覚えているか?」
確か、それは──
「王家の血と、光の公爵家……」
王家の血──まさか、クラーラ?
確かにクラーラは廃太子フォルクハルトの血を引いている。
では、光の公爵家は……
「まさか……」
その名を口にする前に、扉を叩く音がした。
「旦那様、奥様、マルテが目覚めました」
「本人に聞いた方が確実だろう」
カールハインツは険しい顔をしている。
知らなかったのだろうか。
おおよその見当はついていたのだろうか。
何だか疲れたような表情が気になって、そっと手を取った。
「ちょっと、びっくりしたんじゃないかと思って」
「マリーが手を握ってくれた方が驚いた」
「じゃあ離すわ」
「いや」
今度は逆に、カールハインツから握られた。
「そばにいてくれ」
「……仕方ないわね。意外とあなた、甘えたなのね」
「きみにしか頼めない」
そういう事を前回言ってくれたら、と何回思っただろうか。
不意打ちされ、けれど悪くない気持ちに不快になるが嫌じゃないのが腹立たしい。
カールハインツのエスコートでマルテが眠っていた部屋に向かう。
ロッテの父親が本当にそうなのか、真実を明らかにするために。




