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死に戻った私は、冤罪で殺された娘の幸せだけを求めます  作者: 凛蓮月@お飾り妻2巻5/28配信開始!
第三章/守るべきもの

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55.百合の花


「ねぇ、マルテ。私のお母様はどんな方だった?」


 雨が降る中、マルテと手を繋いだユリアーナは、私のお墓の前で小さく呟いた。

 私はここにいるわ。あなたのそばでずっと見守っているの。

 ……そんな声は勿論届かない。


「奥様は……とても愛情深いお方でした。だから、旦那様がいらっしゃらなくて、お辛かったのです」

「そう」


 マルテの差した傘は小さくて、ユリアーナのドレスが濡れている。

 けれどそれを気にする事なく、そのまま動かない。


 私が死んで一年後の命日。

 公爵家の後妻として入ったティアナが前妻を弔うはずもなく、ユリアーナだけがこうして私のお墓で弔い祈りを捧げてくれている。

 ユリアーナが来たのは今日だけではない。

 月命日には庭で摘んだ小さな花を手向けてくれていた。

 生んだだけの母親に、だ。

 乳をあげた事も、小さな身体を抱き上げた事もしなかった愚かな母に、自分の手で摘んだ花を捧げてくれていた。

 死の間際、手を握ってくれたその温もりは死んでからも私の心に宿っている。

 ユリアーナがティアナとクラーラに辛く当たられ、カールハインツから冷遇されても、ユリアーナの優しさは変わらなかった。

 光のブランシュ公爵家に相応しく、常に慈愛の精神で接していた。


「お母様に……会いたいな……」


 その頬から流れるのは、雨か涙か。

 死んでしまっては触れる事すら叶わない。

 泣いていても、その雫を拭いてあげる事すらできない。

 私は何故ここに留まっているのだろう。

 こんな思いをするならば、いっその事……。けれど、ここに留まらなければユリアーナの優しさに気付けなかった。

 あなたの寂しさに気付けなかった。

 悲しみも、悔しさも、諦めも、何も気付けなかった。


「お母様、お誕生日、おめでとう」


 お墓の前に小さな花を捧げるユリアーナの頬に、雫が伝った。




「お母さま、お誕生日、おめでとうございます!」


 寒さが深まってきたある晴れた日の朝。

 食堂に着いた途端パパパン! と音が鳴った。

 それが火の魔法をアレンジしたものと気付くのに時間がかかった理由は、、目の前にいるユリアーナがあまりにも可愛らしく笑うから、見惚れてしまったためだ。


「お母さま、これ、私からのプレゼントです!」


 ユリアーナから渡されたのはラッピングされた小さな箱。

 私はしゃがみ、目線をユリアーナに合わせた。


「ありがとう、ユリアーナ。……もしかしてお出掛けしていたのは、このため?」

「! そ、そうなんです! 隠すのは苦手でした。えへへ」


 照れたように笑うユリアーナを見れただけで、最高のプレゼントである事は間違い無い。

 小さな手から見繕ってくれたプレゼントを受け取る。


「ありがとう。開けてもいいかしら?」

「ぜひ!」


 許可をもらったので早速包みを大事に開ける。

 すると中から小さな宝石箱が出てきた。

 その蓋を開けると、そこには百合の花の形をした耳飾りがあった。


「お母さまに似合うかな、って思って」

「とても可愛らしいわ。ひと目で気に入ったわ。ありがとう」


 えへへ、とはにかむユリアーナ。それだけで母はとても満足でございます。


「これはね、お花の部分に私の魔力を込めているのよ」


 白い百合の花は宝石で型どられている。確かに温かな魔力を感じ、まるで常に一緒にいられるような気がして顔が緩んだ。


「ユリアーナの加護をもらえるなんて、お母様は幸せ者だわ。嬉しい。愛しているわ」


 抱き締めると、ユリアーナも私の背中に自然と手を回してくれた。

 時を戻ってを初めて抱き締めた時は緊張していたが、今は安心して委ねてくれるのだと思うと喜びが溢れてくる。


 早速耳飾りを着けると、それが目に入るたびユリアーナがニコニコするものだから私も釣られてニコニコしてしまった。


「マリー、その、俺からも……」


 ごほん、と咳払いしたのはカールハインツ。

 全く気配を感じなかったけれど、ここにいたのね。

 差し出されたのはユリアーナよりの物よりも長くて細い箱だった。


「ありがとう。後で見るわ」

「せめて今見てくれないか」

「冗談よ」


 こちらも丁寧に包みを開いていく。

 ユリアーナと同じような箱の蓋を開けると、出てきたのは百合の花のネックレスだった。

 ──まるでユリアーナがくれた耳飾りと一緒に誂えましたと言わんばかりの。


「……偶然だ」


 バツが悪そうな顔をしているが、おそらくユリアーナのプレゼントに合わせたな?

 まあ、でも、これならば耳飾りと一緒に身に着けられるのから、ありがたくいただいておこう。


「ありがとう。耳飾りと一緒につけるわね」

「……俺がつける。後ろを向いてくれ」


 ネックレスを取ると、私を後ろに向かせる。

 髪が絡まないように掻き上げると、息を呑む音がした。

 肌に触れる金属の冷たさに反して、彼の指の熱さに鼓動が速くなる。


「……どうかしら」

「ん……。似合っている。やはりきみは気高い百合の花だな」


 真っ赤に染めた顔を逸らし、口元を手で覆う。

 釣られて私の顔も熱くなった。

 慣れない事をして、慣れない言葉を言うからこうなるのよ!


「むぅう。お父様、お母さまは今日は私と一日一緒にいるんですからね!」

「わ、分かっている。お父様も今日はお休みをもらったから、仲間に入れてくれるかな?」

「……仕方ありませんね。近くにいる事は許してあげます」


 以前のユリアーナならば、問答無用で追い出していたような気もする。

 今はカールハインツに対して少しずつ歩み寄りをしているのかもしれない。


 結局私との時間をユリアーナとカールハインツが分け合うような形で誕生日を終えた。

 私としては、ユリアーナと一緒にいられるだけで最高のお祝いになった。

 カールハインツはオマケね、オマケ。


 ちなみにカールハインツのネックレスも、加護の魔法がかけられているようだ。

 時戻りで魔力を使ったせいか、以前より弱くなっていると言っていた気がする。

 そんな中なけなしの魔力を使って作ってくれたなんて、まるで愛されているみたいで落ち着かない。


 不器用な彼なりに伝えようとしてくれているのだろうか。

 そろそろ前回の私の報われなかった思いを、弔ってもいいのかもしれない。



 そんな事を思った誕生日の数日後、カールハインツが慌ただしく帰宅した。


「マリー、国王陛下が危篤だ」


 平和な時間が、終わりを告げた気がした。


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