53.光の宝剣
シュバルツ様からブランシュ公爵家の宝剣を見たいと改めて言われたので、カールハインツがいる日にと招待した。
「先日は兄が申し訳ございません。今日はお招きいただきありがとうございます」
「ようこそいらっしゃいました。ノワール公爵からも謝罪をいただきましたので、お気になさらず」
恐縮しきりのシュバルツ様は、少し緊張した面持ちのようだ。
「すぐに見るかい? それとも、後で?」
「では先に見させてください。宝剣の魔力がどのような物か見てみたいです」
「シュバルツ様は本で宝物の事を知ったんですって。闇の公爵家の宝物は何なんだろう?」
「父はまだ教えてくれません。先日父から当主教育を受ける準備を始めると言われたので、いつかは教えてくれるのでしょうか」
闇の公爵家の宝物は禁術……とはまた違うのかしら?
土の公爵家にもあるはずだから、父にも聞いてみようかしら。
宝物はカールハインツ、私、シュバルツ様、そしてユリアーナもこの機会に、と見る事になった。
「宝剣って、剣ですよね。……だ、大丈夫かな」
「大丈夫だよ。厳重にケースにしまってあるからね」
美術館みたいな展示にしてあるのかしら?
ブランシュ公爵家に嫁いで五年以上経過したのに知らない事ばかりだわ。
宝物庫に到着すると、カールハインツは出入り口の所にある水晶に手をかざした。
「これは当主のみに反応するんだ。だから警備はバッチリなのさ」
ブォン、と音が鳴り、重たい扉がゴゴゴゴ……と開いていく。
小さな暗い箱型の部屋の真ん中にあるガラスケースに二本の白い短剣が並んでいた。
赤い敷物の上に置かれたそれは、鞘がシンプルで小さな魔石で飾られている。
時を戻る時、カールハインツやラルス殿下はこれで……と思うと、思わず背筋がゾクッと震えた。
「見た目には普通の短剣に見えますね。これが宝物なのですか?」
「ああ。とある魔法を使う時に必要らしい」
シュバルツ様はじっと宝剣を見ている。
ユリアーナは武器である事が怖いのか、私の後ろに隠れてドレスをぎゅっと握り締めている。
じっくりとガラスケース越しに見て満足したのか、シュバルツ様は満足げに帰宅した。
彼とは対象的に、ユリアーナの表情は浮かない。
「ユリアーナ、大丈夫?」
「……ええ、お母さま。……私、武器を初めて見て……」
小さな手をぎゅっと握り締め、俯いてしまった。
当主となるならばいずれユリアーナが引き継ぐ物だ。宝剣の役割も含めて。
「普段はあの場所に安置している。それによほどの事がない限りはあの部屋にも入らないから大丈夫だ」
カールハインツがユリアーナに目線を合わせて頭を撫でた。
「ブランシュ公爵、今日は素晴らしい物を見せていただきありがとうございます。……エルナにも見せたかったな……」
少しばかり残念な表情のシュバルツ様。今日は婚約者となったエルナ様はご遠慮いただいたのだ。
「婚約者とはいえ不確定だからね。結婚したらまた来るといいよ。今度はエルナ嬢も一緒にね」
カールハインツの言葉に、シュバルツ様は目を丸くして顔を赤らめる。照れたように小さく頷き、ぜひ、と約束をして満足そうに帰宅して行った。
「私、もっと強くならなければなりませんね……」
シュバルツ様の姿を見送り、ユリアーナは呟く。
武器を目の前にして怖じ気づいた事が自分で許せなかったのかもしれない。
「ユリアーナはまだ六歳なのだから、焦らなくていいのよ。むしろお母様が強くならなきゃ」
「俺もだ。お父様は二人を守れるようになる。だからユリアーナは安心して過ごしなさい」
「お母様の方が強くなるからね。大丈夫よ」
「いや、俺の方が」
カールハインツに負けたくなくて張り合っていたら、ユリアーナがふふふ、と笑い出した。
ああ、我至福なり──
「お母さま、お父様、私、今とっても幸せです!」
お母様もユリアーナの笑顔が見れて幸せ。
時を戻って良かったと、改めて思う。
「この笑顔を見れたなら、時を戻って大正解だったと思うわ。その点は二人に……感謝しているわ。……ありがとう」
気恥ずかしくてそっぽを向いてしまうのは仕方がない。
だがカールハインツは私の手を取り口づけた。
「俺も、二人が幸せそうなのを見て良かったと思っている。……マリー、ありがとう」
熱い視線が暖炉の温もりを更に熱くしてしまいそうだ。
──ああ、もう、本当に癪だけれど、私はこの男を諦めきれないのだ。
とはいえ愛しているから全てを許すなんて事はしたくない。
「お父様ずるいです。お母さまは私のお母さまなのですよ!」
「ああ、すまない。だがお母様は私の奥さんでもあるんだ」
ユリアーナがぷぅ、と頬を膨らませる。
許す事はできないが、そんな時間が幸せで、報われなかった私の気持ちが浄化していくように感じている。
誰かを愛する気持ちは穏やかで光に包まれているようで、なるほどこれなら闇堕ち回避できそうだわ、と納得してしまった。
「大丈夫よ、ユリアーナ。お母様が一番愛しているのはユリアーナだから」
「本当に? ちなみにお父様は?」
「そうね。……七番目くらいかしら」
「ぐっ……。一番はユリアーナとしても、あと五人はいるのか?」
適当に言った数字だが、カールハインツはショックを受けているようだ。
「ま、まあ、それだけ上を目指せるという事だ。いつかはユリアーナと同じくらい、マリーに好かれるようになるよ」
娘と張り合う宣戦布告に、呆れながらも苦笑する。
何だか普通の家族みたいじゃない? と、自然と顔が緩んでしまった。




