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死に戻った私は、冤罪で殺された娘の幸せだけを求めます  作者: 凛蓮月@お飾り妻2巻5/28配信開始!
第三章/守るべきもの

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50.素直にはなれない


 冷静に、冷静になって考えてみよう。

 いい、マリー? 今、私はふかふかのベッドの上にいるわ。

 けれどここから見える景色は、いつも目覚めた時に見えるものとは違うわね。

 いつもならば、公爵夫人に相応しい落ち着いた色の壁紙、義母から譲り受けた家具と私好みのソファとテーブル、窓から差し込む光は、天蓋から下げられたレースに遮られて眩しさを和らげてくれて、爽やかに目覚められるわ。


 私が今見えているのは、見慣れない家具……あ、いえ、何度か目にしているわね。

 ユリアーナと一緒に朝食をいただいたテーブルセット、そして私と比べて逞しい腕……

 逞しい腕!? だ、誰? 誰の? と自問自答して一人しかいない事に動転する。

 何故? 何が起きてこうなっているの?

 意識し始めたら背中にかかる規則的な寝息が熱くて蒸されそうな気がしてくる。


 落ち着いて。落ち着いて昨夜の状況を考えてみよう。

 昨夜は聖剣の話を聞いて、確か、何か胸を触らせられて、何か、変なセリフを聞いて、そう。

 久しぶりにお酒をぐいっと飲み干したのよ。


 そ の 後 の 記 憶 が 無 い わ


 夜着……は着てる。痛いところは特に無い。

 身体に感じる違和感も無さそう。

 て事は、何も無かったようでホッと息を吐く。

 そうならば、さっさと自室に引き揚げるべきよね。

 私はその腕の中からそぅっと抜け出し、静かに自室に戻る事にした。



 朝食の席でカールハインツが何か言いたげにしていたが、全身から話し掛けないでとオーラを出していたせいか苦虫を噛み潰したような顔をしていただけで特に何も言われずに執事のサイラスから「時間です」と急かされて結局出仕して行った。


「お母さま、お父様と何かありましたか?」

「えっ? 無い、無いわよ、大丈夫、何も無かったわ」

「……? お父様が何か言いたそうにしていましたから、帰って来たらお話を聞いてあげた方がいいかもですね」


 ユ……ユリアーナが、カールハインツの肩を持った……ですって?

 最近はカールハインツの休日に、少しずつ当主教育を始めているとサイラスから聞いた。

 その影響か、ユリアーナとの距離が縮まっているのかしら?

 でも、確かにお酒を飲んで意識を飛ばして気付けばベッドにいたのだ。誰が運んでくれたのかと言えばカールハインツしかいない。

 お礼も言えていない事に気付き、ユリアーナはそれを見抜いていたのでは、と思うと母として情けない。


「……お父様が帰宅したら聞くわ」

「お父様とは、私とアルビーナ様と、王太子妃殿下と、マルテとクラークの次くらいに仲良くしてあげたらいいと思います」

「随分と下がってしまったわね」

「今までいませんでしたから」


 名前が出てきた方々は、ユリアーナの中で信頼している人なのかもしれない。

 次々と出てくるのはいい事だ。


「分かったわ。この家の中ではクラークの次くらいでいいのね」

「やっぱりサイラスの次くらい!」


 仲良くなった使用人が増えるほど、順位は下がりそうだと思わず苦笑した。

 当主教育を通じて順位が上がるように頑張れカールハインツ。



 自室に引き揚げた私は、ラセット公爵家の影を呼び寄せた。


「お嬢様、いかがなさいましたか?」

「あなたたちの任務を解くわ。カールハインツの周りから撤退して結構よ」


 影の男は片眉を上げ、魔法を唱える。

 カールハインツの周りに潜む彼らに伝えているのだろう。


「よろしいのですか?」

「どうせ毎日変わらないのでしょう? もう気にする必要も無いし、これ以上は無意味だわ」

「……信用は戻ったのですか?」

「はいかいいえならば、いいえ。一年も満たない償いじゃ、数年の不信感は拭えないわ」


 前回も含めるならば十数年なのだが、時を戻った事を知らない者に言っても理解されないだろう。

 今の所カールハインツは先日言っていた通り女性との接触を最低限にしている。

 ならばそろそろ引き揚げて、ユリアーナの護衛としていてもらった方がいい。


「まあ、いいですが。昨夜酒で即落ちしたお嬢様をベッドに運んだのは公爵でしたからね。お礼くらいは言ってもいいと思いますよ」


 やはりカールハインツだったのね。

 薄々気付いてはいたが、認めるのも何だか嫌で今朝は避けてしまい、ユリアーナにも不審がられてしまった。


「わ、分かってるわよ……」

「公爵の肩を持つ気ではありませんが、まあ、あの御方なりに二人との仲を改善しようとはしていますよ。……かーなーり、ヘタレで不器用ですがね」


 それもそろそろ認めてもいいくらい分かっている。

 あまり意地を張り過ぎても、それこそ愛想を尽かされるだろうし。


「……難しいのよ。素直になるって」

「ま、土のラセットは頑固者ばかりですからね。たまには風のヴェールを見習ってくださいよ」


 見透かされたように言われ、ぐうの音も出ない。

 簡単にできたら誰も闇落ちしないわよ、と影の男を睨んだ。


「じゃあ、俺らはお役御免てやつですか?」

「いいえ。あなた達にはユリアーナを陰から見守る役をしてもらいたいの」


 影の男は目を丸くして瞬いた。


「最近、お友だちが増えたでしょう? 派閥の違う子もいるわ。だから万が一を考えて、よ」


 王宮のお茶会以降、何となくざわざわとしたものがある。

 それが杞憂ならばいいのだが、もしもユリアーナに何かあれば、私は簡単に闇に囚われてしまうだろう。

 だからできる事はしておくにこした事はない。


「承知。では光の公爵の元は撤退し、光のお嬢様を影から見守る事に致します」

「お願いね」


 影の男は笑みを浮かべて影に消えた。


 その夜、帰宅したカールハインツを呼び止め、ユリアーナが陰から見守る中昨夜のお礼を言った。


「マリー、その……。……いや、やっぱり何でも」


 何かを言いたそうにしながら口を噤んでしまったカールハインツに、ユリアーナが呆れた顔をしながら近寄ってくる。


「お母さま、私、今夜お母さまと一緒に寝たいです」


 言われた言葉に驚くが、勿論断る理由など無い。二つ返事で了承した。


「……おっきなベッドなら、お父様が眠れるスペースがなくもないかもですよ」


 ぽそりと呟いた言葉に、カールハインツの表情が驚きに変わる。

 ユリアーナ、それは卑怯というやつではないの?

 今更断るなどできるはずもなく、その夜から三人で眠る事になってしまった。


 ユリアーナが間にいるし、私とユリアーナが寝ているところの空いているスペースにカールハインツが寝ていると思えばまあ、いっか、と次第に慣れていくのだった。


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